第3話 ヒナさんに救われました。
「ヒナさん、さっきあなたが言っていた高校2年生の忌まわしい思い出、人間不信になった原因の事件を教えてくれませんか?全然信じてないですけど参考までに。」
僕はもちろんヒナさんが未来の記憶があるなんて全く………いや少しだけしか信じていなかったけど聞いてみた。
「ええ、その為に私はハルトに会いに来たのだから。」
正確には記憶を伴ってだけどねと彼女は付け加えた。
ハルさんが記憶を思い出してから葛藤はあったのだろう。だけど彼女にしかわからない未来から来たという確信があるのではないだろうか?彼女の言葉は自信に満ち溢れていたから。だから僕もこれから起こる事件の事を聞いてハルさんの事を信じるか信じないかを判断したいと思う。そんな僕にハルさんはゆっくりと説明しだした。
「クラスメイトの佐藤さんの縦笛が盗まれるわ。」
「縦笛って…小学校の時は使ってたけど、なぜ今高校生にもなって…。」
「佐藤さんは縦笛を鼻で演奏しようと頑張っていたようだわ。」
「女子よ!それでいいのか女子よ!」
「その縦笛をハルトが盗んだんじゃないかと疑われたようね。」
「鼻で吹いてた縦笛を!なぜに疑われた僕よ!」
「佐藤さんがたまに嫌らしい目で私の鼻の穴を凝視していたという証言で疑われたらしいの。」
「佐藤の野郎!お前の鼻に旬のブランド賀茂なすを入れて広げてやろうか!」
「やめなさい。賀茂なすを検索したわ。大きすぎて無理よ、いくら斎藤さんのビッグマウスでも。」
「いや、マウスは口ですけど。」
「大ボラ吹きという意味よ。」
「ああ、そっちの。もちろん僕は凝視なんてしてません!」
「ええ、わかってるわ。どうも放課後に一人で教室で残っていたというだけで犯人扱いされたようね。」
「そんな事だけで…。」
「クラスメイトから責められ、その後陰湿なイジメも受けるようになって人間不信になってしまったらしいのよ。」
「そりゃあなりますよ。やってないんだから、それで犯人は誰だったんですか?」
「本当の犯人は同じ縦笛部の田中君よ。」
「縦笛部に部員いたんだ。しかも僕以上に地味なあの田中君が…」
「佐藤さんの事を好きな田中君はその縦笛が鼻吹き用だとは知らずにペロペロしたそうよ。」
「衝撃の真実!聞きたくなかった新事実!小学生か!」
「それがきっかけで付き合う事になったらしいわ。ハルトに罪を着せたままね。」
「僕がかわいそ過ぎる〜〜〜。」
「真実を告げると田中君の罪も言わなくてはならなくなって、そのままうやむやにしたみたいだわ。」
「僕の犠牲の上で成り立った恋って、腹だたしさしか無いですけどね。」
ハルさんの作り話にしては詳細な設定過ぎて怖いんですけど。まさか…ね。本当じゃないよね。
「ちなみにそれはいつ起こる事なんですか?」
「10月20日…つまり明日よ。」
次の日の放課後ーーーーーーーー
「無い、無いわ!私の縦笛がないの!」
授業が終わり、各々が部活やら帰りの支度をしている教室に声が響き渡った。
まわりがザワザワし始めた。みんなが佐藤さんに集まり縦笛を探している。
「いつもこのロッカーに入れているはずなの、昨日は部活がなかったから置きっぱなしにしてたんだけど…。」
「じゃあ昨日の放課後に盗まれたんじゃね?」
という声が聞こえきた。
何も自分は悪く無いのに心臓がバクバクしだした。
みんながざわつく中誰かの声が聞こえた。
「そういえば転校生は毎日放課後に教室に残ってるよな。」
その言葉が発せられたと同時にみんなの視線が僕に集中する。
僕はみんなから向けられる疑いの眼差しに緊張してうまく言葉が発せられない。
昨日ヒナさんから聞いていたとはいえ、半信半疑だった僕。しかし、いざ本当に聞いてた通りの展開になってきた事による驚きと共に、この後の展開…僕がクラスメイトから糾弾されるという恐怖に僕はパニックになってしまった。
そんな中、佐藤さんが例のとんでもない爆弾発言をしやがった。
