自由を得たい銃士

@sorano_alice

第1話 彼女の自由

 私はネアル。下の名前は忘れた。

 私のいる軍の帝国は見事戦争に勝利し王子と姫の結婚の式があるらしい。


 12歳のころ、私が銃士の素質があると認められたころには親は死んだ。今は親はいない。

 半年くらい前、三銃士の一人として私は戦争に駆り出され主に銃を使い、兵を殲滅させた。総大将も討ち取って見せたが三銃士の他の二人はその戦闘で戦死した。


 それから私は、彼女は一騎当千の銃士と呼ばれたり最年少の最強の銃士と呼ばれるようになり帝国の上の命令に忠実に従い勝利を収めていった。



 今回の命令は遠距離からの王子と姫の護衛任務。兵士や防弾ガラスが設置されているものの空中からの攻撃には気づけない。私が王子と姫を狙っているようにも見えるけど実際には私のように建物からスナイパーライフルなどで王子と姫を銃殺する人物がいないか監視する命令だ。

 王子と姫はどちらが立場が上なのかな?

 王子をスナイパーライフル越しに見ていると胸が苦しくなる。この感じは何だろう。胸がずきずきする。私の心の中でなにかがざわめいている。


 誓いのキスが終わったみたいだ。

 その時、護衛している一人の鎧を着た兵士の動きに違和感を感じた。

 私はその人物にためらいもなく発砲した。

 

 鎧を着ているため弾かれると思われがちだけど鎧は所詮刃には防御性はあるものの銃の前では無力。戦争でも兵士たちは当たり前のように鎧を身にまとっていた。もし、銃が弾かれるなら三銃士なんて私は呼ばれなかっただろう。


 突然の発砲音。突然の兵士の死によって観客が騒いでいる。私はその光景に快感を覚えた。


 数時間後。大騒ぎの式も終え、兵士に王子に会うように言われた。兵士から聞いたんだけど、私が殺したその兵士は暗殺部隊の最後の生き残りの一人だったらしい。


 王子との面会だ。胸が熱くなる。でも護衛の兵士が邪魔だな。王子を護衛しているということは兵士の中でも立場が上なのかな?


「ありがとう、君のおかげで命を救われたよ。もし君が発砲していなければ私たちは殺されていたかもしれない」


「いえ…私に課せられた課題ですから…」


「礼に褒美を与えねばな、何か欲しいものはあるか?」


 私の欲しいものは王子では与えることはできないだろう。私の欲しいものは私の手で手に入れるしかない。


「王子と姫はどちらが身分が上なのですか?」


「難しい質問だな、どちらも同じだろうが国を治めているのは私だからな。王子である私だろうな」


「そうですか…」


 私は警戒されているのかいないのかショットガンやサブマシンガンなど大型の武器も当たり前のように持ち歩くけど今は王子の後ろの護衛の兵士が預かっている。でも腰には拳銃があった。

 だから私は姫よりも立場が上の王子に拳銃を向けた。

 そっか、私がなんで王子を見るたびに胸が熱くなるのかわかったよ。殺したくて殺したくて仕方がなかったんだ。


 そして脳天めがけて発砲した。王子は血まみれになって倒れた。戦争の時のようだ。私は開放される。

 護衛の兵士が慌てている。


「貴様、何をしている」


 私は立場が上の王子を殺した。それでもまだ私に歯向かうということは王子より偉い身分なのかな?

 私はその兵士も拳銃で銃殺した。特に開放感はなかった。

 私は私物のショットガンやサブマシンガンをその兵士から回収する。


 発砲音を聞きつけたのか兵士や驚愕する姫も姿を現した。

 兵士たちは私を殺そうとしてきたので私はマシンガンで全員殺害した。


 ガクガクと震え座り込む姫に私は近づく。その姿に私は快感を覚えた。上に立つってこういうことなのかな?


「な…なぜこのようなことを…」


 私は姫の顔めがけて銃を構えた。


「当り前じゃないですか…私は自由が欲しいんですから」


「もう戦争は終結しました、平和は戻ったんですよ」


 違う、私は終結していない。


 数年前、私は銃の腕が評価されつつある頃、人目を盗んで拳銃を盗んだ。

 そのころ親は生きていた。名前も忘れたそいつは言う。早く飯を作れ、はやく掃除をしろ、と。まずい飯をまた作ったな?そしてそいつら親と言われる存在は圧倒的武力で私を痛めつける。

 今日は帰りが遅かったな?そしてその日も武力により私は支配される。だから私は盗んだ拳銃をそいつらに撃った。このころからだったかな?上の人間を殺す快楽を味わえたのは。何よりようやく自由を得られたという開放感。



 それから数年後。私は戦争に駆り出され、上の指示で戦場で兵士を殲滅してこいと命令された。だから私は命令には従う。従わなければ痛みという束縛が私を支配するから。だから私は戦場で指示を出したその上の兵士も私以外の三銃士も、私に従う部隊も、敵軍と呼ばれるその兵士も目に映るものすべてを殺害した。


 それでもまだ、指示を出す上の兵士を殺しても、立場は私と同じ、もしかすると私より上かもしれない三銃士の二人を殺しても、敵軍の総大将を殺しても自由を得られたという開放感は得られなかった。でも、楽しかった。私に気安く命令をする人間を殺せたのだから。



 そして数年後、結婚式の監視でようやく気付いたんだ。私を支配する人間は、親でも、指示をする兵士でも、三銃士でも、総大将でもない。この国の権力者だったんだ。

 王子は殺した。この目の前にいる姫を殺せば私はようやく自由を手に入れられる。


「あはっ、あははははっ」


 私は迷わず引き金を引いた。姫は倒れた。まだ少し動いている。しぶといやつだなぁ。

 マシンガンで姫を撃ち続けた。何発も何発も。


 またしても兵士たちがやってくる。

 おかしいな、王子も姫も殺したのに何で私に逆らうんだろう。


 私はショットガンを惜しみなく兵士たちに放った。一人、また一人と倒れていく。その光景が懐かしい。数が減り威勢のよかった兵士たちは今度は逃げ惑う。逆らうものはもういない。

 これで私は自由になれた?まだだ、まだ足りない。まだ何かが私を支配する。

 王子よりも姫よりも上の存在。この存在を殺せば私は開放される。それは王子や姫を殺した私。

 わたしを支配する私を殺したとき、ようやく真の自由が手に入る。

 簡単なことだった。最初からこうしていればよかったのに。


 わたしは私の頭に拳銃を向けた。

 私を殺せばわたしは本当の自由を手にすることができる。


「ふふっ、あはははは」


 私は親を殺し、味方の兵士を殺し、三銃士を殺し、総大将を討ち取り、王子、姫を殺す絶対的支配者。わたしにはその私を殺すことができる。私が死んだ後の開放感は想像を上回るだろう。

 わたしは私の頭に引き金を引いた。銃は放たれた。

 それは痛い、ではあらわされないほどの威力。私を殺したわたしは私を上回った。だけどそれだけだった。


「っ……」



 数分後、兵士たちが駆け寄る。


「王子、姫はネアルによる犯行ですよね、他の兵士たちも死んでいる。ネアルは誰が殺したんだ?」


 王子、姫はもちろんネアルの死により国は分裂した。当事者がいないこの国はまたしても戦争となった。

 ネアルと呼ばれる銃士の死因は不明だがネアルは総大将を簡単に討ち取るほどの戦力。その戦力を失ったこの国にもう勝ち目はないだろう。

 こうしてネアルの死は謎に包まれ戦争は続くことになる。

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