第19話 最後の会話 解決編直前

 ダークエルフの森。


 そこに1人、グレンは足を踏み入れる。


 その瞬間――――


「止まれ」と言葉と同時に矢が放たれた。


 狙われたグレン。迫りくる矢に対して剣を抜いて切り払う。


「制止すると同時に攻撃をするのは、どうかと思いますよ、アールさん?」


 しかし、彼女はグレンの声を無視する。


「だめだ。前回は、客人としてきたからもてなした。今日は違う」


「私は今日も客人のつもりでしたが?」と苦笑する。


「違う。お前は招かざる客――――始末する」


「それは私があなたを告発しに来たからですか?」


「――――」とアールは少し無言になった。若干の間があってから――――


「何の事だ?」


「確かに、今日の私は客人ではありませんね。あなたを断罪するために来た神の使者ですから」


「何を――――」


「商人ケイツさんの遺体が発見されたのはご存じですか?」


「……知っている。今朝、知らせがきた」


「死亡したと推測されるのは10日前……あの日です。遠い山奥に埋められていたそうですね」


「あの日か……ならば、あたいは関係ない。断罪されるような後ろめたい事なんかないさ」


「本当ですか?」


「当り前だ。10日前? 馬鹿馬鹿しい。アタイが森の外に出たのは何年前だと思う? たぶん、アンタが生まれるよりも遥か昔だ」


「それは証明できますかね?」


「ふん、何を疑っている?」とアールは声に怒気を孕ませながら、


「当然、証明できる。この森はダークエルフの聖域……そういう縛りが生まれている」 


「縛り?」


「名前と時間は魔術的な縛りを生み出す。この森には、1000年の時間が魔術的な概念が付属されているのさ」


「簡単な事さ。もちろん、ここだけの秘密だけどさ」と彼女は付け加えた。


「……」とグレンは考え込んだ。彼女の言葉を理解するために……


「……つまり、ダークエルフの森は――――ダークエルフである貴方がいなければ存在は消えると言う事ですか?」


 それは理不尽であるが、魔術的概念付加とはそういうものである。


 無意味な言葉でも1000年の時間が魔力を生み出し、物理法則にも介入する。

 

 ダークエルフがいるからこそ、ダークエルフの森。


 要するに、ダークエルフの森からダークエルフがいなくなった瞬間に崩壊が始まる。


「アタイが、この場所から出たら森は崩壊する。つまり、アタイが商人ケイツを始末しても、遺体を外に持ち出す方法はない」


「……いいえ、言い切れないのでは?」


「へぇ? じゃ、どういう方法だい? 事前に仲間がいて――――あぁ面白いね。アンタはもう1人ダークエルフがいた可能性を考えているのかい?」


 確かに、彼女の言う事は正しい。……いや、本当に正しいのだろうか?


「正直に言うと、ダークエルフの森はダークエルフがいなければ崩壊するなんて初めて聞きました。それが事実か、私には判断つきません。


――――ですが」


「――――!?(いつの間に接近を? 今までの話は不意を突くため罠だったのか!)」


 最初は離れていたはずの間合い。それがいつの間にか縮まっていた。


 さらにグレンが前に出たのだ。


「このっ!」と弓を構え直すアール。 しかし、遠距離の間合いではない。


(弓矢で接近戦はできないと思ったか? 舐めるな!)


 アールは片手で弓を振るう。 それは牽制の一撃。


(本命は、これだ!)


 矢に刺突。 


 ――――弓矢を使用した接近戦闘術は存在する。


 木を削り作った弓は木刀と同等の強度を有し、鈍器をして使用できる。 また、腕力で無理やり矢を突き出す事で獲物を殺める事も可能だ。


 だが、アールが放った渾身の刺突――――それは宙を切った。


 グレンは身を低くして回避。 頭上に攻撃が通過したタイミングを狙い――――頭突きを叩きんだ。


「ぐっ! この――――舐めるか!」


 怒りが湧き上がる。 なぜなら、グレンから本気さが感じられない。

 

 殺意。 こちらが殺すつもりなのに対して、本気で殺し合いに応じる様子がグレンにはなかった。


 ――――少なくともアールは、そう判断した。 しかし、それは――――


「だったら、本気を出させてやるよ! ほらっ!」とアールは魔力を地面に放出する。


 だが、そのタイミング――――


 「それです!」とグレンが動いた。   

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