10話.[知っているから]

「最近、なんか甘えてくれなくなったよね」


 まだ一ヶ月も経過していないのにもう飽きてきてしまったのかもしれない。

 でも、本当なら他の子と恋をする方がいいわけだからそれも仕方がない話だ。

 父としてもその方がもっと自然に一緒にいられるだろうし。


「だって悠木君はキスしてくれないんだもん、もうもやもやしながら寝るのは嫌なんだもん」

「もやもやって言うけど、抱きしめることは普通にするよね?」

「だからこそだよ!」


 ばーん! と大きな音が聞こえた気がした。

 あのお祭りの日も本当は我慢していただけだったらしい。

 いやそこでさらっとできるような人間なら逆に嫌じゃないだろうか?


「したらまた甘えてくれるの?」

「おやおや~? 実は触れられるのが嬉しかったのかな~?」

「それはそうでしょ」

「あ……そうですか」


 ん? あ、それで優位な状態でいられるとでも思ったのだろうか?

 彼女はもう少しぐらい僕という人間を知った方がいい。

 好きなんだ、そんな相手から触れられて嬉しくないわけがないだろう。


「え、あの、ちょ……」

「するよ?」


 いつでも受け身でいてはならない。

 キスをしなかったばっかりに他の異性のところに行かれても嫌だから。

 彼女的にその方がいいというだけで納得できるわけがないんだ。


「ま、待ってっ」

「分かった」


 無理やりやってしまったら付き合っていても犯罪だから距離を作った。

 暴走したら不味いからというのと、その方が安心できるだろうからという考えだ。

 とにかく、これで暫くは言ってくることもなくなるだろう。

 僕的にはあくまで健全的に仲良くしたいからこのままでいい。


「……あれぇ?」


 あくまで平和に終わってよかったなんて考えていたのにどうしてこうなったのか。


「悠木君が攻めなんてありえないから」


 ということらしい。

 僕的にも甘えてきてくれる方がいいからこの方がありがたかったりもする。

 ただ、女の子が浮かべていい笑みではない気がした。

 なので、後で必ずうわー! ってなるだろうからあんまり見ないようにしておく。

 全てではなくても僕は彼女のことを知っているから。


「え、えっと、ここからどうすればいいの?」

「さあ? 僕は経験したことがないからね」

「あ、え、こう……ぶちゅーっとお!」

「危ないよ!」


 キスどころの話ではなくなる。

 ふたりで悶絶してトラウマになるかもしれないぐらいの勢いがあった。

 とにかく落ち着いてと言おうとしたら今度はあっさりとされて固まる。


「ふふ、作戦成功っ」


 ……そういう笑みも悪くないかなと思ってしまったのは内緒にしてほしかった。

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82作品目 Rinora @rianora_

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