十月七日の夜、私は異世界転生した。

とは

十月七日、夜。

「ふぅ、疲れたけど幸せな日だったなぁ」


 布団に入り、私は一日を振り返る。

 九月から、私には新たな仕事が与えられた。

 環境の変化、覚えなければいけない仕事。

 器用ではない自分にとって、ここ数週間はあっという間に過ぎていくだけの日々だった。


 十月七日、今日は私の誕生日だ。

 会社ではおめでとうの声を掛けられ、SNSで「今日は誕生日。とはをこれからもよろしく!」と書いて投稿した言葉には、たくさんの人達から温かいメッセージがもらえた。


 さて、早く寝るとしよう。

 少しでも仕事を早く終わらせようと、最近は早出出勤を心がけているのだ。

 同僚たちは部署が変わった私を気にかけ、声掛けや他の仕事を手伝ってくれている。

 だが、いつまでもその優しさに甘えているわけにもいかない。

 

「やらなきゃ覚えないものね。……おやすみなさい」


 最近は疲れもあり、布団に入るとすぐに朝になっている。

 死んだように眠るとよく聞くけれど、きっとこれがそういう状況なのだろうな。

 そんなことを思いながら、私は眠りに落ちていく。



◇◇◇◇◇



「起きなさい。起きるのですよ」


 聞いたことのない、女性の声がする。

 誰だろう? 知らない声なのだけ……。


「もう、面倒くさいしいいよね。トゥグーミちゃん」

「だ、だめですよスゥイーナ様! この方は一応、女性ですしそんな雑に扱っては……。あぁ、遅かった」


 肩をげしげしと蹴られている痛みが、私を襲う。


「痛っ! え、ここどこ?」


 混乱した頭と痛みを抱え、体を起こす。

 目に映るのは、会社の資料室のような、九畳ほどの広さの部屋だ。

 壁に並んだ棚には、たくさんの書類やファイルが詰め込まれている。

 どういうことだろう。

 私は家で眠っていたはずなのに。


 驚く私の目の前には、二人の女性がいた。

 一人は心配そうに、そしてもう一人はにやにやとこちらを見ている。


 一人目は、二十代前半位のショートボブの黒髪の女の子だ。

 ガーネットのTシャツに白の半袖シャツ。

 ライトブルーのクロップドパンツの姿のこの子は、可愛いといった表現が似合う。

 しっかりとファイルを抱え込み、困ったような表情で、こちらに何かを言いたそうにしている。


 そしてもう一人は、ライトグレーのパンツスーツの二十代後半とおもわれる長髪の女性。

 艶やかな黒髪に、ピンクのヘアゴムで束ねた髪がさらりと揺れる。

 多分、こっちの人が私を蹴った方だな。

 ついでに言えば美人だ、ちくしょう。

 目が合うとにんまりと笑い、彼女は私に話しかけてきた。


「おっ、起きた起きた! さてっと。目が覚めましたね、勇者よ」


 さらに言えば、残念な頭の持ち主のようだ、どうしよう。

 戸惑う私に気付いたショートボブの子が、残念美人を見て口を開いた。


「スゥイーナ様! 突然そんなことを言われたら、混乱してしまいますよ。えぇと、私の隣にいるこの方は女神スゥイーナ様。私は、補佐をしているトゥグーミと申します」


 スゥイーナと呼ばれた残念女は「よっ!」と言い、軽く手を上げこちらに笑いかけてくる。

 女神? 勇者?

 この人たちは、何を言っているのだ。

 状況を確認すべく、私は問いかける。


「……えっと。あなたがたは見た目は日本人なのに、お名前は個性的なのですね。言葉も普通に日本語ですし」

 

 トゥグーミが、微笑みながら答えてくる。


「私達は、あなたとは違う世界の存在です。まずは、落ち着いて聞いて下さいね。実はあなたは昨日、お亡くなりになりまして……」


 落ち着けという前置きをしておきながら、この人物は、私にさらに混乱しろと言いたいらしい。

 

