-4- 記憶
五人の<渡り鳥>を怪物が殺したかのように見せかけて逃走を繰り返した元渡り鳥の従業員を発見した。対象が逃げられない場所に追い込んだ。
奴は抵抗してきたが、私は躊躇なく左手に握りしめた剣で首を跳ねた。
奴は最後まで抗っていた。私に勝てないと恐れた奴は必死で舌の上にある出まかせを吐き続けたが、最後は舌を残して何も言わなくなった。
奴を始末した後、本部に遺体を引き取ってもらい、私は奴が残した剣を拾いあげ、犠牲者たちの映像をくみ取った。
そこには、かつて一緒に仕事をしたことがある仲間たちの記憶があった。
サブタイトル―記憶―
小さな町並みの一角で休憩を挟んでいる男がいた。口笛吹きのコアラ。口で器用に笛のように吹けるからこの名がついた。
彼は奴(犯人)に近づき、「お約束のものだ」と言い、ナニカを手渡していた。奴は隠し持っていた剣でコアラの腹を貫き殺した。
コアラが隠し持っていたナニカを奪い取り、その場を後にした。
一緒に働いたことがあるギニーという少年。経歴は浅く試験に合格したばかりの新米だった。先輩と後輩の関係で同じ町まで一緒に行ったことがある程度の関係だ。
ギニーはコアラからナニカを受け取っていたようだ。そのナニカは手の中にあるようだが、映像が荒く正体を確信することはできない。
ギニーは次の仕事を引き受け、空へ羽ばたこうとしていた矢先だった。奴がギニーの翼を切り落とした。同じ従業員だという事もあり挨拶を交わした奴が<渡り鳥>を殺し歩いている人物だと察したようだ。
だが、翼をもがれたギニーは逃げ場がない。奴は飛翔しすぐさま近づかれ、戦いの経験が浅かったギニーは抵抗も虚しく殺されてしまった。
次の犠牲者はアイゼン。一緒に仕事をしたことはない。一人好きの男だと聞いている。年齢は四十過ぎ、彼女なし。人が嫌いで留守用の配達物を中心に活躍していたようだ。
奴とはたまたますれ違った。
会釈を交わし、すぐに離れたようだ。アイゼンは何かに気づいたようだった。荷物を近くのベンチに置き、電話機から本部へ連絡をしていた。
『奴がいた! 俺を狙っている!! 早く助けろ!!』
酷く焦っていた。アイゼンはそれだけを言い、荷物を残して変わり果てた状態で発見された。
四番目の犠牲者は不死身のホーター。戦いの経験が深く、怪物との戦いでこれまで一度たりとも傷を負ったこともないご老人だ。
一度だけ本部ですれ違ったことがある。そのときはまだ健在だったが、彼が死体となって見つかったのはそれからすぐだった。
背中から一突き。心臓だけ抜かれた状態で発見されたようだ。鳥が摘まぐほど損傷が激しかったと報告があったが、映像から察するに、奴は怪物に餌である人間を人質にし、ご老体である彼の隙をついて殺したようだ。
ホーターがあっさりと殺されるわけはないと本部が怪しんでいたが、ホーターは<渡り鳥>の後輩を善く思う人であったことから、奴は癖を見つけていたようだ。
最後の犠牲者はミア。私と一緒に卒業した同業者(ライバル)だ。歳は二つほど上。成績は戦闘面以外はオールA(最高得点)の優等生だった。
そんなミアが絶望した顔で倒れていたのを住民が発見し、大きなニュースとなって取り上げられた。本部は初めて『<渡り鳥>を狙う殺人犯がいる』ことを打ち明けたのだった。
それからすぐ、私を含めた専門家が奴の行方を追った。
ミアやギニー、ホーター、アイゼン、コアラ。尊い犠牲者がこれ以上出さないためにも私はホーターから託された懐中時計、ギニーから一緒に買った貫剣(ニーツソード)、ミアから同業者(ライバル)の証であるキーホルダーを持って、奴と戦った。
戦いの最中、懐中時計は敵の不意打ちに身を挺してか身代わりなって壊れてしまった。
貫剣(ニーツソード)は奴の音速の速さに負け、砕けてしまった。
キーホルダーは最後まで生き残ったが、奴が説得中に仕掛けた攻撃でどこかへと飛んで行ってしまった。
一つ一つかけていき、最後まで残ったものは己自身だった。
――映像が消えた。奴が握っていた剣の記憶はここまでのようだ。
深いため息をして、青い空に向かって「仇は果たした」と手を振った。
奴の剣は知り合いの鍛冶屋に持っていき、高く買い取ってもらった。本部に引き渡すよう職員が来ていたが断った。
「そんな必要性はない」とあしらったのだ。
職員は最後まで剣を証拠としてほしいと言ったが、本部は美術品(コレクション)としてほしいことを知っていたので、最後まで譲らないと言い退けたのだ。
五人の血を吸った剣は魔剣となっていたことを鍛冶屋が言っていた。あのまま本部に引き渡していたら、次の犠牲者を造っていたかもしれないと。
そんな心配をよそに私はその魔剣を譲ってもらった。
トセトと言う名の男に託すためだ。トセトは、<新渡り鳥隊>を結成する時に入ってくれた頼もしい男のことだ。魔剣を渡すのは相性がいい。ただそれだけの単純な話。
渡り鳥隊 黒白 黎 @KurosihiroRei
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