僕の名はマリモン!

ゆーり。

僕の名はマリモン!①




学校の帰り道、中学生の時乃(トキノ)は家までの道のりを歩いていた。 平凡な日常に何とか味付けを、そう思って普段曲がる角の一本手前で曲がってみる。

結局は向かう方向は変わらないし、安全圏内での変更でしかない。 だがそうしていなければ、木の上の猫を発見することもなかった。


「ニャー」

「うん?」


茶色の毛並みにお腹の部分に白い毛が覗く。 体が小さいためおそらくは子猫で、登ったはいいが降りられなくなってしまったのだろう。


「猫ちゃん! 大丈夫!? 今すぐに助けるからね!」


そうは言ったが時乃は木登りはできない。 結局未知の道の先は知った道に繋がっていて、一度家へ帰り脚立を持ってくることになった。 きちんとセッティングし猫を助けようとしたその時だった。


「わぁッ!?」


脚立の使用に不慣れだったことと、予想外の光景に思わず落ちそうになる。 葉っぱに紛れて有り得ない形状の生物がいたのだ。


「見つかったかぁ」

「誰・・・? 何者? というか喋れるの!?」


丸っこくて緑色、苔で作った泥人形のような見た目に手と足が付いている。 手の平に乗せると丁度いいくらいのサイズだろう。


「誰かに名前を尋ねる前に、自分が名乗るのが筋じゃないのか? これだから人間は・・・」

「え、あの・・・」

「僕の名はマリモン!」

「って、結局は先に名乗るのね!? ・・・私の名前は時乃だけど」

「そうか、時乃。 これが僕と人間における初の邂逅か」


言いながらマリモンは何かを取り出しメモを取り始めた。 何をしているのだろうと考えているとマリモンが言った。


「さぁ、時乃。 君たちからしたら未知の生物である僕。 一体この星に何をしにやってきたと思うかね?」

「仲よくしよう、っていうわけじゃないわよね・・・? もしかして世界征服とか?」

「なるほど、多少の知能は備えている。 これは地球侵略の際に大きな障害となる可能性が・・・」


またぶつぶつと言いながらメモを取っているが、その言葉を聞いて声を上げずにはいられなかった。


「地球を侵略!? こんなに可愛らしい見た目なのに悪い奴ねッ! どうしてそんなことをするの?」

「ふっ」


マリモンは何故か照れながら頭を掻いている。 時乃は怒りながらマリモンをギュッと手で掴んだ。


「ギュッ!?」

「悪いことしようとしているなら、このまま捕まえちゃうよ」

「は、放せぇ!」

「どうして悪さをしようとしているのか言いなさい!」


時乃からしてみればマリモンは小さい上に可愛らしい外見で、恐怖なんて微塵も感じないのだ。 どうやら苦しそうにもがいていて慌てた様子で話し出す。


「ぼ、僕たちは光合成をして生きていける! 何も食べなくてもいい、何も飲まなくてもいい!」

「・・・え?」

「人間よりも遥かに優秀な体の機能を持っているんだ。 優生種族が劣等種族を滅ぼすなんて、普通だろ!?」

「こんなちんちくりんが優生、ねぇ・・・。 確かにご飯を食べずに生きられて太らないのはいいかも」

「何を言っている。 僕たちだってちゃんと太るぞ?」

「え、そうなの?」

「だって何もしなくても栄養が体内で作られるんだから!」

「えぇぇ・・・。 植物だって水をやったり肥料をやったりが必要なのに、勝手にぶくぶくと太っていっちゃうだなんて」

「ぶ、ぶくぶくとは失礼だなッ! まぁ何もいらないというのは正確じゃなくて、特製アンプルだけ必要としていればいいということだけど」

「ふーん。 ちなみに、どうやって侵略しようとしているの?」

「それは秘密。 人間に教える義理はない」


もう一度ギュッと絞ってみても話す様子はない。 苦しそうな顔が可哀想になり手の力を緩めてやった。


「じゃあ、どうして私に話したの?」

「僕の姿を見られたからには君を利用しようと思って」

「利用・・・?」

「とりあえず手を放せよ!」

「あ、はい」


手を放すと深呼吸してからマリモンは時乃の肩に乗った。


「人間の行動を見ておきたいんだ。 それを君に決めた」

「そこにいたら他の人にバレちゃうよ? バレたら研究施設に連れていかれて、実験動物として体中をいじくり回されることに・・・」


そう言うとマリモンはブルリと震えた。


「に、人間は恐ろしい生き物だな・・・。 とりあえず、上手いこと時乃の長い髪で隠れておくから見つからないようにしてな!」

「えー・・・。 別にいいけど、私は地球侵略なんて許さないからね?」

「言ってなよ。 どうせ僕たちには勝てないんだからさ! ぐへぇッ」


デコピンすると額を抑え悶え苦しんだ。 それを見ていると可哀そうで可愛いためこのままにしてもいいのかと思った。 マリモンは時乃にくっつき行動を共にすることになったのだ。



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