第2話 夢

「マルクトよ。今までよく、仕えてくれた。余生を楽しむがよい。」

「ど、どなたか存じ上げませんが、陛下にこのレスト王国はこのマルクトがいる限り安泰だとお伝えくだされ。」


 ここはレスト王国城の王の私室、赤い壁に金の刺繍の絨毯や金のツボなど最高の調度品が並んでいるこの部屋で大賢者の最後の謁見が行われていた。

 豪華な椅子に王が座りその横には次世代の賢者であるファイバーが立っていた。そこに今にも倒れそうなおじいちゃんがよろよろと近寄り肩を掴みかかっている。


「おい。マルクト何を言っておる。余は目の前におるでないか!」

「陛下!わが師大賢者マルクトは、齢150で御座います。晩年は魔法どころか天気予報さえもままならぬご様子でした。」

「マ、マルクトがか?」

「大賢者と言えど押しよる歳月にはできることは無かったようでございました。そもそもこのようなことになっていなければ大賢者を世に放つなどありえません。」


 大賢者マルクトは世界で一番とも言われた魔力と知識でレスト王国を大国へと押し上げた。だがそんな大賢者でも老いには栄えれずに老衰していたのだ。そしてボケと医者に末期の認知症だろうと診断さた事によりその職務を終える事となっていた。


「案ずるなマリーよ。私はすでに転生の魔法を完成させたのじゃ。私の記憶と知識は後世に引き継がれこの国にさらなる繁栄をもたらすはずじゃ。」

「おい。マルクトは何を言っている。マリーなどとっくの昔にいないではないか!?それにそやつはお前の弟子のファイザーだ!」

「・・・はぁ?聞こえん!もうちっと大きな声でいっとくれんかのう?」

「ま、まさか転生の魔法?研究なされているのは知っていましたがまさか、完成されていたとは・・・。」

「ファイザーよ。転生の魔法とはなんだ。」


 未だにぶつぶつと何かを言っている大賢者を少し横にずらしたファイザーが顎に手を当てた。


「転生の魔法とは自分の記憶や知識を持ったままに新たに人生を始められるという巷でヒットした。ライトノベルと呼ばれる書物をヒントに、大賢者様が創成された新たなる魔法で御座います。この魔法を用いることにより大賢者様は新たなる生を受けというものです。」

「そ、そうなのか!ではいつマルクトは復活を果たすのだ。」

「存じ上げません。ですが完成していたならばマルクト様が亡くなられたのちに条件のあう人間が見つかればマルクト様は復活なさるでしょう。」

「ふむ、ではその資料としてそのライトノベルなるものを取り寄せろ。」

「かしこまりました。」


 そこで急に素に戻ったのか大賢者がいきり立った。


「王!ファイザーもよく聞くのだ!この話は国家機密とすることだ。もしこの話が漏れれば大賢者マルクトが、他国に奪われる事になるやもしれませんからな。はっはははは。」

「・・・承知した。」


 大賢者は、笑っているが王はその言葉に凍り付いていた。その1人で万の軍勢を蹴散らし、国中の田畑に豊作をもたらす。そんなものが他国に渡ったらなんという事を考えると恐ろしいなんてものではない。


 その後は懐かしい話など雑談を終えると大賢者マルクトは王の私室を後にし、そのまま行方不明となった。その後、多くの人が大賢者を探したが見つけることはかなわなかった。


・・・


「どうじゃ。これがわしの生きてきた人生じゃ。すごじゃろ?」

「は、はい。本当にすごいですね。」

「レスト王国はわしが育てたみたいなものじゃよ。」

「・・・まぁレスト王国は滅びちゃいましたけどね。」

「な、なんじゃと!どういう事じゃ!!」

「確か大賢者様がお隠れになった後に、対レスト連合軍が出来て直ぐに滅びてしまいましたよ。土地の大部分はその連合の土地として分けられたみたいですね。それで賢者様の加護の魔法がかけられていない土地、国の端っこの方だけレストア王国として残ったとか?ちょうど今私が住んでいるところがそうですよ。」

「・・・なんてことじゃ。」


 ここは私の夢の中だ。真っ暗な2人だけしかいない世界で大賢者の記憶を手本に、生き方や魔法を学んだのだ。今日はその集大成である大賢者最後の日の記憶を継承となった。ちなみにここまで来てわかったのだけど力と能力を引き継げる相性を持った人間がいたらすぐにでも転生できていたはずなのだ、それが見つからずに才能も相性もそこそこの私に引き継ぐ事となってしまった。それゆえに10年以上かけてゆっくりと大賢者のセーブデータをロードすることになってしまったのだ。

 その結果大賢者になる前に私、フリーダとしての人格が形成されてしまったというのが大賢者のこの度の誤算なのである。


「・・・では、わしの人生の全てを見届けたのじゃ、そろそろ交代しようではないか。」


 はっとして私は夢の中で後ずさる・・・。転生とは、簡単に言うけれども自分の記憶を他人に移す、人生の乗っ取りなのだ。大賢者だ右手を上げると何もない黒い空に大きくて複雑な魔法陣が光始めた。


「抵抗は無駄じゃ。今からわしをお主の上に強制的に上書きする。これもレスト王国復興のためじゃ。許せ・・・。」


 私の体は魔法陣に引き寄せられ、記録くらいだったものが記憶に変化していく変な感じだ。


「は?え?・・・。いまわし名にしとるんじゃったっけ?」


 その瞬間、魔法陣は弾け私はベットの上で目を覚ました。


「あれ?私何してたのだっけ?」

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大賢者の記憶を継承したはずが、なんだいや明らかに様子がおかしい? マスターメガネ @abcdefg777

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