僕の名はマリモン!③
「わぁッ! 雨!? 夕立かな?」
マリモンの異変に気付かない時乃は慌てて頭を腕で覆う。 まだ小雨レベルだが、時期を考えれば本降りになってもおかしくはない。
「時乃、傘は!?」
「ちょっと待って!」
そう言われバッグの中を漁ってみる。
「駄目! 折りたたみ傘を忘れた・・・」
「どうして忘れるのさ!!」
「そもそも今日の予報はずっと晴れだったじゃん! まさか夕立が来るとは思わないよ!」
一度辺りを見渡してから言った。
「マズい、急いで帰らなきゃ!」
パッと見雨宿りする場所がなく、そう言って駆け出そうとしたその時だった。
「駄目! 走って帰るのは!!」
「どうして!?」
人間として当たり前のことをしようとしただけだったが、何故かマリモンは必死に拒んでいた。
「どうしても! 近くで雨宿りしてよ!」
「雨宿りできる場所がないんだよ!」
「少し遠くてもいいから!!」
「私は早く帰りたいんだけど! 雨宿りせずにもう帰ろうよ!?」
「空を見て! 青空はまだ広がっている! 夕立だからすぐにまた晴れるさ!!」
「そうは言っても・・・」
濡れながら葛藤しているとマリモンの身体に変化が見られた。
「・・・え?」
マリモンが徐々に溶けていっているのだ。 それを見て慌てて服で覆い隠す。 原因が雨のせいとしか思えなかったためだ。
「マリモン、大丈夫!?」
「早く! 早く雨宿りして!!」
「う、うん!」
気圧された時乃は急いで雨宿りの場所を探し避難した。
「ちょっと待ってね!」
時乃は鞄からハンカチを取り出した。 火の付いた蝋のように溶けているマリモンを急いで拭いてあげる。
「・・・大丈夫?」
「・・・」
マリモンは何も答えない。 マリモンは身体の半分が溶け、愛らしかった目も口も見えなくなっていた。
「・・・マリモン?」
声をかけ続けると徐々にマリモンの形が戻ってきた。 溶けていた、というよりは萎んでいたという方が近いのかもしれない。 水分が乾いていくうちに全身元通りになり見えるようになった。
「どういうこと?」
「・・・」
何も答えないマリモン。 そんなマリモンに決定的な質問を投げかけた。
「もしかして、水が苦手なの?」
尋ねるとマリモンは渋々観念したように語り出した。
「僕たちは純水以外の水溶液に弱い。 酷く脆い生き物なんだ」
「そうだったの・・・。 だからお風呂も嫌がったのね」
「あぁ。 水道水には塩素が含まれているんだろう? それは僕たちの身体にとって有害だ」
「なるほどね」
納得して頷く時乃を見てマリモンは全てを諦めたかのように恐る恐る言った。
「・・・僕の弱点を知ったのに何も行動を起こさないの?」
「え?」
「僕は人間の敵で、地球を侵略しようとしているんだよ? 最初に言ったこと、憶えてる?」
「・・・うん」
「だったらこのまま雨に濡らせばいいじゃん! 少しなら萎むだけで時間経過で戻るけど、完全に濡れた状態が長く続くと僕は消滅するよ?」
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