僕の名はマリモン!④




―――確かにマリモンは敵だ。

―――今私たちは楽しく日々を過ごしているけど、私の見ていないところでは既に侵略が進んでいるのかもしれない。

―――だから野放しにはできない。

―――だけど・・・。


時乃は考えた後にこう答えた。


「・・・そんなこと、できないよ」

「どうして?」

「どうしてだろう・・・」


それは時乃でも分からなかった。


―――マリモンと出会って、充実で楽しい日々を送れていたのは確かだ。

―――私と一緒にいる時のマリモンは、心から楽しんでくれているように見えた。


情が移った。 一言で言うならそう言うことだ。


「時乃は僕と出会った時に言っていたじゃないか。 僕たちが地球侵略することを許さないって」

「うん、確かにそう言った。 それは今でも許すことはできない」

「なら雨に濡らせばいいじゃないか!」


ムキになるマリモン。 それが少しおかしかったが、時乃は首を横に振って切な気な声で答えた。


「・・・まだ出会って一週間だけど、マリモンと離れたくないって思っちゃった」

「ッ・・・」

「ちょっと!?」


そう言うとマリモンは涙を浮かべた。 途端に目の周囲が溶けておかしな感じになる。


「涙は弱点と一緒でしょ!? 泣いちゃ駄目だよ!」

「泣かせたのは誰だよぉ・・・!」

「別に泣かせようとしたわけじゃ・・・」


そう言って慌てて涙を拭いてあげる。 涙を拭き取るとそんな時乃を見てマリモンは覚悟を決めたようだ。


「・・・よし」

「?」


時乃が困惑しているとマリモンは頭の上にアンテナを立たせ言葉を放った。


『人間は僕たちを泣かすことのできる生き物だ。 マリモ星人は今すぐに撤退しろ!』


仲間に通信でそう伝えたのだ。


「撤退・・・?」


マリモンはアンテナをしまった。


「撤退って? 地球侵略はもうしないの?」


尋ねるとマリモンは体で大きく頷く。


「僕たちは人間には勝てないということを知った。 だから大人しく僕たちの星へ帰るよ」


切な気に笑うとマリモンは体を浮かした。


「え、待って!」

「今までごめんね、時乃。 そして素敵な時間をありがとう」


マリモンはそのまま宇宙へと戻っていこうとした。 だがマリモンは体を震わせる。


「うあぁッ!?」


だがまだ夕立で雨が降っているのだ。 空の上には上がれなさそうだった。


「何が優生種族よ。 脆くてお馬鹿で・・・。 いいからおいで」


飛んでいきそうだったマリモンを時乃は手ですくって引き寄せた。


「雨が降っていたらその間に溶けちゃって帰れないじゃないかよぉ・・・!」


しょげるマリモンを再び拭いてあげると時乃は笑ってみせた。


「このまま雨なんて止まなければいいのにね」

「どうしてそんな酷いことを言うのさッ!」

「そしたらマリモンとずっと一緒にいられるから」






                               -END-



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僕の名はマリモン! ゆーり。 @koigokoro

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