「いや、えーと。……帰っていいですかね?」


 帰り道どころか、どうしてここにいるかもわからない。

 それなのに、私の頭の中には『家に帰る』。

 ただそれだけしか浮かばず、トゥグーミに対しそう答えていた。


「ほらほら、トゥグーミちゃん。こういう頭の固いタイプはさ、やっぱ説明するより実戦に行かせた方が早いって! 百聞は一見にしかず! れっつごー!」


 スゥイーナと呼ばれた女性が、指をぱちりと鳴らした。

 次の瞬間、景色が一変する。

 硬い床の感覚が消え、柔らかな風と草の匂いが私を包む。

 いつの間にか私は、広大な草原に一人だけで座り込んでいた。


「えっ、何なのこれ? どういう幻覚?」


 状況を確かめるべく、地面へと手を伸ばす。

  信じられないが、しっかりと土の感触が指へと伝わってくる。

 寝る前まで着ていた、お気に入りの熊の模様の入ったパジャマのまま、私は草原に放り出されているのだ。

 呆然とする私の耳に、どこからともなく陽気な声が聞こえてくる。


「はいはーい。あなたには、この世界で今から魔王を倒しに行ってもらいまーす! あ、ここでの名前は、勇者トゥーハと名乗ってねー」


 このちゃらい感じは、スゥイーナっていう女だな。


「ちょっと! スゥイーナだか何だか知らないけど、いきなり人を変な所へ連れてきて何をしろって言うの!」


 こみ上げる怒りのまま叫ぶ。

 そんな私に動ずることなく、スゥイーナは答えてきた。


「だから魔王を倒せって。仕方ないから武器くらいはやるよ。女神の祝福のついた武器だぜぇ。ありがたく使いなよ。ほらっ、最初の敵だ!」


 ぶぉんっと一陣の風が吹く。

 すると数メートル先に突然、五十センチほどの大きな蜂が一匹あらわれた。

 蜂はカチカチと顎を鳴らし、明らかに敵意を見せている。

 こんな奴に襲われたら、死んでしまうではないか!

 今までの人生で、知ることの無かった死への恐怖を感じ、思わず叫んでしまう。


「いや、こんなの無理! 虫なんて苦手だし、そもそも武器なんて無いじゃん!」

「あ、忘れてた。今から送るから受け取れ。伝説の獣の牙を使い、生まれし剣さ」


 私の胸の前に突然、光があらわれた。

 それは次第に大きくなり、その眩しさに目を開けていられなくなる。

 思わずまぶたを閉じると、スゥイーナの声が響いた。


「さぁ、両手を前に出してみて。今の君なら剣を手に入れられるはずさ」


 もう、その言葉にすがるしかない。

 目を閉じたまま、手を伸ばしていく。

 確かに何か、ひんやりとした木のような感触の棒状のものがある。

 それを握った瞬間、光は消えうせた。


「受け取ったね! それこそが伝説の武器、名前は……」

「いや、ちょっと待て! これって明らかに……」


 私の手に収まっているもの。

 それは、とても剣と呼べるものはない。

 長さは、一メートル程だろうか。

 二十センチほどの柄の部分を、私は握っている。

 その上部の刃の部分、と言えばいいのだろうか。

 いや、これは刃とは呼べない。

 だって、私が握っているのは。


「ちょっと、スゥイーナ! これ棒アイスだよな! しかもこれ、あずきが入ってるあの有名アイスだよな!」


 私の叫びなど全く気にすることなく、スゥイーナは語り始める。


「伝説の獣、アズーキーの硬い牙から作られた逸品さ! 名前はその獣に敬意を示して名付けさせてもらったよ『あずきばー』と呼ぶといい!」

「いや、まずいから! いろんな意味で、大変にまずいから!」


 彼女が異世界の存在だか何だか知らないが、これは私の世界では有名なアイスだ!


