第2話
春休みなのだから春先だが、与那国島は南国である。この季節にも余裕で海で泳げるし、この島で随一のアクティビティはダイビングであった。二人とも心得があるので、たっぷりと楽しんだ。ちょうどハイシーズンである。ハンマーヘッドシャークも見れたし、運よくジンベエザメにも遭遇することができた。
さて、遊ぶだけ遊んだら宿である。この島にラブホテルなんてものはもちろんない。石垣島まで行けばあるらしいが……って、そんなことはどうでもいいな。普通のホテルもろくにない。何しろ辺境の地なので。投宿する先は民宿だった。はっきり言ってしまえばろくな民宿ではない。ボロい。ベッド二つの洋室と畳敷きの和室があったが、和室にした。そっちの方が広かったので。
小さな島のことなので、そんな気の利いた飯屋もなければ飲み屋もない。まったく一つもないというわけではないが、目当ての店がたまたま定休日だったりもして、結局たいしたものは食べられなかった。まあいいけど。そういう目的でこの島を選んだわけではないし。
さて、夜になる。男二人である。俺はいちおう、以前北海道のラブホテルのベッドの上で尾花に手でしごかれてあっけなく花を散らせてしまったという苦い記憶があるので、多少は警戒していた。まあ、仮に今ここにほとりと一緒に居たら手でしごかれるくらいの話じゃ済まなくなるのは分かりきっているわけで、こっちの方がましではあった。少なくとも、俺はそう思っていた。……これを言われるまでは。
「なぁ、惣也。お前さ、ほとりちゃんにフェラチオってしてもらっとるか?」
「……何を言い出すんだ、いきなり」
「何って猥談やんけ、猥談。男二人、夜中に他にする話あらへんやろ。で、どーなん」
「してもらってるよ」
しかもほぼ毎日、とまでは教えない。
「上手?」
「……かなり」
相手は親友で幼馴染だが、こんなことまで教えてしまっていいのだろうか。まあ、実際かなり上手なんだけど。
「俺もなー。ミサキによー言われるねんけど」
「なにを?」
「もっとフェラ練習して上手ぁなれて。厳しー話や思わん?」
「……」
そうか。お前の方が、する側なのか。
「でも俺、それなりに頑張ってるつもりはあるのよ。練習もしてはるし。で、な。ちょっと試しに、比べてみてくれん? 俺のとほとりちゃんのと」
「断る」
と、言ってみたが無駄だった。向こうの方が力が強いのである。布団の上に押し倒された。浴衣しか着ていないので、まくられる。下着はつけていない。手が、俺のものに触れる。
「ふふ。今日は手ぇだけで、いってもーたらあかんで」
「待ってくれ。頼むから。後生だから」
「んー?」
既に手遅れだった。俺を生んでくれたお母さん、俺を男にしてくれたほとり、惣也はなんか人として超えてはいけないラインを一つ、たった今超えてしまったみたいですごめんなさい。
「ちょっと、待って……! ダメ、そこ、同じとこばっかりはダメだから……!」
普段ほとりにやられている場合と比較した場合と比べてもびっくりするほど早く、俺は腐れ縁の幼馴染の口内に精を放っていた。そのまま飲み下される。
「んっく。ん」
「他人の栗の花は臭くて嫌なんじゃなかったのか」
「いや。もー慣れてもーたわ」
「……あ、そう」
「満足したかいや? 何なら、俺、後ろの方ちゃんと準備してきてあるけど――」
「やめてくれ」
俺の幼稚園以来の親友はいつの間にやらだいぶ遠いところまで行ってしまっていた。俺も既に両足を突っ込んでいるような気はしなくもなかったが、まあそれはそれ。
「で、俺たち、これ大学に戻ってそのあとはどうなるんだ?」
「どうもならへんやろ。惣也にはほとりちゃんがいて、俺にはミサキがおるねん。今日のことは、ほんの息抜き。それだけやで」
「そ、そうか」
多少釈然としないものを残しつつも。
結局、俺たちはまた、元通りの大学生活へ戻っていった。
行くよな?与那国島。 きょうじゅ @Fake_Proffesor
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