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「顔に出てますよー。さて、戻りましょうか」

 着いた場所は隠し部屋。

 どこにどう隠し持ったのか、キッチンに行き、集めた食材を置いていく。

「ちょっとお使いに行ってきてください。角のパン屋さん、あそこ美味しいんですよぉぉ、今ならまだ、限定の柔らかフランスパンがあると思うので買ってきてください」とお金を渡される。

 焼かないのかよ……と思わないわけでもなかったが、まだ辞めた訳では無いので、お金を受け取りパン屋まで歩いていく。

「めっちゃ混んでるし……」

 店内から出てくる人のほとんどがフランスパンを持っているので、あれが言っていたやつか……と思い、三十分並んでやでと一本購入。

 パンを抱えて街中を歩く俺。

 すれ違う人の視線が痛い!

「ただいま」

「おかえりなさいー。今から煮込むところですから、座っててください」

 そう言ってヤギの乳をドバドバと鍋に入れ、ローリエの葉を上に置いて、鼻歌を歌いながら木べらで混ぜる死神……

「これはですねぇ、弱火でじっくりと、コトコトと煮込むんですが、時間をかければかけるほど、あぁ、もうヨダレがでそうです」

「ヨダレいれるなよ?」

「もちろんですともー」

 ふんふんふんと機嫌が良さそうなので、近くにあった雑誌を見ると、死神通信Vol.2となっていた。

 死神にも週刊誌あるのか……

 パラッとページをめくっていくと、『男性人気死神TOP10』と書いてある三位にアギトの写真。

「うそ!」

「んんん? ああ、これですか。残念ながら三位でしたが、三位の特典の温泉旅行券を貰いました」

「死神温泉とか?」

「ありますよ? 他にも、地獄温泉、天国温泉、黄泉温泉に、人間界各地の温泉施設で使えます。一緒に行きますー?」

「絶対にヤダ」

 シチューのいい匂いがしてきたが、ヤギの乳でのシチューって臭くないのか? と少し疑問に思う。

「そろそろいいですかねぇ」といくつかの調味料で味付けしたものを、小皿で味見し、「むっふぁーぁー」とご満悦のアギル。

 パンを切ってバスケットに綺麗に並べ、さぁどうぞと置かれたのは、明らかに手作りであろう木のスプーンに、木の器。

 飲み物はアルプスで汲んできた水。

 まず、水を一口。

「うまっ!」

「でしょう? 本当の天然水ですから」

 シチューもスプーンに少し。

 匂いを嗅ぐとそんな臭くない。

 パクッと口に入れると、ホクホクのじゃがいもに、甘みの強い人参。とろとろの玉ねぎがスープにとてもあっていて、しかも懐かしい味……

「どうですか?」

「思ってたより臭くないし、いつも食べてるシチューとなんか違う。優しい味がする。ばあちゃんが作ったちょっと薄い味のシチューっていうか……素朴な味っていうか」

「そーーーぉなんです! 最近のものは、何やら色んなものが入った粉や固形の素で作るでしょう? 僕も何種類も試しましたが、やはり昔から用いられた材料で作るのがいちばん美味しいんです! 今日の素材は全てアルプス!アルプスの恵みのシチュー! お変わりは沢山ありますよぉ。さ、遠慮せずどんどん食べて……グフッ」

「落ち着けって」と水を渡すと、「失礼」とハンカチで口を拭いてから、「何が言いたいかと言いますとね、今回の素材は、同じ地域で取れたものを使ってるんです。その土地で取れたものだけを厳選してできたこのシチューはまさに! で・り・しゃー・す!」

「たしかに美味いよ。でもさ、スーパーで野菜とか買ったらダメなわけ?」

「ノンノン! やはり採れたてにはかないません。で、申し訳ないのですが、僕としたことが作りすぎてしまいまして……味見をしていたら無くなって……あ、いや。まぁ、作りすぎたので、夕飯もシチューで!」

「はいはい」

 そして、午後も特にすることも無く、古本屋の自分の行動するエリアを片付け、夜シチューを食べてから帰宅する。

「あ……辞めるって言い損ねた……」




 #2終

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妖古書堂のグルメな店主 浅井 ことは @yuzuwhite

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