第116話 エピローグ

 卒業式当日。いつもの制服姿で集合した学院生徒たちの前で、まずは卒業生代表としてのマリア・アドラーのスピーチが行われた。

 マリアの話しぶりは実に堂に入ったもので、生徒たちから割れんばかりの喝采を浴びた。中でも狂ったように拍手していたのはレオナルドで、「やりすぎですよ」とシリルにたしなめられていた。


 続いて首席卒業生としてアーネストも短いスピーチを行った。こちらにもそれなりの拍手が贈られた。中でも一番熱心に手を叩いていたのはフェリシアである。型どおりの式典が終わった後、ビアトリスは二人の友人と互いに抱きしめあい、涙ながらに永遠の友情を確かめ合った。


「ビアトリス、辺境伯領に行っても私たちのこと忘れないでね」

「マーガレットこそ、時々は私たちのこと思い出してね」

「シャーロット、離れ離れになっても、私たちずっと親友よね」


 ちなみに卒業後、ビアトリスはカインと一緒に王立大学に通う予定なので、結婚してもまだ四年間は王都にいるし、カインと話し合って大学卒業後も年の半分くらいは王都に滞在することになっているし、マーガレットもジェイムズのもとに嫁ぐとはいえ、月に一度は王都に来る予定だし、シャーロットに至っては結婚相手のヘンリーが領地経営を代官に丸投げするタイプの領主なので、王都から一歩も動く予定はないのだが、こういうのはやはり気分の問題なのである。


 その後フィールズ家の双子の姉妹たちとも別れを交わした。

 跡取り娘のエルマはこのまま王都住まいだが、妹のエルザは隣国に留学するので、こちらは本物の涙の別れだ。何年かして留学から帰ってくるころには、エルザは立派なピアニストになっているのかもしれない。


 そして学院生徒たちはいったんそれぞれの自宅や寮に戻った。これから恒例のダンスパーティがあるので、ドレスに着替えるためである。




 ウォルトン邸に帰宅すると、ビアトリスは着慣れた制服を脱ぎ捨てた。

 もう二度とこれをまとうことはないと思うと、なんともいえない感慨がある。

 王立学院の生徒としての時間はこれで終わる。

 これからは新たな日々の始まりだ。


 侍女に手伝ってもらいながらカインに贈られたドレスをまとい、髪を結い上げ、月華石の首飾りを着ける。あの後、カインが宣言通りにルビーに真珠、エメラルドと言った宝飾品を次々に贈ってよこしたせいもあり、ビアトリスが月華石を身に着けるのは、スタンワース家の舞踏会以来のことである。


 やがてカインがビアトリスを迎えにウォルトン邸に現れた。

 カインは目を細めてビアトリスのドレス姿を褒めたたえたのち、月華石の首飾りについて、「今日はそれを着けたんだな」と口にした。


「ええ、今日は特別な日ですもの」


 今日はこの首飾りを着けると、前からずっと決めていた。


 カインのエスコートで学院内のホールに入ると、すでにみんな揃っていた。

 マーガレットはジェイムズにエスコートされて満足そうだし、シャーロットも嬉しげにヘンリーに手をゆだねている。

 エルマは最近できた婚約者にエスコートされており、互いにちょっとぎこちないのが大変初々しくて可愛らしい。エルザは王宮舞踏会の時も一緒だった従兄にエスコートされている。エルザいわく、今は留学で頭がいっぱいで婚約どころではないとのこと。


 そしてマリア・アドラーは案の定、レオナルドにエスコートされていた。愛らしいピンク色のドレスはレオナルドの贈り物だろうか。レオナルドの満面の笑みは、見ている方がなんだか恥ずかしくなるほどだ。

 見ればシリル・パーマーも二学年下の下級生をエスコートしていた。確か「知的な眼鏡が素敵!」と騒いでいた伯爵令嬢だ。


 そしてアーネストは当然のことながら、フェリシア・エヴァンズをエスコートしていた。アーネストは悠然とした笑みを浮かべており、フェリシアは若干緊張した様子ながらも、ぴんと背筋を伸ばして堂々としている。二人とも、まさに未来の国王夫妻にふさわしいたたずまいである。


 やがて音楽が始まった。


「行こう。ビアトリス」


 隣でカインが微笑みかける。


「はい、カインさま」


 ビアトリスも未来の伴侶に笑みを返した。

 そして二人は流れる音楽に乗って、ホールの中央へと滑り出した。




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関係改善をあきらめて距離をおいたら、塩対応だった婚約者が絡んでくるようになりました 雨野六月 @amenorokugatu

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