347:IVCS②

 IVCS最終戦。


 ボク達は毎度の如く指定されたポイントへと降下する。近くには元プロのいるチームがいるのもあって、警戒を忘れずに物資を漁っていく。


 距離こそそれなりにあるものの、前の試合で構成を見ていた感じは機動力特化の編成で蹂躙するのを前提にしているようだったのを見るといつここへ来てもおかしくない。


 ただマシなのは残りの二人の実力が低めだと言う事。じゃないとプロをメンバーに入れられないからっていうのもあるけどね。


「あのチームをなんとか抑えないと、優勝はありませんね」

「流石に元プロ。すでにキルしてるの。まだラウンド1の収縮中なの」

『向こうの取るルート次第だけど、激戦区へ行くのとボク達のいる所に行くのとどっちが得かって言えば⋯⋯こっちだよね?』

「そうですね⋯⋯流石に確実に順位ポイントが欲しいチームからすれば、激戦区でキルポのワンチャン狙いよりも確実に1チームと戦って勝って順位を上げる方が確実だと思いますねー」

「ぼくもそう思うの。とりあえず、今と次のラウンドのリングには入れてるから、固めて次のラウンドで移動先を見るのが一番良いとは思うの」


 これからの行動を話し合っていると、ふと何か音がした気がした。


『ふわりお姉ちゃん、今動いた?』

「動いてないですよー?」

「ぼくも動いてないの」

『音がしたような気が⋯⋯?

 ハッカーのドローンで様子見た方が良いかな?』

「待つの」


 なのお姉ちゃんがそう言うと、今度ははっきりと音が聞こえてきた。


『いるね!』

「私も聞こえましたー」

「とりあえず、このポイントを守るのが大事なの」


 ボク達は外から撃たれる場所の少ない2階建ての建物を拠点にしていた。回復はそれなりにあるけど、アモが少ないから、あまり外に弾をばら撒きたくはない。


『お、音が近いよ!?』

「来るの!」


 そうなのお姉ちゃんが叫ぶと、家の中にグレネードが投げ込まれる。


 幸い、グレネードは目の前の階段から一階へ落ちていったのもあって誰もダメージを受けずに済んだ。


 けれど安心したのも束の間、敵が勢いよく入ってきた。


「ぼくが削るから一緒にピークして欲しいの!」

『わかったよ!』

「わかりましたー」


 そう言いながら、なのお姉ちゃんが削った敵をしっかりダウンまで持って行く。


『1ダウン!』


 ダウンさせた相手の名前的に元プロのチームではなく、実力派のいまなんじメンバーと他事務所の仲の良い人で組んだパーティーのようだった。


「2ダウンなの!ラス1詰めるの!」

「ピンで場所を教えてください!」

「ここなの!今ぼくはリロード中なの」

「わかりましたー!

って逃げようとしてますね!逃しませんよー!」


 ふわりお姉ちゃんはそう言いながら逃げる相手に追撃をするべく撃ちまくるが、削りきれない。


「くっ、逃げられました⋯⋯」

「2人やっただけでも十分なの。

 とりあえず確キル入れてキルポうまうまするの」

「そうですねぇ⋯⋯」


 そして二人が確キルを入れている間にボクはハッカーのスキルで周囲の部隊数を確認する。


 確キルが終わる前は1部隊だったけれど、確キルが入ると周囲の部隊数は0に。


『うん、もういないみたい!』

「ゆかちゃんありがとうございますー」

「さっきのは良い感じだったの。

 この調子で頑張るの」


 それから拠点を守りつつ、リングの行方を見守っていたけれど、ラウンド3に入るとボク達の場所は安置外に。


「流石に入りませんでしたかー」

「こればかりは運ゲーだから仕方ないの」


 安置から外れたのを確認してすぐに、建物を出て移動を始めると、移動中の部隊と目の前でぶつかってしまった。


「「『あっ』」」


 スキンの見た目的に多分、れなお姉ちゃんのいるチームだと思う。


「とりあえず、物陰に移動するの!

 何も無い平地で戦うのは危険なの!」

『う、うん!』


 すぐに身を隠せそうな場所を探すけど、小さな岩くらいしか見つからない。


「くぅ、仕方ないの」

「やるんですねー?」

『が、頑張るね!』


 お互い隠れる場所の無い戦闘が始まる。



「くっ、ダメがやばいの」

「私がスイッチします。バッテリー巻いてください!」

「助かるの」

『今のうちにウルト切っちゃうね!』

「お願いするの!」


 そしてなのお姉ちゃんがバッテリーを巻き終わる直前に、ボクはウルトを発動する。


 全員のアーマーにダメージが入るけど、バッテリーをその瞬間に巻き終わったなのお姉ちゃんが攻勢に出る。


「1ダウンなの!」


 なのお姉ちゃんが元プロの人をダウンさせて、残り2人。


「あっ、ダウンしちゃったの!

