第11話:セトの力
地下第一階層三階へと降りたセト達は、すぐにその異変に気付いた。
「くっそ! こんな上階でアンデッドが出るなんて聞いてないぞ!」
「ルミア教の奴等は何をやってんだ!!」
「早く上に出るぞ! 一大事だ!」
そんな愚痴と共に、ボロボロになった冒険者達が二階へと上がる階段へと殺到していた。見れば負傷者も多く、一部の者は毒にやられたのか、顔色が悪い。
「何? この騒ぎ……」
「アンデッドがどうのという話をしていましたね」
セトは逃げ惑う冒険者達を見ながら、嫌な予感がした。
「……おかしい。少なくとも三階から上にアンデッドはいないはずなのに」
「そうなの?」
「うん。深く潜れば潜るほど、アンデッド系の魔物は増えるのだけど、ルミア教が常に張り続けている〝浄化結界〟のおかげで、四階から上は上がれないはずなんだ」
「……ってことはその結界が」
ケルトの言葉に答えるようにこれまで黙っていたアグヌスが口を開いた。
「うーん、これはマズイですねえ。結界が破られているどころか……この階に強烈な負のエネルギーを感じますね。そしてその中心には……〝混沌の欠片〟があります」
「〝混沌の欠片〟?」
「ええ。それが何かはルミアス様ですらも分かりません。ですので、セト様に調査してもらいたいのです。おそらくですが、結界を張る為に祭壇に向かった聖女の行方にも関係しているかと」
「つまりは……ルミアス様からの依頼も兼ねているってことだね」
セトの言葉にアグヌスが頷く。
「その通りです。目指すべきは結界を張る為の儀式を行う〝浄化祭壇〟です。そこに負のエネルギーの中心があります」
「じゃあ、サクッといきましょ!」
「そこの駄犬はそう言うと思いましたが、気を付けてください。アンデッドとは本来……
「駄犬言うな!」
アグヌスの含みのある言葉に、セトが目を細めた。
「それは……どういう意味?」
「アンデッドは……生者、つまり光側でもなければ、死者、闇側でもありません。生ける亡者という存在自体が世界の摂理に矛盾しているのです」
「光でも闇でもない……」
「……混沌」
ロスカの言葉にアグヌスがため息をついた。
「アンデッドをまるで当然のように受け入れていますが、決して油断していい相手ではありません。セト様、ついでにケルベロス達も気を付けてください」
「うん。じゃあ行こうか」
セトの言葉と共に、全員が逃げ帰ろうとする冒険者と逆行するように、通路を進む。
「ほら、さっそく現れたわよ。うへ、気持ち悪い」
ケルトがバチバチと二色の雷を両手に纏わせながら、前方を睨み付けた。
暗い通路の奥から、ゆっくりとこちらへと向かって来ているのは、一見すると負傷した冒険者だ。しかしその首は千切れており、目は虚ろだ。その後ろには、腸を引きずりながら歩く女の死体が続く。
見れば、無数の死体がその後ろに控えている。
「ゾンビだよ。気を付けて、体液や血液が毒化しているかもしれない。出来れば遠距離攻撃か魔術で倒そう」
「だってさ! まあ毒なんて多分効かないけど、せっかくだし出番を譲ってあげるわ――ヴェロニカ」
「――任せてください、セト様、姉さん」
前へと躍り出たヴェロニカがリボルバー銃を構えた。
「魔銃改装――〝ライカンハウル〟」
その言葉と共に、リボルバー銃がガチャガチャと変形し、巨大化していく。それはもはや銃というより、大砲と呼ぶに相応しい見た目になると、ヴェロニカが引き金を引いた。
轟音と、空気を切り裂くような咆吼が響き、銃口から巨大な銃弾が放たれた。
それは先頭に立っていた冒険者のゾンビを貫通し、後続のゾンビ達すらも吹き飛ばす。更に音速を超えた事で発生した衝撃波が狭い通路の壁を乱反射し、通り過ぎた後に破壊を残していく。
どこかの壁が破砕される音が響いたと同時に、沈黙。
通路には、ゾンビだったらしき肉の破片が散らばっているだけだ。
「――オールクリア」
ヴェロニカがそう呟きながら、ルミアスにより授かったジョブによって得た専用スキル――〝