「いや、不味まずくないよ~。夏には欠かせない美味おいしい逸品だよ!」

「スゥイーナ! てめぇ、絶対に異世界の存在じゃないだろ! 明らかにコメントが、こっちの世界よりの発言じゃないか!」

「やーだー、勇者トゥーハっては言葉使いがわる〜い。とにかく、その剣を敵に向けて振ってみな。ほら、もう近くに来てんだろ」


 確かに蜂は、もうかなり近い距離に来ている。

 逃げられないと思った私は、言われるままに剣を大きく振りかぶった。

 すると、何ということだろう。

 剣の先から氷柱のようなものが五本ほど生み出され、蜂に向かいまるで弓矢の様に放たれていくではないか。

 氷の矢は蜂を貫き、そのままその体を地面へと縫いつけた。

 私の目の端に、小さなガラスの画面が現れる。

そこには【ビッグビーに20ポイントのダメージ】という文字が浮かんでいた。


「た、倒した、……の?」


 私の呟きに対し、慌てた様子の声が聞こえる。


「あっ! レベル上がりましたね。ではっ! ♪ちゃららちゃらら~ちゃらちゃ~ん」


 なんだか嬉しそうな声だ。

 多分、これはトゥグーミだろう。

 上手いんだか下手なんだかわからない、彼女の歌が響く。

 それとともに私の目の前には、先程よりは大きめの薄い青色のガラス板のようなものが浮かび上がってきた。

 ガラスの中央に、文字が浮かび上がる。

 そこには、『ステータスアップ開始します』と表示されていた。


「うわ、何これ? なにか上がるの、私」


 あの大きな蜂を倒したから、レベルが上がったのか。

 そうやって力を付け、魔王を倒せということなのだろう。

 さて、どんな力が上がったのかな?

 興味きょうみ津々しんしんに、ガラスを覗き込む。


『レベルが一つ上がりました!』


 ふんふん、なるほどね。


『命中率が5ポイント上昇しました』


 あ、さっきの氷の矢が当たりやすくなったってことか!

 いいねいいね! 戦いやすくなるってことだもの!


『年金への不安が8上昇しました』


 ……へ? 何これ?


『親の介護へのルートが解放されました』


 はい?


