第53話 バイキングの故事にならう

 アルゲアス王国の王都クインペーラを出発してから五日後の昼、俺は戦場に到着した。

 場所は予定通りルターバの町近郊の平原だ。


 現在、俺は単身で動いている。

 バルバル傭兵軍は、ルターバの町に船で到着し移動中だ。


 小高い丘から、戦場全体を見る。

 アルゲアス王国軍は、最短距離を陸上移動したので、先着していた。


 既に戦いは始まっていて、騎馬民族キリタイの騎兵が平原を縦横無尽に疾駆している。


「スマッホ!」


 俺はスキル『スマッホ!』を起ち上げて、情報画面で両軍の状況確認を始めた。



 ◆アルゲアス王国軍


 総兵力:約七千五百


 騎兵:二千

 歩兵:五千

 弓兵:五百

 魔法兵:若干名



 ◆騎馬民族キリタイ軍


 総兵力:五千


 軽騎兵:五千



 アルゲアス王国軍と騎馬民族キリタイは、既に戦闘に入っている。

 総兵力ではアルゲアス王国軍が約七千五百と有利だが、騎兵の数は騎馬民族キリタイ軍の方が三千も多い。


 眼下で広がる会戦では、キリタイ軍がダイナミックに騎兵を動かし、アルゲアス王国軍を圧倒しているように見える。


 特にキリタイ軍騎兵は、普段着ている服に革の胸当てや革兜をかぶっただけの軽装なので、馬への負担が少なくスピードがある。


 一方のアルゲアス王国軍の騎兵は、金属製の兜をつけ、金属で補強した防具を身につけているので、キリタイ軍騎兵ほどのスピードは出せない。


 同じ騎兵同士の戦いでも、スピードで翻弄されてしまっている。


(騎馬民族は侮れないな。平原では大陸最強かもしれん)


 俺はスキル『スマッホ!』で情報収集を続ける。

 アルゲアス王国軍の指揮官はアレックス王太子で超優秀、騎馬民族キリタイ軍は――。


(あっ! ヤバイ!)


 敵騎馬民族キリタイ軍の指揮官も出来るヤツだった。


『マデュエス キリタイの族長 優秀』


 地域大国に成長しつつあるアルゲアス王国に戦争を吹っかけるのだ。

 キリタイの族長が無能なわけがない。


 やれやれである。

 優秀な敵と戦うのは骨が折れる。


 俺は気合いを入れ直し、丘を下り、アルゲアス王国軍の本陣へ向かった。



 *



「バルバル傭兵軍大将のガイアだ! アレックス王太子に着陣報告を願う! お取り次ぎあれ!」


 俺がアルゲアス王国軍の本陣で名乗ると、すぐにアレックス王太子の元に通された。

 アレックス王太子は渋い顔をしていたが、俺の顔を見ると笑顔になった。

 遅れて到着した俺たちは、貴重な追加戦力だから嬉しいのだろう。


「来たか!」


「遅れてスマン! 大分押されているようだな」


 時間が惜しいので、俺は単刀直入にズバリと聞いた。

 アレックス王太子は苦笑しつつ答える。


「騎兵が思ったより集まらなくてな。兵数はこちらが多いが、騎兵の数はこちらが少ない」


「うむ。そこの丘の上から見させてもらった」


 アレックス王太子が、ジッと俺を見つめる。

 そして、一言だけ発した。


「なんとかならんか?」


 俺もアレックス王太子を見返し、一言だけ発した。


「なんとかしよう」


 アレックス王太子の周りにいる将官たちは、呆れた表情をしている。

 だが、俺はアレックス王太子と十分通じ合えたと感じた。


 アレックス王太子の前に野戦用の簡易なテーブルが置いてあり、その上に敵味方の布陣を現す木製の駒が置いてある。


 アルゲアス王国軍の歩兵は横陣を敷いているが、騎馬民族キリタイ軍の軽騎兵による一撃離脱戦法で徐々に削られている。

 アルゲアス王国軍騎兵は、騎馬民族キリタイ軍騎兵の一部を追いかけて、既に平原中央に引っ張り出されてしまった。


 騎兵は囮に引っかかって、戦力分断されているのだ。


 俺はサッと目を通し、先ほど丘の上から見た状況とスキル『スマッホ!』の情報を重ね合わせてから、アレックス王太子に進言した。


「俺たちバルバルは、一番左に陣を敷こう」


「大丈夫か? 端は敵の攻撃がキツイぞ?」


 横陣は中央突破で分断するか、端を崩す戦法をとる。

 アルゲアス王国軍歩兵は、アレックス王太子のいる中央を厚くしているので、敵キリタイは端を攻めている。


 敵のターゲットになる位置に布陣するのだから、集中攻撃を受けるだろう。

 だが、それで良い。


 俺は平然とアレックス王太子に答えた。


「大丈夫だ。左端が良い。川から近いからな」


「川から? それはどういう意味だ?」


 丁度、その時、スキル『スマッホ!』の情報画面に、バルバル傭兵軍の姿が映った。

 丘の向こうまで来ている。

 俺は丘の上を指さし、アレックス王太子にニヤリと笑った。


「こういう意味さ!」


 丘の向こうから、バルバル傭兵軍のかけ声が聞こえる。


「「「「「「そーれ! そーれ! そーれ!」」」」」」


 丘の上に旗が見えた、次に帆柱が見えた。

 アルゲアス王国軍の将官たちが、ざわめき出す。


「なんだ!? あれは!?」

「援軍であろうが……、一体何をしている!?」

「待て! あれは船ではないか!?」


 丘の上にバルバル傭兵軍のロングシップ三隻が姿を見せた。


「「「「「「なっ!?」」」」」」


 アルゲアス王国軍の将官たちは、度肝を抜かれ言葉を失った。

 アレックス王太子も目を大きく見開いて、しばらく無言だった。


「バカな! どうやった!? どうやったら船が陸に上がるのだ!?」


 船が丘の上に登ったカラクリは簡単だ。

 ロングシップの下にロープを何本も渡し、男たちがロープをかついでロングシップを浮かせたのだ。


 木造船としては、軽量のロングシップ――バイキング船だから出来る芸当だ。


 今回の作戦は、バイキングの故事にならった。

 かつて地球世界でバイキングは、北海から川を伝って黒海に至る商業ルートを開いた。

 川がつながっていない箇所があったが、バイキングたちはバイキング船を担いで陸を越えたのだ。


 さて、今回の俺の作戦は、『ロングシップを陸に上げて、移動要塞として使う』だが、都合の良いことに丘に船を上げることが出来た。

 丘からソリ滑りの要領で、船で下れば面白かろう。


 俺たちバルバル傭兵軍のロングシップ三隻が登場したことで、戦場の動きは止まっている。

 騎馬民族キリタイ軍も何が起ったのか、次に何が起るのかわからず、動けないでいるのだろう。


 俺はアレックス王太子にひと声かける。


「俺たちが騎兵を引きつける! ある程度崩したら横腹をついてくれ!」


「了解した!」


 俺はバルバル傭兵軍が待つ丘の上へ向かって、全力で走り出した。

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【コミカライズ】蛮族転生! 負け戦から始まる異世界征服 武蔵野純平@蛮族転生!コミカライズ @musashino-jyunpei

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