最終話 百日紅の咲く庭で

「お父さーん! 百日紅さるすべり、咲いてるよー!」


庭ではしゃぐ孫たちの元気な声が響き渡る中、君が僕へと声をかけた。

声の方へと顔を出し、幸せそうな光景に思わず頬がゆるんでしまう。

薄桃色の花びらがひらひらと舞っていて。いつか見た景色はきっと、時代を超えて巡るもの。

あの木の名前を教えられたのは、つい先日のことだった。


「ねぇ、お父さん。この木の名前、知っている? 百日紅さるすべりっていうんだって。花言葉は『あなたを信じる』。とっても素敵な言葉じゃない? きっとこの庭は、『あなたを信じています』『たくさんの愛であなたを支えます』っていうお母さんからのメッセージなのね。お父さんとお母さんは、私の永遠の憧れよ」


あぁ、貴女の愛した花が咲いている。

はしゃぐ子供をあやすのは、貴女によく似た僕らの娘。

それを優しく見守る彼ならば、この先きっとあのとの幸せを共にきずいていけるだろう。

貴女が望んだあのの幸福を、守り通すことができたのだとようやく思えたよ。

あのが貴女と僕を理想と語ってくれる。

僕は本当に幸せだ。


いつまでもこの庭で、彼らを見守り生きていこう。

この命が尽きるまで。



***



つるりとすべる木の近く、君はくるくる踊ってる。

散った花びら集めて放り、夏の雪だと大はしゃぎ。

名前も知らぬその花が、君の笑顔を連れてきた。


髪についてる花びら払い、つんとほっぺた触れてみる。

君のはにかみいとおしく。


疲れ木陰で休もうと、僕らの後に並ぶのは。

幸せ色の2本線。

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百日紅の咲く庭で 井上 幸 @m-inoue

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