「めちゃくちゃしますね……ほいっとついでに浄化しときます」
アグヌスが呆れた声と共に、金色を光を通路へと放ち、残った肉片を浄化していく。ゾンビの血や肉片は、本体が死滅してもなお毒素が消えないので、そうでもしないとその上を歩くだけでも危険だからだ。
「あはは……うん、凄いね。まだ耳がキーンってなってる」
「すみません、次からは沈黙結界を掛けてから撃ちます……」
ヴェロニカが頭を下げると、セトが気にしないで、と返して、通路を進んでいく。
「ゾンビ以外が出たら、あたしにやらせてよ」
「そうだね、ケルトに任せるよ。ロスカは後ろを警戒してくれる?」
「……分かった」
セトが指示を出しながら三階を北へと進んでいく。
しかし北に近付くにつれて、アンデッドは増え、またアンデッドとも魔物とも思えない異形が混じりはじめた。
その姿は既存の魔物やアンデッドと酷似しているが、明確な差異があった。それは、頭部や身体の一部が水晶化している点だ。
「何なのこいつ!」
ケルトが、スケルトンの群れを赤黒い雷で薙ぎ払いながら、全くそれが効いている様子がない、頭部が水晶化したスケルトンの掴みかかりを回避。
「
アグヌスがセトの足下でそうのんびり呟いた。
「姉さん、気を付けてください! 私達のスキルや魔術がまったく効いていません!」
「……魔術反射される……危険」
「だったら直接砕くまでよ!!」
ケルトが、掴みかかろうとした混沌化したスケルトン――カオススケルトンの頭部へと蹴りを叩き込んだ。
「痛っ! なにこいつアホみたいに硬い!!」
蹴りの衝撃に耐えられず、カオススケルトンが吹っ飛んだものの、その頭部は無傷だ。
「……セト様、出番ですよ」
足をちょんちょんと前脚で突くアグヌスへと、セトが視線を向けた。
「アグヌス?」
「混沌化した者を倒せるのは、貴方しかいないのですから」
「……そうだね」
セトが、一歩前へと踏みだした。
ケルト達は強い。だから自分の出番なんてない……そう思っていた。だけども、彼女達すらも苦戦する相手が出てきた。
そしてそれを何とかできる力が――自分にはどうもあるらしい。ならば戦うしかない。
「ケルト、下がって。あれは……僕が何とかする」
「……任せたわ」
入れ替わるようにケルトがスッと後ろへと下がると、セトが鉤杖を構えつつカオススケルトンへと走った。
「キカカカカ!?」
不愉快な音を出すカオススケルトンへと向かいながら、セトがスキルを発動。
「――〝混沌払い〟」
鉤杖の先端から不吉な紫色の光が噴出し、それは湾曲した光刃へと変貌していく。
まるで、大鎌のような姿になった鉤杖を――セトはカオススケルトンへと一閃。
「カカ?」
キンッ、という甲高い音と共に、あれだけ攻撃を加えても傷一つ付かなかったカオススケルトンの頭部が、あっけなく真っ二つに割れ、そして砕けた。
「やるじゃない!」
「流石です、セト様」
「……かっこいい」
三人の言葉に、セトは照れながらも気を引き締めた。前の通路から次々とアンデッドがこちらへと向かって来ている。その中には当然混沌化した固体も混じっていた。
「急ごう! 大本をなんとかしないとキリがない!」
「言われなくても! ふふふ、一緒に戦えるって楽しいわね!」
「僕は必死だけどね!」
セトとケルトがお互いを庇いながら前へと進んでいく。後方の敵はヴェロニカとロスカの銃撃と魔術で近付けないでいた。
「戦闘中にいちゃつかないでくださいね~」
「いちゃついてない! 殺すわよクソ羊!」
そんな軽口を叩きながらついにセト達が祭壇へと到達した。
そしてそこで待っていたのは――
最弱ジョブ【羊飼い】の少年、幼馴染みパーティから追放される ~牧羊犬を召喚したらなぜか美少女化したケルベロスが出てきた上に懐かれた。今さら戻れと言われても、【英雄】へとジョブチェンジしたので無理です~ 虎戸リア @kcmoon1125
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