-3- 隠し事

 <渡り鳥>は同じ地区で配達するケースは少ない。なぜなら、決まった人が配達できるようにしているからだ。島から島へ、国から国へ。私たちは決められたルートに従って荷物を届けている。

 しかし、人から人へ。渡り鳥から渡り鳥へ。決められたルートだけでは決して届くことができないこともある。そうして、行き先を失くしてしまう荷物は少なからず出てしまう。


 この話は、そんな手違いからある人へ送られたお話である。


サブタイトル―隠し事―


 宛先がない小包が届いた。届け先である住所もなければ名前もない。

 手袋を脱ぎ素手で触る。ポウっと淡く青く光る。頭の中に記憶が読み取る。

 一人の男と女が話し合う映像が見えた。

 古いフィルムを再生したみたいで映像は白黒だ。所々焼いたように映像が飛ぶ。おそらく荷物が長時間放置続けたため記憶が消えかけているようだ。

 辛うじてどこに届けるのかは分かった。映像から察するに、東の先<赤苔の村ナルサ>だ。

 <赤苔の村ナルサ>は、数年前に政府が立ち入り禁止した島だ。渡戸江さえも出入りするのは10年以上のベテランだけと決められている。あそこは<こころの病>が蔓延しており、永らくいれば自分も取り込まれかねない。


 検問所で身体測定と出入りの理由を答え、無事に許可が下り通してくれた。実績を10年以上のベテランよりも多く持っていたのが幸いだった。

 1日かけて到着すると、驚く光景に目を疑った。

 名前通り地面から建物の外壁、屋根、木々に赤く淡い光を放つ苔がびっしりと咲いていた。この地の名産品だと聞くが、いまは誰も利用したいため蔦のように村を埋め尽くしていた。

 建物の扉を赤苔ごと怖しなかに侵入すると半透明の人間が昔のまま生活をしていた。腕を伸ばし彼らに接触しようと試みたが体が透けてしまう。彼らはここにいないのだ。抜け殻だけが当時のまま動いているのだ。

 赤苔にすっかりと覆われてしまったベッドが見えた。ベッドの上に風化した服が残されていた。かつての住民の成れの果てだ。


 仕事上、恐る恐る話しかけるがこちらが見えていないようでスルーされた。他の家に入るも同様で、まるでこの村そのものが昔の時間に閉じ込められてしまっているようだ。

 荷物を抱え、まともな人間を探すが、日が沈んでも見つからなかった。

 野宿を我慢し赤苔が侵食していない木を見つけ、木の上にローブを括り付け、そろそろ寝ようとしたところ、

「君も…なのかい?」

 木の上に止まる渡り鳥がいた。暗くてよく見えないが、男のようだ。

「私はレイラ。あなたは…?」

「これは失礼、エールだ」

 半分諦め寝ようとしていたところ同じ渡り鳥のエールと出会った。

 彼も小包を届けに来たそうだが、「この住民は誰一人として返事しない」と嘆いていた。

「今日はもう遅い、明日にしましょう」

 交代で見張り、高い木から遠く離れた穴場に移動しそこで休憩をとった。

 この島は<赤苔の村ナルサ>以外に村はなく、危険な谷以外に見どころはない。そのため、魔物がいるかもしれないが周囲を見渡せ、なおかつ風や雨を凌げる穴場で寝ることにしたのだ(木の上では1人ならいいが、2人だと体重で木が耐えられないし、1人の時と違ってとっさに行動できないから)。

 後日、2人して村を探索することにした。


 朝目覚めて、エールは6年のベテランであることが分かった。5年以上働いた際に功績として<一つ星勲章>が与えられる。それ以外に<翼を生やした靴>は時間以内に届けることができた際に与えられる勲章。<コンパス>は間違うことなく届けることができた勲章だ。

 ムラサキの髪に青く澄んだ瞳をしている。背丈は170センチだと本人が言っていた。

「今気づいたけど、君はぼくと同じ三つの勲章があるんだね」

 胸元に勲章が三つつけてある。

「すごいね。見たことないけど、どんな功績を成し遂げたの?」

「あー…これはねー」

 週以内に四回以上千キロ以上離れた島へ配達した勲章<銀色の翼>。怪物を一人で倒した英雄紋章<銀色の武器(剣、弓、杖)>。配達先不明を届けた勲章<銀色の手紙>。色分けは、金ほど名誉なもので、青いほど不名誉なものとなる。虹←金←銀←赤←青の順だ。虹色は世界に三人しかいない。金は二十人。銀は三百人といった感じだ。

「銀かー俺もほしいーな」

「努力すればとれるよ」

「ぼくには難しそうだ。自分のペースが一番だなー」

 そんなこんなことを話しつつ、今日の予定を立てた。


 一人では一軒一軒探すのはとても骨が折れる事だったが、二人なら上空からと地上と分けて探すことができる。

「なるほどねー。わかった空のことなら任せて」

「それじゃ、頼んだよ」

 地上と空と別れた。収穫があったのは昼が過ぎたころだった。


 二人で村を探索して分かったことがある。

 荷物のあて先はどれもかつてここに暮らしていたロードと言う男宛てた物だった。ロードはここから少し離れた辺境な島にいること。住所変更届していなかったため、このような誤りが起きたことだ。

