第2話 ヒナさんは未来から来たみたいです

「西村 ハルト君。あなたは狙われているわ。」

僕は真剣な表情で言い放ったクール系美女に驚いたが…


「じゃあ、お先に失礼します。」

そう言って横をすり抜けようとした。しかしガッと右肩を掴まれ引き止められた。


「お先に失礼しますって、わざわざ貴方の危機を知らせた私に失礼じゃない?」

「えっちょっと何言っているかわからないんですけど。」

僕は困惑した。


「とにかく座りましょう。話はそれからよ。」

ここで座ると話を聞かなければならなくなるので正直帰りたかったのだが…

掴まれた肩が思ったより強かったので素直に従った。


僕とクール系美女は向かい合わせて座った。


「自己紹介から始めます、私は上級生の遠藤ヒナよ。ヒナと呼んでくれていいわ、西村ハルト君。これから 君の事をハルトと呼ぶわね。」

「何で僕の名前を知っているんですか?」


「あなたを知っているからよ。」

当たり前じゃないって顔してる。そういう意味じゃないんだけど…


「じゃあ僕はいったい誰に狙われているんですか。」

「私よ。」


「じゃあそういう事で。」

僕は下に置いてあったカバンを掴むと立ち上がって帰ろうとする。しかしガッと右肩を掴まれ引き止められた。


「待って待って!帰ろうとしないで、ちゃんと最後まで話を聞いてちょうだい。」


僕はおとなしく座り直した。

なぜなら掴まれた肩が思ったより強かったので素直に従った。


「どういう事なんですか?僕をからかっているんですか?」

「からかってなんかいないわ。狙われているって言ったのは言葉のアヤだから。ちょっとインパクトがあった言葉の方が聞いてくれるかなと思って勢いでつい…てへっ」


てへっじゃないてへっじゃ。あざとさ100%しかないけど可愛いから許しちゃうぞ。


「で?」

「あなたを救いたいのよ。ううん救うだなんておこがましいわ、あなたの助けになりたい。」


「助けになりたいって、あなたが僕の何を知っているっていうんですか。」

僕がそう言うと今までのふざけた態度を改めて、最初に会った時のようにクール系美女の体裁を整えた。


「あなたの事を私はよ〜く知っているわ。」

澄んだ綺麗な声に引き込まれる。


「私は未来からあなたを救う為に来たの。」

「なっなんだってええええええええええ」

僕は下に置いてあったカバンを掴むと立ち上がって帰ろうとする。


「ちょっと待って待って!帰ろうとしないで、私だって言うの恥ずかしかったんだから最後まで聞いて!」

僕はまたおとなしく座り直した。

なぜなら今掴まれた肩に爪が食い込んで血が出ていたからだ。ものすごい馬鹿力だ。


「私には未来の記憶があるの。それは私が高校、大学を卒業して某有名会社に就職、そして数年後に他の優秀な男性社員を押しのけて女性として初めて課長に最短昇進した記憶。私生活でももちろん、もててもてて困るぐらいだったわ。恋愛ソムリエなんて呼ばれていたぐらいにね。ちょっと!寝ないで!本当の事だから。」

僕は目を覚ました。


「そんな飛ぶ鳥を落とす勢いの課長だった時に一緒のプロジェクトメンバーだったハルト君と知り合った記憶があるの。おかしいでしょう?」

「はいはい、おかしいですね。」


「私だっておかしいと思ってたわよ。だけどねどれもこれも鮮明に思い出せるの。だから仮定なんだけれど一度私が歩んだ人生をタイムスリップしてやり直しているんじゃないかってね。そう考えると全てのつじつまが合うの。」

「タイムスリップ物ですか、まあベタですけど無くは無いですね。」


「えっこんな話で分かってくれるの?まだまだ説明し足りないんだけど。」

「いえ、小説や漫画なんかではよくありますよ。タイムスリップしてやり直すっていうのが。だから何か心残りでこの時代に戻ったっていう可能性があるんじゃないですかね。まあ信じてはいないですけど。」


「…そうね、心残りね。」

「何か心あたりがあるんですか?」


「私とあなたが一緒に仕事をしていた時、もうすぐ完成という段階で貴方は体を壊し入院する事になるわ。その後治療の甲斐なく亡くなるの。」

「なっなんだってえええええええって、作り話だとはいえさすがにそれは笑えないです。」

嘘だとわかってはいても自分が死ぬ話は聞きたくないものだ。


「未来のあなたは仕事は出来るけど、対人恐怖症に近い…人と接することを極度に恐れていた人だったわ。」

「えっ確かに人とコミュニケーションを取ることは億劫ですがそこまででは…。」


「リーダーだった私はハルトと打ち合わせする機会も多く、何度も何度も根気強く接していたの。」

「信じてないけどすみません。未来の僕が迷惑おかけしました。」


「その甲斐あって最初は片言の挨拶程度が、徐々に会話も増えていき私に身も心を許してくれるほどになったわ。」

「身は許してないですよね?多分。」


「そんな状況であなたは体を壊し亡くなってしまった。でも、ハルトが死ぬ前に見舞いに行った私に言ったの…」

ここで彼女は黙ってしまう。

うつむいた彼女はその時を思い出したのだろう少し涙ぐんで見えた。


「だから私は未練というかあの時に戻りたいと強く思ったんでしょうね。」

「えっ何て言ったんですか?僕は最後に何て?」


「病気になる前、ハルトが私に気を許すようになってからは身の上話などもいっぱい話してくれたわ。」

「えっ無視?最後何って言ったか無視?聞こえてますよね?」


「この学校に転校してきて毎日放課後に教室で本を読むのが好きだったという事を思い出して。」

「えっ何でそれを…」


「そしてあなたが言っていた高校2年生の忌まわしい思い出、人間不信になった原因の事件の事を伝えるために、私は今日ハルトに会いに来たのよ。」

そう言って彼女、ヒナさんは綺麗な瞳でまっすぐ僕を見つめた。

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