体育館裏の怪異⑦


 数分後。


「ほ、本当に自滅した……」


 僕は足元に積み上がる、倒れたヤンキーの山を見下ろした。


 信じられない。僕がヤンキーを倒すなんて。それも六人も!


「安い挑発に乗るアホな連中で助かったな」


「スナカケの作戦通りだね」


 スナカケの作戦――それは、


『挑発して一気に殴り掛かって来たところを、お前の類稀たぐいまれなる影の薄さでかく乱するのじゃ』


 という、失敗したら目も当てられないような内容だった。


 けど普通に殴り合うよりはましだ。何の策も無しに彼らに挑めば、ケンカ慣れしてない(そもそも相手がいない)僕がボロ負けするのは目に見えている。


 僕はスナカケの指示通りの口汚い台詞セリフで彼らを挑発し、一度に襲い掛かってくるよう仕向けた。


 あの金髪のヤンボスだけは乗ってこなかったけど、他の五人をその気にさせることに成功。


 四方から突っ込んでくる不良たちの前をちょこまかと逃げ回っていたら、彼らの攻撃が見事に逸れてお互いに殴り合う形になったのだ。


「まさか本当に一発も貰わんとは驚きじゃ。お前のそのよくわからん体質が役に立ったな!」


「えっ。絶対に大丈夫って言ってなかった!? 当たったらどうするつもりだったのさ」


 スナカケが言ったんだ。


 絶対に大丈夫だから、わしを信じろって。


 だから僕はこんな危険な作戦を決行したのに。


「はあ、尻の穴の小さいヤツめ。逃げないと言ったのはとおるじゃろ。それくらい覚悟せい」


「それもそっか……。ゴメンよ、スナカケ」


「まあ、結果オーライじゃ。敵の大将を倒したお前の一撃、なかなかだったぞ」


 大将というのは、最後に襲い掛かってきたヤンボスのことだ。


 彼はキックボクシングでもやってるのかと思うくらいの素晴らしい蹴りを披露してきて、僕は今度こそ本気で殺されるかと思った。


 しかしそんな彼ですらも、僕に攻撃を当てることは出来なかった。


 僕はしばらく攻撃を避け続けていたが、やがて立ち向かう決意をした。逃げ回っていたところで、彼と相打ちになってくれる彼の仲間は残っていなかったからだ。


 ヤンボスが疲れ始めたところで、僕は友達の……敢えてもっかい言うけど、友達! の言葉を信じて突っ込んだ。


 途中、本当に攻撃を食らいそうになったけれど、


「スナカケが塩で目潰ししてくれたおかげだよ」


 友達の援護もあって、僕はヤンボスを倒すことに成功した。


 前のめりに転んで相手の大事なところに頭突きをかますという、恐ろしくカッコ悪い勝ち方だったことは、この際どうでもいい。


 ケンカにカッコいいも悪いもない。


「ふたりがかりで、めっちゃ卑怯だった気もするがの」


「関係ないよ! 向こうは元々六人もいたんだから。卑怯なのはあっちだ」


「おお、お前も言うようになったの。わしは嬉しいぞ」


 スナカケは大きな声で笑いながら、僕の背中をバンバン叩いた。

 ぷにぷにして柔らかいので、全然痛くはない。


 もしかして、肉球なのかな。これ。


「……スナカケ」


「なんじゃ?」


「ありがとね……」


 なんとなくでしかわからない、彼の背中らしき場所をポンと叩く。


 照れくさそうに丸められた友達の背中は、なんだかフカフカして温かかった。



<END>



 あとがき


 今回は、一話と違ってバッチくないお話です。

 スナカケのモデルは言うまでもなく砂かけ婆なのですが、あれこれ調べているうちに砂き狸(砂かけ婆と似たようなものです)かな? という感じで落ち着きました。砂かけ婆の正体は狸とも言われていますし、あまり変わらないですね。

 かなり勢いで書き上げましたので、後ほど改稿することになるかもしれません。

 透くんはまた別の話にも出てくると思いますので、その時は温かな目で見守ってあげてくださると幸いです。


 お読みいただき、ありがとうございました。

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短編集・百危夜行(仮) 神庭 @kakuIvuki

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