体育館裏の怪異⑤
「喜べ、
「……え?」
スナカケが嬉々とした様子で、両手を打ち鳴らす。
振り返ると、校舎裏の曲がり角に複数名の男の人が立っていた。
着ているのは僕と同じ、この高校の制服。ちなみに学ランタイプ。
ただし、上から下まできっちり着込んでいる僕とは違って、やたらと開放的かつ挑発的なアレンジを加えた着こなしだった。
なんて言うんだっけ。そうだ、短ランとボンタン。
さすがにリーゼントの人はいないけれど、真っ黄色の人はいた。
漫画に出てくるヤンキーそのまんまだ。
「見ろ、透。モノホンのヤンキーじゃ。すごいのう、すごいのう」
「ちょ……声が大きいよ!」
「なあに。お前のほかには聞こえはせんよ」
ええ……ッ!?
僕は焦った。
焦った末に、思い出した。
そうだ。僕、影が薄いから……。
「なァにを一人でブツブツいってんだ? テメー」
「かっ、絡まれた!?」
僕が見えてる? 認識されてる!?
「人聞き悪いこと言ってんじゃねえぞ。なあ、お前ら」
ヤンキー(数えてみたら六人いた)の中でもひと際目立つ、派手な金髪にサングラスを乗せた男が、僕の目の前までやってきてオラつき始めた。
ガタガタと震え出す僕の肩を強引に抱いて顔を近付ける。
どうしよう。こんなことは初めてだ。
「す、スキンシップ……」
「あ? なんか知らんが、少し前から昼休みになると楽しそうな声が聞こえるもんでな。ずいぶんと居心地良さそうじゃねえか」
タバコ臭い。
タバコ臭いけど、今めっちゃ話し掛けられてる。
「で。仲間内で話し合った結果、今日からココはオレたちの溜まり場になるんで、ヨロ~」
「い、一緒にお昼ご飯食べてくれるってことですか!?」
僕はちょっと興奮して訊いた。
「はァ?」
ヤンキーのボス、略してヤンボスが首を傾げる。
「ほほ。良かったな、
「でも、いきなり六人もなんて」
いいのかな!?
僕にとって都合が良すぎて、夢でも見ているんじゃないかと思う。
ただでさえ、こんな大勢に囲まれて話し掛けて貰えるなんて今までなかったのに。
しかもこの人……僕の肩に手を。友達っぽいことを。はわわわわ。
「
「あ? なんか知らねえけど、退く気がないならやっちまえ」
「了解っす!」
不意に、ヤンボスに捕まっていた僕の肩が解放される。
身体から力が抜けていたため、ふわりと宙に投げ出された僕の前に、ヤンボスと入れ替わるようにして黒髪をオールバックにした男が出てくる。
いじり過ぎて眉毛が無くなりかけてるけど、愛嬌ある顔してるなあ。
オールバックの人は、僕を正面に据えるなり、大きく腕を振りかぶった。
「オラァ!!」
いつかボクシングのテレビ番組で見たような、美しいフォーム。
そこから強烈なフックが繰り出されるのだと、さすがの僕でもわかった。
すごいなー。うちにはボクシング部はないけど、どこかで本格的にやってるのかな。
「避けろ、透!」
耳元で、スナカケの声が響いた。
珍しく、鋭く硬質で緊張を孕んだ声だった。
「わァ!」
素っ頓狂な声を上げて、僕は後ろに転倒する。
「チィ。外れちまった」
「あ、あの……凄かった、よ?」
「ハァ~!? ナメてんのか、テメー。ブッ殺すぞ!!」
オールバックの人が怒り始めた。
ボクシングの技を披露してくれたのかと思ったのだが、本気で当てるつもりだったらしい。
僕は真後ろに感じるスナカケの気配に向かって、小声で話し掛ける。
「ど、どうしよう。怒ってるよ? 本当に友達になってくれるのかな?」
わざとらしいため息が聞こえた。
「
「なんのこと? 冗談って?」
「おお。なんと不憫な子じゃ」
芝居がかった口調で、スナカケが泣きまねをする。
今時、『ヨヨヨ』なんて言わないよ。
さすがに突っ込んだ僕の背中に、彼の大きな手が触れる。
やっぱり、プニッとしてる。
「なあ、
「な、なんだよ……あらたまって」
「この不良どもには、お前の友になる気などさらさら無い」
「え……っ」
ええええええーーーーーーーーーーーーっ!?
その日僕は、森透史上“大声の最大記録”を更新した。
<⑥に続く>
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