第11話 王都へ
二人が村を旅立ち学園を目指してから三日が過ぎた。意外と早く港町に着くことができた俺たちだったが、そこで新たな障害にぶち当たる。
『えー、それじゃ乗船料は二人合わせて……』
そう、乗船料が全く足りなかったのだ。というか、アベルに関しては無一文である。そしてさらに驚いたのが……
『あー……私もあんまり持ち合わせがないわね。というか、一人だったとしても純粋にお金が足りない』
船の出航数も限られているので、さすがに焦りだす二人。なんとか金策を練ろうと町の仕事掲示板を片っ端から急いで見渡した。大抵が賃金が低いものだったが、二人はそこで運命のような巡り合わせをする。
——貿易船の護衛募集中!——
『『これだ!!!!』』
思わず二人そろって声を上げてしまった。
一応試験的なものがあるのだが、俺たち二人は適当な魔術を使ってそれを難なく突破。ミラに関してはその試験で軽く満点をたたき出した。
『こりゃ、頼もしい護衛が手に入ったぜ』
一見頑固そうな船長も、二人のことが気に入ったのか船の上で色々なことを教えてくれた。海で出現する魔物の種類とか、船酔いした時の対処法とか。二人にとってこの船での二日間は貴重なものとなった。
特にアベルにとっては誰かと話しながら旅をするなど五年ぶりなので、とても懐かしさを覚えるものとなった。最後に誰かと旅に出たのは、父と魔術適正の検査に行ったときだろうか。
道中海に潜む魔物に襲われたが、ミラが張り切ってそれを撃退。アベルもかなり奮闘し、ますます船中の歓声を浴びていた。そして、二日間が終わり二人はとうとう王都へ到着する。
二人が到着するころにはすっかり日が暮れており、満月に照らされた王都が僅かながらに見えるだけだった。
「坊主、それに嬢ちゃん。ここでお前らの護衛任務は終了だ。色々大変だったが、よく依頼を遂行してくれた。船を代表して例を言っておくぜ」
船の入り口で、二人は船長に呼び止められる。そういえば、護衛料をもらうのを忘れていたのだ。アベルは小さな小袋を両手で受け取る。
「そん中に今回の給料が入ってる。ま、有意義に使いな」
「「ありがとうございます!!」」
そうしてすぐさま船は別の町へと出航した。それを見送った二人は、改めてこれからの予定を確認する。
「えっと、さすがにこの時間に受け付けはやってないから、今日は適当な宿に泊まりましょ。そして明日の朝イチで受験登録をしに行くわよ」
「わかった。とりあえず急いで宿を探そう」
二人は所持金を確認するため船長に貰った小袋の中身を確認する。アベルがもらった給料だけでも今夜の宿には困らなさそうだ。唯一救いなのは、学園の受験に受験料が掛からないところだろうか。
そうして二人は港近くの宿屋に宿泊することにした。結構ボロボロだったが、雨風を凌げるだけでもマシというものだろう。ミラがどうなのかはわからないが、アベルが今まで過ごしていた鉄塔は少なくとも風が入りたい放題だった。
「それじゃ、また明日」
「ええ、おやすみ。いい? 寝坊して受験申請ができないなんてことがないようにね」
「わかってるよ」
そうして俺たちは久しぶりに揺れないベッドの上で横になる。さすがに部屋は別々だ。本来なら一緒の部屋に泊まり折半した方が安上がりなのだろうが、船旅続きの体を休めるためにきちんと別れた方がよいと判断した。
そうして、夢を抱いたまま夜が明ける。
※
次の日、朝日が昇ると同時にアベルは起床した。ゆっくりと体を起こして調子を確認する。
「うん、特に異常はないな」
魔力欠乏症のせいでこわばっていた体も船上にいる間に何とか戻すことができた。硬くなった体を軽い柔軟をしながら目覚めさせ、ゆっくりと体温を上げていく。
「さて、とりあえず朝食でも……」
そう言って俺が扉に手をかけようとしたとき
「アベル! 起きて……るわね」
ほぼ同じタイミングでミラが俺の部屋へとノックなしに入ってきた。なんというか彼女は若干のマナーが掛けている気がしないでもない。
「おはよ、ミラ。いよいよだね」
「ええ。昨日のうちに道は確認しておいたし、急げば一時間くらいで着くわよ」
「へぇ、一時……一時間!?」
アベルはその移動時間に驚いてしまう。二人が現在いる宿と学園は同じ王都に点在している。だからそこまで時間はかからないと思っていたのだ。
「ああ。アベルは王都についてあまり知らないんだっけ。それなら、ついてきて。私の部屋からなら王都がよく見渡せるわ」
アベルの部屋は隣の建物が並んでおり日当たりが最悪だった。だから明るくなっても王都の様子を確認することができなかったのだ。
アベルはミラの部屋へと移動し彼女の部屋から改めて王都を眺める。
「ほら、見てみて!」
「うおお……」
昨日は深夜でよく見えなかったが、改めて王都を一望することができた。広大な土地を利用して建物が見えないほどまで広がっており、その端が見えない。中心には、王の居城である白亜の居城が輝いて見えた。
「さて、ここから学園に行くにはあの城の向こう側に行かなきゃならないの。だから、わかるわね?」
「ああ。あそこまで行くのに歩いていたら軽く一時間が過ぎてしまうな」
「そういうこと」
それなら、早めに行動を起こした方が良さそうだ。とはいえ……
ぐぅぅぅ~
アベルのお腹の音が鳴ってしまった。鉄塔から出てからというもの、口に入れるものすべてがどんな高級料理よりも美味しく感じてしまう。昨日は夕飯にありつけなかった分、胃が食べ物を求めている。
「あら、可愛い音ね。一階の食堂はもう開いているし、早く食べてここを出ましょ」
「ああ、急ごう!」
こうして俺たちは宿の食事に舌鼓を打つのだった。
魔術適正ゼロの落ちこぼれ、異端の力に目覚めて学園無双 在原ナオ @arihara0910
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