第18話 Touch Down

 眩しい朝日が顔を出す。、窓が大きいせいなのか、クーラーが切れていたせいなのか、部屋はすぐに暑くなり、僕は息苦しさの中、起きた。隣には誰もいない。部屋にも誰もいない。


「先輩? せんぱ〜い」


 僕はリビングと先輩の部屋が繋がっているドアを開けながら呼びかけた。誰もいない。なぜだろう。寂しさと虚しさだけが込み上げてくる。昨日の出来事はなんだったのか考えながら、勝手に冷蔵庫を開けいつも常備してあるペットボトルの水を飲んだ。もし記憶が戻っていたのなら、昨日のことは簡単に説明がつく。だが、もし戻ってない場合、あれは一体なんだったのだろうか? 先輩の中に眠っていた性欲やフェチシズムだけが戻ってきたのか。それなら僕は先輩の性の吐口という事になるだろう。正直、それでいい。ノンケの先輩に抱いてもらえるならそれ以上のことは望まない。でもそれでは先輩の彼女に申し訳なくなる。今でも罪悪感でいっぱいなのに。鍵を開ける音が聞こえた。


「ただいま〜。お、ようやくお目覚めか」

「はい。すみません。先輩、どこに?」

「エスプレッソマシンが壊れててよ、下に買いに行ってた。お前も飲むだろ?」

 ブラックコーヒーを渡された。

「ありがとうございます」

「お前、ブラックだったよな?」

「え。先輩記憶……?」

「なんかちょくちょく思い出してんだよね」

「じゃあ、僕と付き合っ……あ‼︎」

「やっぱお前だったのか‼︎ お前か〜」

 先輩が落ち込んでいるように見えた。きっと先輩が思い描いてたのは女の子だったのかな。

「……すみません」

「いや、まあ…」

「何かあったんですか? きっかけとか?」

「彼女とさ、ビクトリアピーク登った時になんか懐かしいなって思ったら、急に百万ドルの夜景が見えない画像と『だから言ったじゃないですか〜』っていう声が、こう、頭の中に、響いたんだよね。あと、やっぱあの下着かな。俺のこと変態って思ったかも知んないけどさ、実はあん時、お前のその、膨らみ見た瞬間にすっげー興奮してさ。で、お前、トイレに自分のブリーフ忘れてっただろ? それ見つけたらさ、無性に匂いが嗅ぎたくなって……嗅いだらエロ下着履きながらエッチしてるのを思い出して、でもそれもまた誰かわかんなくてさ。で、賭けに出てみたわけ」

 少し恥ずかしそうにいつものように歯を見せずに口角だけ上げる笑顔を僕に見せながら先輩はコーヒーを啜った。

「いや、普通に聞いてくれたらよかったじゃないですか?」

「まあ、でもあれはあれで良かったじゃん? 俺たちめっちゃ相性いいな」

「まぁ……そうですけど。でも僕先輩の彼女に申し訳ないです」

「お前のことだからそう言うと思って、昨日お前と会う前に別れといた。もうあいつ日本に帰ってて、電話でだけどな」

「それなら良かったですけど……」

「お前のせいだから責任取れよ」

「え?」

「お前が俺の彼氏になるんだよ。一樹」

「先輩……」

「奏太くんだろ?」

                                        

                                          おわり

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プリコーショナリーランディング ミケランジェロじゅん @junjun77

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