第10話 これから


 アベルとミラは村で一泊をし、できる限り朝早くに身支度を整え再び旅立つことにした。


まだお礼が十分済んでいないと村の人たちに引き止められたが、さすがに恥ずかしいので人が少ない時間に村を出ることにしたのだ。それにはミラも同意してくれたし、荷物も少なかったためスムーズに村から出ることに成功した。


 そして村からしばらく歩いたところで、ミラはアベルに話しかける。



「アベル、体大丈夫なの?」


「ああ。むしろ調子がいいくらいなんだ」



魔力欠乏も一晩寝ればすっかり治り、もともと怪我などもしていなかったため体長は万全だ。しかも、久しぶりにまともなご飯にありつけたため栄養状態も問題ない。



(というか、俺……少しだけ強くなった?)



 死線を潜り抜けたからか、それとも魔力が尽きるほど魔術を行使したためかは分からない。だが以前よりも明らかに体内の魔力が増えていた。それに加えて、少しだけ体が頑丈になった気がする。まあ、それについては追々確かめていけばいいだろう。



「それでアベル、あなたはこれからどうするの?」


「えーと……どうしようかな?」



 思わずアベルは疑問形で答えてしまう。今後の旅については無計画だ。いや、もともと命の危機を感じ何も考えずに家を飛び出てきたのだが、それにしてもあまりに何も考えなさ過ぎた。



「学園長に熱烈なスカウトを受けてたわよね?」


「あれは、スカウト……だったのかなぁ?」



 何というか、素晴らしいおもちゃを見つけた子供のような表情をしていた。正直に言って、あの学園長のことが百パーセント信用できているわけではない。だからこそ、これからの決断に迷っているのだ。



「私はもともと行き当たりばったりの身だったし、セントリア魔術学園の名前を出したのもその場凌ぎだったの。所持金もそんなに多くないしやりたいことも特にない。だからセントリア魔術学園への進学は選択肢の一つとして挙げていたに過ぎなかった」


「へぇ―そうだったんだ」



 セントリア魔術学園は世界に数多く点在する魔術学園の中でも最高峰の研究機関といわれており、多くの志願者がいることでとんでもない倍率になっている学園だ。


 アベルの記憶が正しければ、五年前の時点でその倍率は50倍を超えていた。あの時より魔術の研究が進んだとなると今の倍率はさらに増加しているかもしれない。


 あの学園の入学試験はとんでもなく高難易度だと聞いたことがある。筆記と実技を合わせて、相当ハイレベルな実力が求められるのだとか。



「うーん、でも今考えてみるとセントリアへ入るのもいい選択肢かもしれないわね。確かあそこは入学試験の成績優秀者には学費免除の権利が与えられるし」



確かにミラの魔術の腕前なら主席合格も不可能ではないだろう。すべての属性の魔術が使えるなんてとんでもなくレアな存在だし、むしろ是非とも入学させたい存在だろう。



(それにしても、学費免除かぁ)



 旅に出ると決めたアベルだったが、その路銀はいまだゼロだ。村を出るときに多少の食料を分けてもらったがそれも二日分だ。当初は狩りをしようかと考えていたが、やはりそれも現実的ではない。



(渡りに船……そう信じてみるしかないか)



 だから俺は、決める。



「決めたよ、俺もセントリア魔術学園の入学試験に参加する。俺もこの先どうなるかわからない身だし、数年間とはいえ生活が保障される学園はありがたいしね」


「そうか。それなら、私も検討してみようかしら。どうせこのまま旅をしてても野垂れ死ぬだけかもしれないし」



「……」



 そういえば今更だが、俺はミラのことを何も知れない。どうして危険が蔓延る魔境の森を横断してきたのか。そもそもどこから来て何のために旅をしているのか。もしかしたら彼女も、自分と同じような何かを抱えているのかもしれない。



(それを聞くのは、まあ野暮だよな)



 ミラが話してくれるならまだしも、こちらから聞くのはさすがに失礼だ。逆にミラに自分の事を聞かれてもあまり話せない。結局は中途半端な信頼関係なのだ。とりあえず、今はそれに縋ることにしよう。



「確かセントリアがあるのは王都だよな?」


「ええ。村の人の話では近くの港町から王都行きの船が出ているらしいわよ」



 それなら、次の目的地は決まった。アベルとミラはもう少し一緒に旅をすることになった。



「それで、港町まではどれくらいなの?」


「えーっと、あの村から徒歩で一日半で、王都までは船の上で二日過ごすことになるわね。そして、肝心の入学試験の受付期限まで……」


「うん」


「残り四日よ」


「いや、結構ギリギリじゃん!?」



 それなら、こんなところでゆっくりと歩いている暇はなさそうだ。転移を使おうかと思ったが、行ったことがない場所へは飛べないし、まだ魔術の使用は避けるべきだと判断した。それに、自分の足で知らない場所を歩いてみたいのだ。



「ま、目的は合致したということで、改めてよろしくねアベル!」


「こちらこそ。よろしく、ミラ」



 こうしてアベルとミラは荒野を数時間以上かけて歩き、港町を目指すのだった。











——あとがき——

あけましておめでとうございます!


今年もまだまだ執筆をつづけていくつもりなのでどうぞよろしくお願い致します。

引っ越しやら期末テストが近づいてきているので余裕がある時期とない時期がだいぶあり更新にムラが出ることが予想されますが、暇つぶし程度に見ていただければ幸いです。


さて、今年が皆様にとって良い年になるようにお祈り致します!

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