行くよな?与那国島。
きょうじゅ
第1話
21歳で大学生の俺に春が訪れた。初めての彼女というものができたのだ。二つ学年が下で、つまり同じ大学の一年生。
「
ほとりは俺よりもずっと、というか俺は童貞だったのだからゼロでありゼロの上はいくつであってもゼロよりは上になるが、それにしてもかなり経験豊富だった。俺は男子校出身だが、向こうは共学の高校に通っていたそうだ。俺がほとりにとって何人目の彼氏なのか、ということは聞いていない。しかし、とにかく、俺が男子21歳にして本懐を遂げ、無事童貞を捨てたことは事実である。
一方、同じ大学に俺の悪友で幼稚園からの幼馴染である
「はっじめまして、惣也先輩。あたし、
こいつも俺を先輩と言っているが、こいつは二年生で、俺よりも一学年下、ほとりよりも一学年上である。が、そんなことはどうでもいい。もっと重要な問題があった。
「知ってるよ。お前、塩野
名前が漢字になって、少し違和感を感じられた方もおられようかと思うのだが。
実は。
「ええ、あたしは男です。ですけど、それが何か?」
塩野実佐樹はいわゆる『男の娘』という種類の人間である。完全に女そのものという女装はしないが、しかし男と確定するような類の服も着ない。ユニセックスなファッションを貫き、そして顔にはばっちり化粧をしていて、爪にもなんか塗ってる(俺はあまりそういうことに詳しくないからよく分からないが)。
「尾花。本当にいいのか? 本当にお前、その選択で後悔はないのか?」
「あらへんよ。あったら付き合わんわ」
「そうか……」
俺もいわゆる女顔の美形の男で、実佐樹と俺とでは面影に相通じるところがあるような気がする、という考えは恐ろしすぎるので心の中に封じることにした。
そして、半年ほどの歳月が過ぎる。春休みがやってきた。
「なぁ。尾花。どっか旅行に行かないか? 二人で」
「二人でか? ほとりちゃんはええんか?」
「ええのだ。たまには一人になりたい」
ほとりは、必ずしも俺としてそれに文句があるというわけではないのだが、付き合い初めて分かったのだがかなりの好き者だった。いま半同棲状態なのだが、正直ああも毎日毎日それも何発も何発もでは、身が持たない。というわけで、息抜きがしたかった。女抜きで。
「とはいえ。お前も、ミサキを置いてって大丈夫か?」
「……大丈夫や。俺もたまには男だけで気楽な休みを過ごしたいときもある」
ミサキも男なのでは? と思ったが、そのツッコミはヤボなので口にしなかった。
「で、どこにするん。また宗谷岬か?」
「いや。あそこは二回も行く場所じゃないだろ。南にしよう」
「というと、沖ノ鳥島が最南端やけど」
「旅行で行ける場所じゃないよ、そこは。だから最西端。与那国島にしようぜ」
「わかった。いつ行く?」
「来週」
「おっけー。ミサキには、学会に行くとでも言って誤魔化すことにするわ」
「俺もそうするかな」
というわけで、話はまとまった。
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