僕の名はマリモン!②
マリモンが現れてから一週間が経った。 もちろん学校へ連れていけるわけはなく、普段は使っていなかったハムスター用のケージに入れておいた。
最初は不満そうだったが回し車で走るのを気に入ったようだ。
「地球って変なものがたくさんあるんだなー」
使っていなかったタブレットを渡すと興味深く色々と調べ出した。 そして休日や大丈夫そうな時は外へ連れ出すことにした。
「マリモン、一緒に出かけない?」
「久々の外だって!? 行くぅ!!」
マリモンを肩に乗せ家を出た。 目的地はないがぶらりと歩くのも悪くない。 たまたま見つけた屋台でクレープを買ってベンチに腰かけた。
「んーっ! やっぱりクレープはチョコバナナに限るね」
マリモンがいても一人なら割と自由に行動できる。 目立たないようにしているのか、邪魔をしたりはしてこない。
「時乃はいつも一人だな。 友達はいないのか?」
「誰のせいだと思う?」
「誰のせいだろうな?」
「マリモンの姿を見られないように、こっちも気を遣っているんだから! 本当は友達と一緒に来たかったよ」
「友達いない奴はみんなそう言う・・・」
マリモンは興味なさそうにそっぽを向く。
「それで、今は何を食べているんだ?」
「クレープって言うんだけど、薄く焼いた生地でチョコとバナナとクリームを包んで・・・」
「人間は本当に物を食べるんだな」
「まぁね。 食べることが必要なくなったとしても、私は食べ続けるよ」
「そんなの食べる時間が勿体ないだろ。 その時間をもっと有効に使えよ」
「そうは言っても・・・。 美味しいんだから仕方ないじゃんッ!」
侵略すると言ってもまだ本格的には行動に移さない。 敵同士なのに一緒にいるうちに少し仲よくなってしまった。
「マリモンは口があるのに食べれないの?」
「食べれないじゃなくて食べる必要がないから食べない、に近いな。 アンプル接種も経口ではないし。 ただ体に異常があった時は、飲み薬を使用することはあるぞ」
「へー。 じゃあ食べることはできるんだ? 一口食べてみなよ」
「・・・え、本当に言ってる?」
そう言ってクレープを差し出してみる。 最初は戸惑っていたが勇気を出して一口噛み付いた。
「んーっ!?!?」
「どう?」
「何だこれ何だこれ! なんて表現したらいいのか分からないが、凄いぞッ!!」
「それが美味しいっていう感覚なんだよ!」
「美味しい・・・! 美味しいか!! さっき時乃が言っていた、必要なくても美味しいから食べるというのはこういうことか!」
「そうそう! 分かってくれたみたいね」
時乃はお人好しなところもあり、この世界に慣れないマリモンの世話をしていた。 そのおかげでマリモンも懐いてきたのだろう。 といってもほとんど肩に乗っかっているだけなのだが。
「にしても暑いなぁー。 家に帰ったらシャワーを浴びよう。 マリモンも水を浴びたら? マリモって水生生物だよね?」
「地球の毬藻と僕は全くの無関係だ。 寧ろ酷い風評被害を受けていると言ってもいいだろう」
「そうなの?」
「見なよ、この毛並みを。 濡れたらこのふさふさな体がびちょびちょで、乾いたらボサボサになっちまうだろ? だから水は嫌だ」
嫌がるのを無理に入れる必要もない。 食べ物を食べないせいかマリモンは臭いがほとんどない。
だが毛むくじゃらなせいか砂埃などは付いていて汚れているため、時乃はそう思ったのだが本人が嫌がっているのならいいかと考え直した。
「それより、あっちの店は?」
「あれはカフェ。 ケーキ屋さんでもあるかな?」
「なら行こう!」
「その前に何か飲む?」
「ううん。 それより甘いものが食べたい!」
「いきなり食いしん坊になったなぁ」
マリモンは食欲旺盛だった。 おそらく今まで食べる必要がなかったため食文化が発達しなかったのだろう。
地球の、しかも日本の食べ物は美味し過ぎるようで、マリモンが食べたいと言っていたものを一通り食べ終えると時乃はひと息ついた。
「お腹いっぱい・・・。 もう夜ご飯食べられなくなっちゃうよ。 そろそろ帰ろう?」
「そうだな。 僕ももう満足だ」
二人が帰ろうとした時、雨がパラリと降ってきた。 マリモンは雨に顕著な反応を示した。
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