「賞味期限の切れた液体のように生温く無価値な友情」
ここが“
ようやく戻ってこられた。
俺の本来在るべき世界はここだ。
過去を受け入れて、歩いていくしかない。
ここでの俺の役割は……今パッと思い浮かばないな……。
「“偽アカシックレコード”は登場人物の手の届かないところに、と思って置いたのに取られてしまった……海の中にでも沈めておけばよかったか」
「それいつの間にか海岸に打ち上げられているパターンだよ。なんかの映画で観たことあります」
「そうか」
人生は一回なのでノーコンティニューでクリアしようと意気込んでいた。
最初から最高のクライマックスを目指していたのに。
(結果だけ見たら、俺は“諦めてしまった”ってことになるかな……)
俺は“偽アカシックレコード”の仕様で毎度記憶を失い、ほぼほぼ登場人物の1人として小さな世界を生きていた。
日記帳という記録を残していたことと、俺自身は登場人物の1人ではあるものの純粋な“偽アカシックレコード”としての登場人物ではなく、要は
しかし俺やクリスさんの尽力虚しく、あの世界は残酷に全てを壊し尽くした。
何度でも何度でも。
何をどうしても“死”へと収束していく。
そうだよ。
13回目は「勝った!」と思ったのに。
あんなの無理ゲーでしょうよ。
「クリスさんも消されたんですか」
しれっと隣に座っている見た目は小学生なクリスさんに問いかける。
相当この人も性格悪いよ。
でも、おかげで心の整理がついた。
嘘。
ほんの少しだけモヤモヤしている。
「こちらにいるということはそういうことだ。……どうした? 浮かない顔をしているが」
――もう10年以上も前の話になってしまうが、2回目やら3回目の頃は心の底から嬉しかったのだと思う。
全てを失った直後だ。
失意のどん底にあったのはクリスさんだけではなく俺もまた同じだった。
だから、クリスさんが“偽アカシックレコード”を【創造】した際には二つ返事でその世界へと飛び込んでしまった。
そこには失った家族と再会できた喜びがあったのだ。
生まれてからずっと俺を慕ってくれていた弟に。
ちょっと口は悪いけどそこもまた可愛かった婚約者に。
「そうですかね?」
俺から感情がなくなってしまったのはいつからだろう。
喜びも怒りも悲しみも憎しみもなくなってしまったのは何回目からだったか。
終わりへ向かって着実にカウントダウンしていく世界の中で「そろそろ作倉さんが亡くなるから準備しておこう」と考え始めてしまっていた自分、控えめに言って狂っていた。
「無事に2022年の“真アカシックレコード”の世界へ帰ってこれたんだ。喜ばないか?」
「これでハッピーエンドでよかったのかな、って考えていて」
クリスさんは「“知恵の実”を破壊し、“真アカシックレコード”の所有者も倒したんだ。悪を倒してあの世界は平和になった。それで何が不満だ」と簡単に言ってくれる。
本当にそうだろうか。
智司は俺がいなくても生きていけるのかとか芦花さんが悪い奴らに利用されないかどうかとか。
「俺にはまだやれることがあったんじゃないかとか」
13回目も失敗と言えるだろう。
クリスさんはハッピーエンドってことにしたいらしいけれども、あの後はどっちみち緩やかに滅びゆくしかない。
智司があのとき白菊美華を攻撃しなかったら、芦花さんだけでなく幸雄くんもやられていただろうから、智司の行動を間違いだったとは言いたくない。
助けたかった。
守ってやりたかった。
怖くて怖くて仕方なかったんだ。
あれは智司にとっては正当防衛だった。
過剰ではない。
「本の中の世界の心配をするより、自分の将来を考えたらどうだ」
元凶であるクリスさんにど正論を突き刺された。
かれこれ2010年から今年が2022年だから12年間?
ん?
計算合ってる?
と、まあ、結構な時間をフィクションの中で過ごしてしまった。
「兄だとか婚約者だとかの役割に縛られない、“風車総平”として人生をこれからは生きていくんだ」
「まず、仕事どうすればいい?」
正しい歴史の方では組織丸ごと壊滅しているわけで。
能力者が根絶やしにされたので“能力者保護法”は形骸化してしまったわけで。
ヒーロー研究課、楽しかったのにな。
あの日々にはもう戻れないんだな。
「教員免許を持っていなかったか?」
「え、12年も経ってたらもう失効してない……? あ、家大丈夫かな? ある? 俺いない間に取り潰されてない?」
不安になってきた。
帰ってきたけれど帰る場所がないなんてそんな話ある?
さすがに家はあってほしい。
親父がちゃんと残してくれた唯一の遺産だぞ。
「何もかもなくなっていたら俺がなんとかするが」
「頼みますよ本当に」
笑い事じゃない。
全財産までも失っていたらどうしよう。
こんなところでお話ししている場合ではない。
警察も取り合ってくれるかどうか謎だ。
【一将功成りて万骨枯る】
-fin.
「お困りのようなら
「幸雄くん!? どうして! ……いや、どうやって?」
俺はその姿に驚いたけれど、クリスさんは幸雄くんの持っているボロボロの本を見るなり「真の篠原幸雄か」と瞬時に把握していた。
え、“真”の?
2010年時点で死んだほうの幸雄くん?
いやピンピンしてるけど?
「正しくは、『高次存在の導きと神のご加護の相乗効果により死後“偽アカシックレコード”という異世界へ転生した』“真アカシックレコード”での篠原幸雄がこの
めちゃくちゃなこと言ってる。
生前の幸雄くんに会ったことないけどこんな子なの?
「パーフェクトな
「わざわざ嫌味を言いにきたか」
「気に障ったか創造主。君の蒔いた種が
「感謝しているようには見えないが?」
14回目の世界に取り残してきた幸雄くんに異世界パワーが入り込んでなんか解決したってことでいい?
ヒーローってすごいな。
「今日ここに
「俺を?」
「ぼくを助けてくれるのではなかったか?」
そんなことも言ったような言わなかったような。
もう一回遊べるドン?
「今さっき俺、現実から逃げずに立ち向かっていく決心をしたところなんだけど……」
盛った。
ぶっちゃけ不安しかない。
助けてクリスえもんしまくると思う。
「アンサーは聞いていない。さあ、行くぞ! 14回目のスタート地点へ!」
パーフェクト・プラン! 秋乃晃 @EM_Akino
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