第20話 ダークエルフの森 失踪事件 完
アールは地面に魔力を流す。 ただ、流しているだけではない。
高速で文字を書き、土に意味を持たせる。 その文字は――――
『心理』を意味している。
土が盛り上がり、人間の形に近づいて行く。
その正体はゴーレム。 そして、その数は4体。
アールは、接近戦も可能とは言え、本業は遠距離からの狙撃。
魔力で作った前衛を設置。足止めして、後方へ下がる戦術を取る。
だが、「それです!」とグレンはゴーレムの出現を狙っていたかのように笑う。
そして、抜刀。 瞬時に4体の蹴散らした。
「――――!?(倒すのが予想よりも早い。時間稼ぎにもならないだと!?)」
間合いを広げれない。得意な距離からの攻撃は許されない。
そうアールは覚悟を決めた……のだが――――
「……なぜ? 追いかけてこない?」
グレンは足を止めていた。 アールを追いかける事はせずに、倒し終えたはずのゴーレムに気を取られている?
それどころか、しゃがみ込むと雑嚢を取り出し、ゴーレムだった土を入れ始めた。
「お前……何をしている? 戦いの最中だぞ?」
「いえ、これが私の目的だったのです」
「?」とアールは不可解な顔を見せた。
「ゴーレムが目的だと? 一体、何が――――」
「気づきましたか? 私も1つ考えが思い浮かんだのでね」
「……」
「最初に、この森に来た私たちを襲った時に使われたゴーレムなら、遺体を外に運べるじゃないかと」
「ふん、ゴーレムに遺体を運ばせるだと? そんな事は不可能だ」
「なぜ、不可能だと?」
「遺体を担いだゴーレムが、町の外まで見つからずに行けるか? それも、山で穴を掘って遺体を捨てる? そこまで精密な命令を術者から離れた場所まで持続はできない
「疑うなら、ゴーレムを使える術者を連れ来てもいいさ」とアールは付け加える。
しかし、グレンは首を横に振る。
「いいえ、そこまでする必要はありません。私の考えは、もっとシンプルです」
「シンプル……だと?」
「はい、単純に遺体をゴーレムの中に埋めたんじゃないですか?」
「――――」とアールは沈黙した。
「ゴーレムの中に殺したケイツさんの遺体を埋め込んで、あなたはこう命令したんじゃないですか?
山まで行け……とだけ」
「――――待て。それじゃ誰がケイツを山に埋めた? 協力者が――――」
「いいえ、もっと単純です。単純にゴーレムは山まで行き、魔力が尽きて倒れた。
それだけ……それだけで自然と中に遺体も土に埋まった。それが真相じゃないですかね?」
「――――うむ、面白いね。面白い妄想さ。アンタ吟遊詩人にでもなった方が良いんじゃないかい?」
「おや? 間違ってましたか?」
「さて、その話には証拠ってのが――――」
「だから、このゴーレムの土ですよ」
「土? 土なんでどこも一緒だろ?」
「いいえ、違います。ここに来た時、ケイツさんが教えてくれました。彼は――――
『もうこの森でしか生息していない草木や昆虫もいるみたいですね』
そう言っていました」
「それがなにか?」
「その場所にしか生息しないはずの虫や植物……虫は死に、植物は腐り果て、土に混じります。だから――――ケイツさんの遺体を覆っていた土がこの森の土と一致したならば――――あなたが犯人です」
「そうかい……」とアールは周囲を見渡した。
「アタイは、この森によって罪を正されるのかい……」
「それは自白、罪を認めるのですね?」
「あぁ、なんて言うか……犯人。そうアタイが犯人さ」
「……どうして、この様な事を?」
「どうして? なんでだと思う? ただ、腹が立ったからさ」
「うむ……動機は怒り。その怒りはどこから? やはり、森を奪われ――――」
「いいや、違うね。 アタイがケイツを殺してやりたいほどの怒りを感じたのは、あの世の出来事さ」
「あの日、あの夜、何があったのですか?」
「アイツは、相当な酒を飲んでいた。それで夜風に当たりたいなんて言い出して1人で外に出ていった。それから暫く帰ってこなかったから、アタイは様子を見にいた。すると、何してたと思う?」
「――――まさか」
「あぁ、酔っ払いなら普通にやる事かもしれない。だが、ここは聖地だよ? 酒に溺れて正気を失う……それで許せない事を――――この森を穢してやがった」
「まさか……その……」
「あぁ、そのまさか。あいつ……吐いてやがった」
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・
ギルド内ギルド長室
「――――それは、そのご苦労さまです」
事件の真相を語ったグレンに対して、ギルド長のジルドは顔を歪ませながらも礼を述べた。
事件の動機があまりにも……いや止そう。
「しかし、意外でした」とジルド
「何がですか?」
「いえ、私も責任と権限のある立場です。貴方がただの神父ではないと聞きました」
「えぇ、私は特に信仰深い神父ですが、それが何か?」
どうやら本気で言ってるらしきグレンに「……」とジルドは言葉を詰まらせる。
それから、
「異端審問官……グレン・ザ・ソリッドダウン。罪を犯した者を慈悲なく断罪する死刑執行人。私は、あなたの事をそう認識していました」
「そんな大げさな。私は、私の信じる神の言葉に従うだけですよ」
グレンは笑う。 狂気を秘めた笑いだった。
「あっ、それからどうなります? ダークエルフの森とアールさんの処遇」
「あの森は、やはり移転することになりましたよ」
「では、アールさんは?」とグレン。 あの森は、ダークエルフがいないと存在しない。彼女のその言葉が事実であるならば、彼女は――――
「無罪……とは言えません。 しかし、あの人1000年間、あの森で1人で暮らしてきました。ならば……」
あぁ、そう言う事か。 グレンは理解した。
彼女の罪状を言うとするならば無期懲役なのだ。
あの森の中で、1人で無限のような時間を――――
最凶の異端審問官 中央教会を追放され『返ってこい!』と言われることは二度とない(絶対) チョーカー @0213oh
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