第29話 輝く光の中に〜最終話
1年後のアンナの命日の早朝、レオンはアンナのお墓参りにやって来た。
朝霧が立ち込め、辺りの景色は輪郭をなくしたようにぼんやりとしている。
その霧の中から垣間見えるレオンの歩く姿は頼りなげで、目は落ちくぼみ光を失っているかのよう・・・。痩せた体は風に吹かれると揺れているように見える。手をポケットに突っ込み、片方の手には真っ赤な薔薇を抱えていた。レオンは薔薇の花を墓前に供えた。
「アンナ、ちょうど1年が過ぎたよ。僕は相変わらずだよ。この前作った曲は君の想い出をかいたものなんだ。バラードの優しい曲で、先日はオーケストラで演奏したんだ。君が聴いてくれたらきっと喜んでくれただろう。
・・・アンナ、君に逢いたい。君を忘れることなんか出来ない。何をしていても・・・。ピアノを弾いている時は一緒にいると言ってくれたね。僕も君のことをいつも想っているよ。寂しいよ、アンナ。逢いたくてたまらないんだ。僕はこれ以上一人で生きていけるか不安なんだよ。」
レオンは墓の前に座って語りかけ、そのまま何時間もそうして座っていた。
昼過ぎになって、アーニャはようやく墓参りに訪れた。アンナの好きな淡いピンク色のバラの花束を抱えて。
レオンに会えると思っていたので、墓の前に座っているレオンの姿を見つけると、レオン!と声をかけた。
レオンはじっと動かない・・・。静かな微笑を浮かべ、目はすうっと遥か彼方を見つめている。
「レオン、レオン!」
アーニャはレオンを揺さぶり、思わず息をのんだ。
アーニャの視線はゆっくりと、レオンの見開かれたままの目からアンナの墓へ移った。
レオンの肩にもアンナの墓にも花びらが積もっている。
アーニャは舞い落ちた花びらが頬にふれるのを感じて我に帰った。
アーニャはぼんやりと空を見上げた。
春にしては冷たい風が吹き、一斉に桜の花びらが宙を舞う。その風で深紅の薔薇の花びらも高く舞い上がった。アーニャは、その中に、一瞬、アンナとレオンの姿を見た様な気がした。
アーニャの魂は、何かの大きな音を発して揺れ動いた。
哀しみの中にいるはずなのに、何か湧き上がる様な感覚に襲われながら。
アーニャははっきりとした声で言った。
「アンナ・・・、レオン・・・、ありがとう・・・。」
熱い涙がアーニャの頬を伝わり、涙で霞んだ瞳で花びらの舞い上がる様子を見つめていた。
すぐそこに微笑みながら佇む、アンナとレオンを感じて・・・。
終
アンナとレオン永遠の旋律 織辺 優歌 @poem_song_6010
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