 ふわり、シールド張るからあとは頼んだの!」

「了解しましたー!

 あうっ、ダウンしちゃいましたけど2ダウンです!」


 ふわりお姉ちゃんがさくらちゃんをダウンさせて残り1人。こっちも一人だけど、


『これで、終わ』


 れなお姉ちゃんを倒して終わりと思った、その瞬間——


『キルパク!?』


 アーマーを割ったと思った瞬間に目の前でスナイパーに撃たれて倒されるれなお姉ちゃん。


「漁夫!?」

「ここで来るとか性格悪すぎなの!!」

『ちょっ!?体力無いよ!?』


 流石にこれは無理だと悟ったボクたち。


 抵抗を試みるものの、少ない体力では何もできずにキルされてしまい、最終戦は終了。


 試合結果は、4キルで順位は8位。


 結果的に総合4位で終了となったのだった。



「すまねぇ、流石に3人からピークされたらキツイわ」

「ごめんにゃ!ダウンしちゃったにゃ!」


 チームメンバーが全員落とされた。

 先輩達が強いのは分かっていたけれど、近距離のエイム勝負に持ち込まれた。


「ラスト、半分は削れてるはずだにゃ!」


 さくらちゃんが敵の体力情報を教えてくれる。それなら⋯⋯


「ここで決着と行くし!」


 勝てばふわり先輩に良い所見せられるはずなんだから、絶対に負けられない。


「リロード!?今しか!」


 あっちがリロードモーションに入ったタイミングで私はサブ武器に持ち替えてトドメを刺そうとした瞬間、希望が絶望に変わる。


「うきゃぁ!?!?」


 突然、体力が全て削られ、部隊全滅の文字が現れる。


「なんでここで漁夫が来るんだしいいいいいい!!!」

「あー、これはドンマイだわ」

「でも良い勝負だったにゃ」


 これは仕方のない負け。良い勝負をしていただけに悔しさは残るけど、あんな場所で戦闘をしてしまったのが運の尽き。


「ゆかちゃんと白黒つけたかったし⋯⋯」


 せめて、あの一騎打ちだけでも制したかったな。


「それなら改めて勝負を挑むと良いと思うにゃ」

「改めて⋯⋯それだとふわり先輩を取られちゃうし⋯⋯」

「そんなにふわり先輩が好きなのかにゃ?」

「そりゃ好きに決まってます!!」

「どんなところが好きなのかにゃ?」


 聞かれたなら、答えないのは失礼だよね!!


「まず、先輩は優しいんです。

 初配信でエルフの胸は小さい方が良い派が起こした炎上の時も気にしなくて良いって。私は小さい方が好きだけど、大きな胸が好きなのもわかりますよって言ってくれたんです。それに、よく見たら先輩って結構良いものをお持ちですし、それに可愛いし、なんかふわふわしてそうなのに包容力すごくて、ああ、思い出したらなんか興奮してきたし!!それにそれに、私に会う度に可愛い顔して笑顔で挨拶してくれるんだし!絶対うちに気があるに決まってるし!それにVのイラストもめちゃシコだし、もう全てが最高なんだし!!それにそれに⋯⋯」

「よくわかったにゃ。

 やべーやつは伊達じゃなかったにゃ」


「先輩ってショタコンに見えて可愛い女の子も好きってなったらもう、これはアレだし、うちも可愛い子になってアピールするしかないなってなって、気合い入れてオシャレしたら、今日のウチが可愛いって褒めてくれたんだし!でもその日の先輩も凄く綺麗で、もうあの日のウチはよく我慢出来たなって今思うと凄いし!今なら即ベッドイン間違い無しだし!

それはそうとあのゆかちゃんだし。突然現れたと思ったら先輩の心鷲掴みにして、完全に泥棒猫と言うか。

確かに、ちょっと可愛いなとは思ったけど、男なんてみんなオオカミなんだし。きっと先輩の事だけじゃなくて周りの子もまとめてみんなおいしくいただくつもりに決まってるし!」

「は?」

「えっ」

「ゆかちゃんがそんなことするわけないにゃ。

 ゆかちゃんは襲われる方って相場が決まってるのにゃ。それはわからない素人は黙ってろにゃ」

「えっあの、なんか怖いし」

「あ?」

「な、なんでもないし⋯⋯」

「なら良いにゃ。とりあえず、結果発表もあるし、向こうのサーバーに入るにゃ」

「わ、わかったし⋯⋯」


 なんかいきなりすごい圧を感じた私は思わず語りをやめてしまった。なんかよくわからないけど、この子の前でゆかちゃんを悪く言ったらだめだっていうのはよく分かった。気を付けないと。


「あっ、そうだにゃ。一つ言い忘れてたにゃ」

「な、なんだし?」

「次はないにゃ」

「ヒエッ」


 この配信を見ていたリスナーから、さくらちゃんは怒らせると怖いだとか、クレイジーサイコレズナだとか無茶苦茶言われていたのだとか。

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