マッチアプリの少女

砂漠の使徒

マッチアプリの少女

「マッチはいりませんか……」


「マッチは……」


 神々しく輝くネオン。

 その中で、マッチを叫ぶ少女。

 しかし、人々は気にも留めない。

 それは、今日がクリスマスだからか。

 街中に浮かれた音楽が鳴り響いているからか。

 否。

 都会の人々の心は、見知らぬマッチ少女に耳を傾けるほど暖かくはないのだ。


「あぁ……」


 絶望した少女は、震える手でスマホを眺める。

 そこには、プロフィールが。


『町田 少子』

『22歳』

『女』


 年齢は嘘だ。

 十歳ごまかしている。

 実際は、12歳。


 なぜ彼女はこんなことをしているのか。

 それは、孤児院を追い出されたからだ。

 小学校を卒業した彼女の面倒を見きれなくなった。


「これで、いい人を見つけるのよ」


 そう言ったのは、彼女の姉。

 血は繋がっていないが、いつも面倒を見てくれた。

 二つ年上で先に孤児院を出た姉が、見かねて提案したのがマッチだ。


「私もこれで素敵な彼氏を見つけて、養ってもらってるからさ」


 だが、現実は非情なり。

 特にこれといった特徴もない彼女にマッチする人はいない。

 ヤケになった彼女は、アプリでマッチの聖地と言われている待ちあわせ場所、マチ公前に来ている。

 後ろのマチ公のようにじっと待つ。

 来るともしれない人を。


「あはは、それでね〜!」


 どこからともなく、懐かしい声が聞こえた。

 ふと見ると、男の人と幸せそうに並んで歩く姉の姿が。


「……」


 私もああなれたら。

 彼女の心は、冬の東京よりも冷え込んでいく。


「マッチを……」


 寒さで体も限界を迎えた彼女は、もうろうとする意識の中で最後の望みをかけてマッチ申請を送る。


 憧れのあの人へ。

 アプリを初めて開いたときに見つけた人。

 彼女の心を奪った人。

 いわば、初恋の人だ。

 でも、アプリ内での人気ナンバーワンで手に届かない人。


「……」


 力を使い果たした彼女は、その場に倒れ込む。

 顔には笑顔が浮かんでいる。

 なにもかもに、満足したようだ。


 たとえマッチがなくとも。


 そんなとき、スマホが光る。


『マッチングが成立しました』


 そんなメッセージが浮かんでいる。

 彼女の悲願であるマッチだ。


 けれど、彼女は目を開けない。


 (完)

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