09話.[向き合えそうだ]
「こんにちは」
「お、こんにちは」
俊介の家に行こうとしていたときに彼女と遭遇した。
聞いてみたら予定は特にないということだったから付き合ってもらうことにする。
多分、こういうタイプは普通に好きだと思うから。
「はい、って、なんで泉がいるんだ?」
「悠木さんに誘われました」
「まあいい、用がないから上がっていけよ」
別にそのために動いているわけではない。
単純に彼が誰かと話しているところを見るのが好きだからと巻き込んだだけ。
ただ、彼女は自ら自己紹介をしたぐらいだから損ばかりというわけでもないはず。
渡してくれた飲み物を飲ませてもらってふたりが話しているのを見ていた。
「運動会か」
「はい、九月にあるんです」
そうか、そういえば忘れてた。
きっと父は今年も無理だろうから僕が代わりに見に行こうと思う。
お弁当を作ってあげればきっと満足してくれる。
もちろん、不満がないわけじゃないだろうけど……仕方がないことだから。
「泉はそういうの苦手じゃないのか?」
「どうでしょうか……」
「おいおい、自分のことなんだぞ?」
「恥ずかしいから嫌だとかそういう風に感じたことはありませんね」
彼女は何事にも淡々と向き合えそうだった。
でも、急に引っ越すことになったんだから抑えているとも考えられる。
そういうときにひとりでも信用できる相手がいてくれれば違うからひとりにならないでほしかった。
まあ、そもそも深鈴が放っておくわけがないからそんなことにはならないか。
「深鈴とはどうなんだ?」
「深鈴さんは私とずっといてくれています、ひとりでは嫌なので本当にありがたいことですね」
「そうか、なんか深鈴らしいな」
「悠木さんとお付き合いを始めてからもそのままでいてくれているので嬉しいです」
「切り替えはできる人間だからな」
ちょっと待ってほしい、どうしてそれを知っているのかが気になる。
だってわざわざ言うことではない……ことだよね?
しかも相手が実の兄となればやべー感じになってしまいそうだし……。
「あ、深鈴さんが教えてくれたわけではないですから安心してください」
「え、じゃあ……どうやって」
「話しているときのトーンの変化で分かりました」
彼はそれを聞いてひとり呑気に笑っていた。
こんなことを深鈴が知ったらきっと「えー!」とすごいリアクションをしそうだ。
知らなかった方がいいこともあるということで、これは内緒にしておくことに。
「ははは、深鈴らしいな」
「笑い事じゃないよ……」
友達に突っつかれるようなことがなければいいけど、と願うしかなかった。
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