酒と空き巣

シヨゥ

第1話

「待たれよしばし!」

 そう叫んだ。

「盗ったものを置いて行くならば警察には届け出ん。そのガラスの穴も不問にいたそう」

 相手は空き巣だ。仕事から帰宅するとうごめく影が一つ。照明をつけるなり空き巣と目が合う。見つめあうこと数秒。空き巣は侵入したであろう窓の方へと体を向けた。逃げられる。そう思ったと同時に口が動いていた。

「こんな時間に、こんなひとり住まいに警察を招きとうない。招かれざる客はおぬしひとりで十分だ。どうかその鞄の中身を出してはくれんか」

 呼びかけに空き巣はこちらに背を向けたまま身動きしない。

「ここまで言っても返してくれんのか。そうかそうか。ならばどうだろうか。晩酌の相手をしてくれんか」

 その提案には空き巣も驚いたのだろう。こちらを振り返る。

「酒は飲みたいがひとり酒は飽き飽きしていたところだ。晩酌の相手をしてくれるのなら手間賃としていくらか持って行ってくれてかまわん。どうだろうか」

 言い終わるころには空き巣は完全にこちらに向き直っていた。だが、こちらに歩み寄ろうとはしない。

「分かった分かった。もってけ泥棒。俺は酒をやるぞ」

 こうなったら自棄である。棚から酒と御猪口を取り出し空き巣の前に座った。さすがに空き巣はたじろぎ後退る。こちらが酒を呷ると目を丸くした。

「どこへでも行ってしまえ馬鹿野郎!」

 そんな空き巣をまくし立てる。酒の相手にならないなら邪魔者以外の何者でもない。空き巣にとっては絶好の好機。というのに空き巣は逃げていかない。それどころか目の前にどかりと座った。そして手のひらを突き出してくる。そして、

「酒をくれ」

 と渋い声を出す。御猪口を差し出し、注いでやる。すると一息で呷り、

「旨い」

 と声を漏らす。

「なんだ。分かる奴じゃないか」

 そこからはもう盗った盗られた関係なし。ただただ酒飲みの愉快な宴会に早変わり。酒は人を丸く平和にする。酒さえあればなんにもいらないのだ。

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酒と空き巣 シヨゥ @Shiyoxu

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