魔王になりたい魔法少女は世界征服の夢を見るか?〜転生編〜

愛野ニナ

第1話



 誰かが私を呼んでいる。

 遠く、あるいは近くで。

 何も見えない音も無い果てしない暗闇の静寂。

 存在を見失い名前も忘れて、

 もう自分の形さえわからないというのに。

 それでも確かに感じる…光?

 存在を意識すると形が戻る。声が認識できるようにもなった。

「魔王様!」

 それが私の…新たなる名前?

 では私を呼んでいたのは共に転生した光の戦士…なのか。

 そう、ならばもう迷うことはない。

 戦士が私の手をとった。私は自らの意思で体を起こす。

 魔王と呼ばれるにはまだ早すぎる。

 これから戦い、その位を勝ちとるのだ。




 繰り返してきた転生の果て。

 たどり着いたこの地を魔界とよぶなら、

 この転生がきっと、

 最後になる。

 いきましょう共に。

 私は呼びかける。

 傍に控える戦士に。

 そして、

 同じ世界にいるはずの

 これから出会う戦士達に。




 繰り返してきた転生の意味。

 私には探し物があった。

 はるか遠い過去世から、

 ずっと探してきたのは、

 まだ見ぬ究極のアルカナム。

 それが何かもわからないのに、

 セカイの境界を幾度も超えて、

 擦り切れた魂を引きずりながら、

 なぜ、

 私は探していたの?

 それは、

 見つけ出して破壊するため、

 だったのかもしれない。

 でも、

 耳元で私の戦士が告げる。

 不確かな記憶に惑わされるなと。

 それは古の女神にかけられた呪。

 究極のアルカナムなどという言葉に置き換えられたそれは、

 本当はいかなる物であったのか。




 何度生まれ変わっても自分をとりまくセカイには違和感しかなくて、

 今いるセカイの中でいつも自分の存在だけが異質だった。

 誰もが容易くできることさえできない自分。

 そのくせ自意識だけが強くて、

 身の程をわきまえられない自分。

 嘲笑され蔑まれることよりもずっと、

 発狂しそうなほどの自己嫌悪に憤り、

 傷ついた。

 こんなはずじゃない。私にだって本当は何か特別なものがあるはずだと。

 そんなものあるわけないと冷静な思考ではわかってはいても、

 どうしてもあきらめることなんてできやしない。

 そう、今だって。

 私がずっと探しているのは、

 本当の自分。




 誰もが主役になれるわけじゃない。

 特別な何かを持ってる人なんて、ごく僅かだけしかいない。

 綺麗事はもう充分。

 大抵の人は特にとりえも何の才能もなく凡庸で、

 その他大勢の一人。ただのエキストラ。

 それで満足できる人にはわからないかもしれないけれど、

 私は違う。

 とりえはないけど自意識過剰で。

 特別な何かに憧れてはいても、

 現実の自分には何もない。

 生きづらさの正体は理想と現実の自分が違いすぎるということ。

 だからこの世界では息することさえ苦しくて、溺れかけながら無様にもがいてる。




 こんな私にできることは少ない。

 それでも、

 もしあるとすれば、

 私と同じ生きづらさを抱えている人達に、

 私の言葉を届けていくことだけ。

 だいじょうぶ、安心して。

 私もあなたと同じだから。

 華やかな表舞台の主役にはなれないけれど、

 この救い難い現実に、

 せめて、

 夢の物語を重ねてあげる。

 私の魔法で。




 そして、

 世界は魔性に侵食されて、

 境界はその意味を無くし、

 現実と物語は混ざり合う。

 この混沌としたセカイこそ魔界ではないのか。

 自らを善良と思うことこそ愚かの極み。

 人間は生きてるだけで罪深いというのに。

 だから私は魔王になって、

 世界を征服し、

 混沌と恐怖で満たし、

 滅ぼしてやろう、

 すべてを。

 そして世界が滅びたあとには、

 私もまた滅びよう。

 宇宙の星のひとつにはなれなくとも、

 希薄になった私の存在は宇宙のひろがりの中に溶けてゆくのだろう。




 どこかにいるかもしれない私の仲間よ。

 思い出して、

 前世で交わした約束を。

 私の声がきこえたら、

 どうか目覚めて転生戦士達。

 私の声が届いたら、

 お願い、

 心の言葉で応えて。

 その言葉、必ず受けとめるから。

 私はいつも一緒にいるよ。




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