第2話

 1年後。

 村瀬組が解散して山田は東京に戻ることを許される。上層部の人間が次々変死したことが解散の理由らしいが、詳しいことを俺は知らない。本当に知らない。俺はクスリをやめた。

「結婚しました」

 事務所に挨拶に来るなり、山田が言った。田鍋さんが飲んでいたコーヒーを取り落とす。それ以外にもそこかしこで組員たちが色々なものを落としたり投げたりしている音が聞こえてくる。

「真砂さんにすすめられて。俺みたいのには配偶者見張り役がいた方がいいだろうって」

「は……」

 それはおめでとうとか相手はどんな女やねんとか田鍋さんも知らんかったんかとか色々な感情で頭がぐるぐるになっていると、髪は切ったが切ったというか整えられることで顔面に相応しい綺麗な烏の濡れ羽色の長髪を持つ人類になった山田が俺の耳元にくちびるを寄せ、ちいさく囁いた。

「それでおまえは、今も俺が嫌いなのか?」

 クソ野郎ぶち殺すぞと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

半々 大塚 @bnnnnnz

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説