温泉に入りに行ったり、ショッピングモールへ買い物に行ったり。そこで陽平に出くわすこともあり。そんな帰省の日々はあっという間に過ぎ、気がつけば帰る日が来ていた。



 来る時よりも増えた荷物を俊幸おじさんの車の後部座席に置く。




「心ちゃん、あげる」




 助手席に乗ろうとすると、優輝に抱かれている未来が一枚の紙を俺に差し出してきた。その紙にはクレヨンで二等身の男の子が描かれていた。




「あ、もしかして」

「心司を描いたんだって。初日からは考えられない懐き具合だよ」




 優輝の解説に何だか照れたような未来。俺はその絵を受け取り、柔らかい未来の頬を人差し指で突いた。




「ありがとうね」

「どういたまて」

「どういたしまして、よ」

「どういたまて」




 佐奈さんが訂正するが、未来の口にはまだ難しいようだ。




「年末年始、帰れるようになったら連絡してね」

「うん。わかってるよ」




 車に乗り込み、窓を下ろすと佳子おばさんが顔を覗かせる。さらに、その横に昌幸おじさんや真智おばさんも入ってくる。




「心司! ちゃんと飯食うんだぞ!」

「心ちゃん、風邪引かないようにね」

「大丈夫、子供じゃないんだから」




 危うくオッサンなんだからと言ってしまいそうになるところだった。




「じゃあ、そろそろ行くか」




 運転席に座る俊幸おじさんがエンジンをかける。




 名残惜しいが、フライトの時間は決まっている。遅れるわけにはいかない。




「そうだね」

「心司」




 窓を閉めようとしたとき、佳子おばさんが再び口を開いた。




「別に正月以外にも勝手に帰ってきて良いんだからね」




 目を細めるおばさんに、俺は静かにゆっくりと頷く。




「うん、ありがとう」




 窓を閉め、車が発車する。




 バックミラーに写る佳子おばさん達の姿がだんだんと小さくなり、角を曲がって完全に見えなくなってしまった。




 信号で止まると、俊幸おじさんが口を開く。




「次は正月かー」

「多分帰れると思うけど。別にこっちに来てもいんだよ。ちゃんとおもてなしするから」

「もてなされる前に、迷ってお前の家に行きつけないよ」

「その時は俺が迎えに行くから」




 信号が青に変わり、再び車が動き出す。




「どうだ、いいリフレッシュになったか」




 俺は過ぎていく外の景色を見ながら答える。




「うん、とても。おじさんたちに引き取ってもらえてよかったなって改めて思った」

「なんだ今更。恥ずかしいじゃないか」




 動揺しているのか、一瞬車が白線に乗って車体が揺れた。




 車内がなんだか暑かったので、エアコンの温度を二度ほど下げる。




「俺も、お前をこの家に迎えられたことは最高の幸せだよ」

「何だよ」 




 自分が最初に振ったが、俊幸おじさんのその言葉に何だかこっちも照れてしまう。




「暑いなあ」

「エアコン、もっと下げろ」

「そうだね」




 と、俺はモニターの数値を減らした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

君を迎えに 雨瀬くらげ @SnowrainWorld

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