『腰への負担が6ポイント上昇しました。これにより新スキル解放。スキル名「腰の悲鳴」を習得』


「スゥイーナ! ちょっとお前、ここに来いっ! なんだよこれは?」


 私は叫ぶ。

 いや、叫ばずにいられようか。


「ぷぷっ。何これ。勇者なのにスキル『腰の悲鳴』って」


 楽しくてたまらない。

 そんな様子の、スゥイーナの声が聞こえてくる。


「だめですよ、スゥイーナ様。笑ったらトゥーハさんが可哀想ではないで……。ぷっふぅ、年金への不安って!」


 トゥグーミ。

 お前が笑ったこと、こちとら絶対に忘れないからな。


「あれ? おかしいですよ、スゥイーナ様。一度、呼び戻しましょう。トゥーハさん、目を閉じてください」


 言われるままに目を閉じれば、ふわりと体が浮かぶ感覚が私を包む。


「……はい、開けていいですよ」


 目を開けば、驚いたことに最初に来た資料室へと戻ってきていた。

 そこには、うんうん唸っているトゥグーミと、苦笑いをするスゥイーナの姿がある。

 やがてトゥグーミが、気まずそうに口を開いた。


「あのですね。あなたのお名前を、聞かせていただけますか?」

「え、今更に? ……『とは』だけど」

「はい、『とは』さんですね。もう一度ききますが、『トゥーハ』さんではないのですね」

「確かに発音が似てるけど違うよ」 


 私の返事に、トゥグーミがスゥイーナの方を向く。


「つまり、スゥイーナ様が間違えて召喚した。そういうことですね」

「う〜ん、そうみたいだねぇ。おかしいとは思ったんだよ。なんか勇者なのに、ステータスすっげぇ低いし」


 【とはの心に6ポイントのダメージ!】


 小さな画面が、私の目の端で文字を流していく。


「元々のスキル見たら、一個しかないしさ。しかもそれが『胃が強い』とか、わけ分かんないスキルだし」


 【とはの心に8ポイントのダメージ!】


「あとさ……」

「もうやめましょう。とはさんが死んだ魚みたいな目になってます。でもどうして、スゥイーナ様の力に反応したのでしょうか」

「そうそう。私の呼びかけは、瀕死の人しか反応しないのに。この人、ピンピンしてるのにね〜」


 身に覚えがあるとしたら……。


「あっ! それってもしかして私が最近、疲れてすぐに意識なくすように眠っていたから? 自分でも、死んだように眠ってるとは思っていたけど」


 その言葉に、スゥイーナは「あぁ」と呟く。


「なるほど、こいつは社畜っていうか生きる屍というか……」


 【とはの心に8ポイントのダメージ!】


「い、いけません! とはさんの生命力が、これ以上に減らされては! スゥイーナ様、すぐに彼女を元の世界へ」


 トゥグーミの言葉に、私は反応する。

 

「えっ! ここから帰れるの?」

「えぇ、こちらの手違いでしたから。とはさんには、いつも通りの朝を迎えていただけますよ」

「よ、良かった……」


 安堵する私に、スゥイーナが声を掛けてくる。


「なぁ。何ならお前、このままこの世界にいてもいいぞ」


 突然の提案に驚き、私はスゥイーナの顔を見る。


「どうせあっちの世界でも、冴えない人生ぽいし。詫びと言ってはなんだが、ここでなら私がお前に加護を授けてやれる。さすがに、勇者ほどの能力は与えてやれない。だが、元の世界よりはるかに充実した生活を送れるぞ」


 ぽりぽりと頬をかきながら、スゥイーナは続ける。


「う〜ん。まぁスゥイーナ様がそうおっしゃるのなら、私は構いませんが。とはさん、どうしますか?」


 ふと気づいた疑問を、私は投げかける。


「向こうでの、私の存在はどうなるの?」

「体がこちらに存在しますから、行方不明という扱いですね。ですから朝が来たら、あなたが居ないことに、ご家族や知り合いの方が気づくということになります」


 朝、起きたら私が居ない。

 皆はそれを、どう思うのだろう?

 なんだかとんでもないことばかりが続き、私の頭は混乱の極みだ。

 それでも私の中では、もう答えは決まっている。


「ありがとう、スゥイーナ様。でも私は帰りたいんだ」

「ほぅ、即答だね。理由を聞いてもいいかい?」


 嬉しそうに見つめる彼女に、私は答える。


「だってあんなデカイ虫、嫌だもん」


 こんなやつに刺されるかもなんて世界、私はお断りだ。

 何よりも、私は……。


「それにさ。急に私がいなくなったら、悲しむ人いるもん。当たり前にいた人が突然にいなくなる。それって、周りにすごいダメージ与えるよね。例えそれが、冴えない人生のやつでもさ」


 照れながらも、私は思いを伝えていく。


 当たり前にそばにいてくれる家族。

 私へと向けられるその笑顔に、どれだけ元気を分けてもらえたことだろう。


 慣れない仕事に失敗ばかりの私に、それでも「大丈夫だよ!」と言って助けてくれる同僚たち。

 仕事がつらくても、『お疲れ様、また明日!』と私が笑顔で言って帰れるのは。

 明日はもっと頑張ろうと前を向けるのは、彼らがいてくれたからだったんだ。


「この不思議な経験をして気付けたよ。つまらないけれど、当たり前を過ごせている。これって本当は、とっても感謝しなきゃいけないんじゃないかって」


 心に浮かぶのは、大切な人たちの笑顔。

 彼らと同じ笑みを浮かべ、私はスゥイーナに思いを伝えていく。


「私さ、もう少し自分のことを見つめ直して、『生きる』っていうことを大切にしてみたいと思う」


 私の言葉に、トゥグーミは涙目になって、ただうなずいている。

 自分の言葉が間違っていない。

 そう認めてもらえたようで、なんだか嬉しくなってしまう。

 

「……なるほど。お前の答え、確かに聞かせてもらったよ」


 スゥイーナが答えながら、目の前にやって来る。

 そのまま、ゆっくりとした動作で私の頭を優しく撫ではじめた。


「え? ちょっと! 私はそんなことされる年でもないからっ!」

「はっはっは。そう言うな。誕生日おめでとうに、年は関係ないだろう?」


 見上げれば、優しげな笑みを浮かべた美人。

 まぁ、誕生日プレゼントとしては悪くない、……かな?