 もうひとつは、ロードと昔、一緒に暮らしていた女が彼のことを教えてくれたのだが、詳しい場所を教えた代わりに<砂喰い無視ハギャ>を討伐するよう依頼されたことだ。彼女はここの住民同様で半透明だが意識はあるようでロードのことを教えてくれた。

 ロードは研究者で医者でもないのにこの病気を止める方法を探していたようだ。ロードが出ていったのは病気を食い止めることができなかったからだそうだ。

 彼女を残して出ていったと昔を思い出すように寂しそうな顔をしていた。ロードには見えていなかったのだろう。彼女が抜け殻となりながらも…。

 ロードにあてた手紙を出さないかと聞くが彼女はいいと断った。「彼との大切な思い出を渡してしまいたくない」と言い、彼女は魔物討伐以外何も曰くなってしまった。


 <赤苔の村ナルサ>から少し離れたところに谷がある。昔は小さかったようだが、赤苔の浸食と砂虫の生活領域(テリトリー)が広がったため、かつての<赤苔の村ナルサ>は谷に飲まれようとしていた。昔の写真…八年前のものだが、砂虫の被害がどれだけ広がっているのかがわかる。

 空を飛び谷に降りると、そこは幻想的な光景が広がっていた。

「きれいだ…」

 見とれてしまうほど美しい。

 青い砂に埋もれた谷底は、青く淡い光が銀河の川のように光っていた。

 感心するエールに私は軽く同情した。

「ええ…急ぎましょう」

 谷を歩いていると不意打ちするかのように芋虫が砂から飛び出してきた。この一帯を縄張りする<砂喰い虫のハギャ>だ。かつて村の一部であった家を身体に飾るようにしてそいつは見ていた。

「コイツが…<砂喰い虫ハギャ>!!」

 家を丸呑みするほど大きな芋虫だ。外見は芋虫そのものだが肌は青く光っている。この砂特有を取り込んでしまっている。

「来るぞ!」

 ハギャの口から針を飛ばしてきた。レイラは岩陰に隠れやり過ごすが、急いでソラに逃げるエールだったが足に針を受けてしまう。意識がもうろくし、その場に落下した。即効性の麻痺毒だ。

 エールは口はおろか身体も動かせそうにない。主人公は刀を抜き、突っ切る。一度見た針を巧みにかわし、素早く尾を切断し、そのまま皮を剝ぐように手際よく殺した。

 抵抗するかのように口から容赦がない虫を吐いた。芋虫に寄生する無視だ。ゴキブリとハエを2で割ったかのような姿だ。大きさは大人の人間の頭部ほど。人間にも寄生し、頭部を食らい自身が頭部と入れ替わり支配する。棒ゲームの首から上がムカデのような状態だ。

 あの医者から取り返した(丁重にもらった)魔石を用いて虫を吹き飛ばす。虫は勢いが落ちることなく壁に激突し大半は死亡するが、谷に吹き込む風の影響を受け辛うじて生き残った虫は反撃するが、魔石の力からは逃れなれない。再び吹き飛ばされる。ハギャの中から無限に出てくる虫を一人で相手するのは至難だ。

 魔石の力を使いつつ、倒れたエールを拾い、そのまま空へ逃げおおせた。あの虫は寄生する餌がないと生きられない。あの一帯ではハギャが命拾いしていたのだろう。放っておいても大丈夫なはず。


 村に戻ると入り口前で女がロードにあてた手紙を持って立っていた。

「やはり届けてください」

「いいのかい?」

 女は頭を静かに頷いた。

「わかりました。無事に届けます」

 手紙を受け取るなり、その人は周りと同じく抜け殻となった。私たちが見えていないかのように振る舞い、そして自分の家に向かって歩いていった。こころの支えとなるものを失った彼女は、どんな気持ちでいるのだろうか…。


 エールの回復をまって、辺境の島に移動した。

 周りは畑ばかり。育てているのは主に薬草(ハーブ)や香草(スパイス)だった。一軒の戸を叩くと中から出てきたのは白衣を着た無精ひげの男だった。天然パーマに大きな丸いメガネ。茶色い瞳をしていた。

「あなたが、ロードさんですね。手紙と荷物を届けに参りました」

 ロードに手紙と配達物を届け、

「住所変更書もお願いしますね」

 住所変更届を出してもらった。

 彼女から受け取った手紙を見るなり顔を隠し自宅の中へと引きこもった。

 扉ごしから悲しそうな声がした。それ以上、知ることは私情になるため、依頼以外は目をつぶった。

 エールは、彼の住所変更届を持って一度本部に戻ることにした。

 私は引き続き、周辺の島で荷物を配達、怪物を倒すためしばらく別れるのであった。

 

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