第2話 依頼件数が5件?冗談…じゃない
枕横の振動源が、眠りを妨げたため目が覚めた。
マナーモードにしていたはずだったので、電話の着信以外ではスマートフォンが震えるようなことはないのだが。
気になってスマートフォンを手に取る。
…なんかめちゃくちゃ着信あるんだけど。もしかして、昨日登録したレンタル彼氏のサイトが、詐欺サイトで迷惑電話がかかってきているのだろうか。だとしたら顔写真もネットに流失してそうだ。最悪だな、これは。
そう思いながらも、何件かかかってきていた電話番号をネット検索にかける。直ぐに折り返すようなことをはしない。すると、どうやらレンタル彼氏の登録会社からの電話だったことがわかった。…ひとまず安心していいのだろうか。
そんなことを思っていたら再びスマートフォンが震える。こんな朝早くに…と思っていたが画面に示されていた時刻は12時25分。なかなかいい時間帯まで眠っていた僕のせいで、こんなに着信させる羽目になったのだろうかと会社側に申し訳なく思い、すぐに通話を開始する。
「はい、もしもし」
「あっ、やっと繋がった。あ、すみません。私レンタル彼氏代行サービスdarlingsの渡辺と申します。西村様の携帯電話で間違いないでしょうか」
「はい、間違いないです。すみません。何度も電話をいただいていたみたいで…」
電話口から聞こえてきたのは、20~30代くらいの男性の声だった。女性だったならば多少緊張していたかもしれないので、低い声に安心した。
「その、実は西村様宛の依頼が入っているのですが、確認の方はされていますでしょうか?返信がこないとお客様から連絡がありまして」
「…え?すみません、今起きたばかりで、確認してみます」
「あ、でしたら先にこちらからお客様に、後ほど連絡があるとお伝えしておきます。今後ともレンタル彼氏代行サービスdarlingsをよろしくお願いいたします。失礼いたします」
よくわからないが、ありがたいことに僕宛ての依頼があったということで受け取っていいのだろうか。やはり料金を最安値にしておいてよかった。
少しばかり高鳴る胸を抑えながら、サイトを開く。…なんか画面のロードが長いな。昨日はサクサク進んだのに、多くの人がアクセスしているのだろうか。
待つこと30秒ほど。ようやく画面が開き、依頼欄を確認する。
「は?」
依頼件数5。その数字のインパクトが強すぎた。登録して1日も経っていない現在でこの件数は、流石に最安値と言えども多すぎる気がする。
最初に依頼をくれた人は…今朝の5時?そんなに早くから依頼をくれていたのか。早く返信しないと申し訳ないよな。…でも女の人とメールしたことないしどう返せばいいんだ。ここでも女の子と接する機会の少なかった学生生活が仇となった。
業務連絡みたいに返せばいいのか、それともフランクに返すべきなのか…。
数分ほど悩んだ結果、とても堅い文章ができあがっていた。でも仕方がない、これ以上待たせるのも失礼だろうし。
送信ボタンをタッチし、また、次の依頼を、開く。本当に依頼に関するメッセージが送られていて驚きしかない。最初に依頼をくれた人と同じように返信する。それを残り3人にも同じように繰り返した。
気づけば13時になっていた。起きてから電話に出て、依頼への返事を行っていたことで気づかなかったが、腹の虫が鳴ったことでお腹が空いていると実感する。
今日は平日。両親が共働きゆえに家には僕1人だった。料理が得意というわけでもないので、食事はカップ麺を選択し、お湯を沸かす。
お湯を沸かす時間に依頼者からの返信がないか確認してみる。
1件返信があったようだ。こんなに早く返信が来るのが嬉しいものなのかと、「恋愛心理学に関するメールについて」という番組を見ていたときは、よくわからなかったが、今はメールが来たことの嬉しさについてわかった気がする。
「西村さんへ
明日私の仕事が休みなので、都合が合うようでしたら、明日1日依頼したいのですがよろしいでしょうか」
明日1日?高校を卒業してからバイトをしたいるわけでもないので、特に用事がないことを確認してから返信する。
「優佳さんへ
明日の都合ですが問題ないです。
1日とのことですが、何時から何時まででしょうか。」
返信をしてから数分でメッセージが返ってきた。お湯を沸かし終えたので、カップ麺に、注いだ後、メッセージを開く。
「西村さんへ
朝の9時から夜の18時までお願いしたいです。よろしくお願いします。待ち合わせ場所は○○駅で大丈夫ですか」
「優佳さんへ
わかりました。
それでは、明日9時に○○駅ということで承ります。明日はよろしくお願いします。」
たった数度のメッセージのやりとりにも関わらず顔が緩んでしまった。明日の朝9時から18時までって相当長いけど、最安値だから他の人より長時間レンタルしやすいっていうメリットを有効活用してくれたのだろうか。何はともあれ明日が楽しみだ。
それから、2人目、3人目の依頼者からのメッセージも返ってきていたため、急いで返信する。そのやり取りを繰り返すこと数十分が経過した。
食べようと思っていたカップ麺の麺がかなり伸びきっていた。
女の子とろくに喋ったことないのにレンタル彼氏はじめました @kinokogohan
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