 そう思っていたのは、数秒だけだった。

 サワサワとしていた感触が、次第に力がこもりユサユサと。

 いや、もうグラグラと言っていいほどの力加減にまでなっている。


「痛っ、痛たたた。ちょっと、スゥイーナ様?」

「いや、元の世界に戻すには、お前の意識をなくす必要があるんだよ。あとこの世界での出来事はお前は全部、忘れちゃうから。じゃあな〜!」

「いや! 絶対に、これ以外の方法あるだろ! スゥイーナ、あんたはっ……!」


 言葉を続けたいが、揺れの強さにたまらず目を閉じる。

 酷い頭痛とめまいを抱え、私は意識を手放した。



◇◇◇◇◇



 目覚ましが鳴っている。

 朝だ! 仕事に行かなくては!

 起き上がってすぐ、激しい頭痛に襲われる。


「あれ、頭が痛い? 何で?」


 疑問は浮かぶが、のんびりとしていられない。

 時計とにらめっこをしながら、慌ただしく準備を進めていく。

 会社でご飯は食べよう。

 そう考え、おにぎりを二つと頭痛薬を鞄に入れ、家を飛び出す。

 会社に着き、朝の雑務を片付けた私は、休憩室へと向かった。

 一人でおにぎりを食べていると、同僚がやってきて私の隣に座る。


「とはちゃん、おはよ。はいこれ! 一日遅れの誕生日プレゼント〜」


 私の好きなホワイトチョコを、ぽんと机の上に載せ、同僚はニコリと笑う。


「お〜、ありがと! ここで一緒に食べよっか」


 誕生日プレゼントは、あっさり私達のお腹に収まっていく。

 お腹が満たされ、何だか動くのが面倒だ。

 見回せば、部屋の中には二人だけ。

 これ幸いとばかりに、チョコの空箱を部屋の隅にあるゴミ箱へと放り投げる。

 数メートル離れており、軽い紙の材質だ。

 入らないかと思いきや、それはきれいな弧を描き、見事にゴミ箱へと吸い込まれていく。


「うわ、すごいじゃん。コントロール良いねぇ!」


 これには私も驚き、無意識に小さくガッツポーズをとってしまう。

 二人でひとしきり笑うと、仕事へ向かうべく席を立つ。

 事務所に向かいながら、同僚がパチンと手を叩いた。


「あ、そうだ! さっきのチョコ、一緒に食べちゃったからさ。お昼にコンビニでなんか奢ってあげる!」

「いいよ。さっきので十分」

「まぁ、そう言わないで。十月なのに今日は暑いし、アイスでも奢ろうか?」


 アイス。

 いつもなら嬉しいはずなのに、なんだか今日は胸がざわざわする。

 というか頭がグラグラするぞ、なんでだ?


「いや、アイスはいいや。というか、アイスだけはいいや」


 私の言葉に一瞬、きょとんとした同僚は笑いながら続ける。


「「なんだよそれ〜」」


 ん?

 上の方から今、もう一つ知らない女の人の声がした?

 きょろきょろと見回すが、私たち二人の他には誰もいない。


「おーい、どうしたの?」


 不思議そうにこちらを見る同僚に、あわてて笑いかける。


「なんでもなーい。さて、今日から新たな私を頑張りますかね!」

「とはがそれを言うなら、誕生日の昨日からだと思うよ」


 同僚の言う通りだ。

 でもどうしてだろう。

 なぜだか、今日からと言いたくなってしまったのだ。


「ま、いいじゃん! 毎日、新たな私になるってことで!」

「へ〜、なら私もそうじゃん。よっし、新しい自分でお仕事を始めていきますかね!」


 互いにニヤリと笑うと、それぞれの持ち場へ戻っていく。


 私は、ここで毎日を新しく。

 精一杯、一日一日を大切に、生きていくとしよう。


 

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