体育館裏の怪異⑥


「ど、どういうこと!? さっき、友達が増えるって」


 おろおろする僕に、スナカケはめちゃくちゃ長いため息をついて聞かせた。


 前方には、肩をぐるんぐるん回しながら殺意満点の眼差しを送ってくるオールバックの人と、楽しげに見守る(?)仲間の人たち。


「だから、それが冗談だと言ったんじゃ!」


「そうなの!?」


「かーっ! 呆れを通り越して最早愉快になってきたわ。ええか、とおるよ。あのヤンキーどもは、お前を手酷く打ち据えて、この場所を自分たちの縄張りにするつもりじゃ」


「えーーーっ!?」


「お前に出来ることはひとつ。ボコボコにされるまえに、さっさと逃げろ」


「そんな……スナカケは?」


「心配するな。あのアホどもにわしの姿は見えん」


「そ、そうじゃなくて……っ」


「じゃあ一体なんだというんじゃ」


「逃げてこの場所取られちゃったら、僕これから毎日、キミとお昼を食べられなくなっちゃう!」


 僕の言葉に、スナカケが息を飲む。


 と、同時にオールバックの第二撃が僕を襲った。


 漫画に出てきそうな人たちだけど、やっぱり、漫画みたいに話が終わるまでは待っててくれないみたい。


「わわっ」


 またしても見事なフックが、僕から狙いを外して空振りする。


「おいこら、何してんだタツヤァ!!」


 ヤンボスが、聞いてるだけで胃がキュッとなりそうな大声で怒鳴った。


「ご、ごめん海野うみのクン……」


 オールバックの顔に恐怖が滲む。


 どうやらこの二人の上下関係は見たまんまの感じらしい。


 そこに、外野四名のヤジが飛ぶ。


「だらしねーぞ、タツヤ!」


「そうだぞ、そんな弱そうなヤツ相手になにやってんだ」


「うるせー。なんかコイツ変なんだよ! ボヤボヤして狙いが定まんねェ」


「言い訳してんじゃねーぞ、タツヤ!」


 ヤンキーたちがギャアギャア騒ぎ始めた。


 オールバックは内輪揉めに夢中で、僕を殴ろうとしていたことなんて忘れているみたいだ。


「……とおる


「逃げないからね」


「やれやれ。強情っぱりめ」


 スナカケが僕の背中をポンポンと叩いた。


 あったかい……。


 僕の心に巣食っていた恐怖心が、薄れていくような気がした。


「透よ、今から試すとしよう。お前がここから逃げることなく、我々の居場所を守る方法をな」


 顔も見えないのに、スナカケが不敵に笑うのがわかる。


「う、うん!」


 サラリサラリと、スナカケが大きな手の中で塩を弄ぶ音が聞こえた。


<⑦に続く>

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