僕を狙う上級生のヒナさんは、未来から助けに来たという設定らしい。

大口真神

第1話 西村 ハルトは狙われている

「西村 ハルト君。あなたは狙われているわ。」

「誰に?」

「私よ!」

そんな展開から始まる恋もある。

あるんじゃないかな?

あってもいいよね?


ーーーーーーーーーーーーーー


僕の名前は西村 陽翔(はると)16歳。

1年生の2学期という中途ハンパな時期に転校してきた男だ。


転校生というとみんなに騒がれてチヤホヤされるんじゃないかと思う人がいるかもしれないけど、それは幻想で妄想の中だけの出来事だ。美男子、美少女ならそんな展開もあるかもしれないが僕の容姿はいたって平凡だからだ。身長176cmの中肉中背。特に似ている芸能人はいない。あえて、あえて似ている芸能人をあげるなら…北村匠海かな。


…すみません調子にのりました。


そんなザ・平凡な転校生にクラスメイトは誰も興味を示さない。しかも2学期からという中途半端な時期だから夏休みや体育大会というビッグイベントの後でもうすでに交友関係が固まってきているだろうし。


たまに気を使った陽キャな奴が僕に話しかけてくれる事もあるが、こんなパッとしない男には2、3回話したぐらいで興味を失ってしまうみたいだ。


こんな僕でも小学・中学と転校を繰り返していた時には、コミュニケーション下手ながらも友達を作ろうと頑張っていた。失敗することもあったが、それなりに友人や親しいクラスメイトは出来てはいたのだが…


引越しが多い事がネックだった。せっかく仲良くなっても友達との別れが悲しい。そして転校先でまた1から友人関係を構築しないといけない。何度も繰り返すうちに僕は虚しさを感じ、今ではもう友人を作るのを諦めている。


そんな友人関係を諦めたボッチ御用達の必須アイテムといえば、小説やコミックなどだ。もちろん最近はスマホとかでも電子書籍が読めるが紙媒体を好んで読んでいる。


本を読んでいるだけで文学青年といった感じでかっこいいイメージがあるからな。勉強出来そうに見えるし。そんなタテシマのシャツを着るヨコシマな僕が好んで読む本のジャンルが“恋愛”物だ。


人付き合いを諦めた僕には今まで好きになった人はいない。もちろん僕を好きになってくれた人もいない。


憧れなのだ。

学生生活でしか味わえない甘酸っぱい体験をする事が。


今からでも頑張れば間に合うと思うかもしれないが、自分で望んだとはいえ、うっすうすに薄めたカルピスぐらいの濃度しかない学生生活を送っているのだ。毎日学校に行って授業を受けて帰る。その間一言もしゃべらない日もあるぐらいだから、そんな体験など起こり得るはずがない。


そんな僕が読む恋愛小説、恋愛漫画は授業が終わった放課後に1人きりで静かに読める絶好の読書時間なのだ。


授業が終わったのなら早く帰宅して家でゆっくり読めばいいと思うかもしれないが、僕は放課後の学校の雰囲気が好きなのだ。これから何かが起こりそうなワクワクした感じがする雰囲気が。もちろん今まで何も起きた事はないんだけれども…


今日も授業終わりに読みかけの恋愛漫画を読んでいる。

そんな疑似恋愛マスター(自称)ハルトである僕は言いたい事がある。それは…


「お前らの学校、主人公しか男おらんのか〜〜い!」

の魂の一言だ。


常々不満に思っている事の1つだ。

わかるよ、そりゃあ話は主人公を中心に展開していくわけだから主人公に紆余曲折あるのは。


だけれどもよ、女の子みんな主人公に惚れすぎじゃね?諦める子いないの?ってぐらいみんなアピールするよね。引く子いないの?友達が主人公の事好きだったら主人公の事好きにならなくない?


1人目は幼馴染、2人目がクラスのマドンナが主人公を取り合うというのはベタだが設定として有りだ。しかしこれに第3の女が主人公争奪に参戦する事が多々あるが勝ったところを見た事がない。ドラク○5のデボラ的な感じ?


「主人公以外にもいい男はいっぱいいるよ〜〜〜!」と

声を大にして山に向かって叫びたい衝動に駆られる事がよくある。

ううっ今も発作が。


10月を過ぎると陽が暮れるのも早くなる。教室から見える運動場全体にオレンジ色の夕日が差し込んだ頃、もう帰ろうかと漫画をカバンにしまい立ち上がろうとしたら…


教室の後ろのドアがガラリと音を立てて開いた。


誰か忘れ物をして教室に戻ってきたのかなぐらいにしか思わず全くそっちの方に目を向けなかったのだが、コツコツコツと女の人の足音が僕の方に向かって近づいてくる。


そこで初めて目線をそちらに向けるとそこには…


身長は169cmぐらいの背の高いすらりとしたスタイル、髪型はショートカットで少し切れ長の目でキツそうに見えるがクール系美人さん僕の前に立っていた。


何だろうと戸惑っていたら彼女は初対面である僕に向かって開口一番…


「西村 ハルト君。あなたは狙われているわ。」


真剣な表情で言い放ったクール系美女、遠藤ヒナさんとの初めての邂逅であった。




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