「そういえば転校生君がたまに嫌らしい目で私の鼻の穴を凝視していたわ。」と
その発言を皮切りに女子からは軽蔑な目で見られ小声で悪口を言わた。男子からはお前がやったんだろう?素直に白状しろとやってもいない盗みの自白を強要された。
僕がクラスメイト全員から詰め寄られ罵詈雑言、あることないことの誹謗中傷を受けていると教室のドアが開いた。
「聞かせてもらったわ。犯人はハルト…西村ハルト君では無いわ。」
遠藤ヒナ先輩が僕をかばっいに来てくれた。
クラスメイト達は色めきだった。
あの綺麗な人は誰?あんな綺麗な人上級生にいたの?なぜ転校生を庇うのか?と。
そんな驚きの声を無視してヒナさんは言葉を続ける。
「私はハルトと昨日放課後にこの教室で会っていたの。だから私が彼の身の潔白を証明するわ。」
クラスメイト達がまた沸き立った。転校生じゃないなら誰が犯人なんだと。そんなザワザワとした中、渦中の佐藤さんが言った。
「じゃあ私の縦笛を盗んだのはいったい誰なんですか?」
ヒステリックに声を上げる。
「盗んだのは同じ縦笛部の田中君よ。彼はあなたの事が好きでつい出来心であなたが鼻笛している縦笛を盗んで家でぺろぺろして気が済んだところで学校に持ってきたのだけど返し忘れたのよねえ、田中君。」
ヒナさん…言い方よ。
全て包み隠さず言わなくても…
デリカシー0だな…。
でも僕はヒナさんに勇気をもらった。ヒナさんの姿を一目見たら安心したというか、心の落ち着きを取り戻すことができたのだ。そしてデリカシーのない一言に続いて僕も発言した。
「はい、僕も田中くんが盗んでいるところを見ました。」
実際は見ていない。
「縦笛をぺろぺろしてました。」
実際は見ていないがデリカシー0発言も追加してやった。
だっていいでしょ、僕は危うく加害者にされそうになった被害者なんだからこれぐらいの仕返しをしても。盗んだのは本当の事だし。
みんなが田中君を凝視してる中、あたふたしていた田中君はとうとう膝を折り崩れ落ちた。
「ごめんなさい、つい出来心で。佐藤さんの事が好きすぎて…でもこんな僕ですけどまずは友達からお願いします。」
そう言って盗んだ佐藤さんの縦笛を、田中がぺろぺろした使用済みの縦笛を差し出した田中君。
おい、田中よ。見た目によらず強メンタルだなお前…こんな衆人環視の中、想い人の縦笛盗んでおいて。しかもペロペロまでした縦笛を差し出してよく告白できるな。と僕が感心?呆れていると
「はい、よろしくお願いします。まずは友達からね。」
そう言って佐藤さんは優しく田中君に微笑んで、田中君がペロペロした自分の縦笛を受け取った。
わあああああああああ沸き立つクラスメイト!湧き起こる拍手喝采。佐藤田中の縦笛部ズカップルが誕生しクラスメイトから祝福されたのであった。
…解せぬ。
解せぬ気持ちを抱え祝福される二人を細い目で見ていたら…
「転校生、疑って悪かった。ごめん。」
「俺も悪かった。」
「私は信じてたわよ、転校生君。」
今まで話したこともなかったクラスメイト達が僕に謝罪してくれた。
そして…
「俺の名前は吉田。ヨッシーって呼んでくれよな。」
「この本おもしろいよな、続き貸したげようか?」
「べ、別に転校生の事気になってなんかないんだからね!」
友人関係を構築する事に億劫になっていた僕に久しぶりに友達が出来た。
今まで透明人間だった僕が急にみんなの目に認識されたみたいで嬉しかった。1人で居た方が楽だなんて強がりを言っていたが本当は、本当の僕は求めていたんだと思う。
ほんの少しの勇気ときっかけが欲しかったんだと思う。
そんな勇気ときっかけをくれたハルさんにお礼を言おうと探したがハルさんはもう教室にはいなかった。
その日からハルさんとは会えなくなってしまった。たった1日だけ、僕の為に未来から現れた美少女。
遠藤ヒナさんに会いたい。
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