第40話 従業員になる為には その二


 「残念だが、ライアンはダメだ」


 「な、何故ですか!」


 「それはライアンが一番よくわかってると思うけど?」


 鋭く突き刺さるような目で見られたライアンは、何かに気づいて押し黙った。


 「すまないが、トリシャとシャリアとルークは席を外してくれないか」


 




 「さて、状況が理解出来てないレンとアイリにわかり易く、話をする」


 「「お願いします」」


 「二人が生まれる前に、シエル関係で事件があったんだ。 平民や貴族、商売をしている人なら今も覚えてる人はいるだろう」


 「十二年前にアズモールという商人がいた。 その商人は度々、シエルのレシピを寄越せと勝手な物言いで、店に押し入ったりしていて、商業ギルドから何度も注意を受けてた。 で、ある日一枚の紙を手にやって来た。 当時の陛下つまり、レンとアイリのお父さんから書状を貰ったから、シエルのレシピを渡せと、言って来た」


 「何それ……」

 「父上が?」


 「じゃが、それは偽の書状だったんじゃ。 アズモールは自分の都合の良い文面を書いた紙を持って来ておったそうじゃ。 しかも後ろにいた陛下に、気付かずに堂々と言うくらいの頭の悪さじゃ」


 「結果、バレて終身奴隷になった」


 「その人と、ライアンに何の関係が?」


 「アズモールはライアンの祖父だ。 そして、ライアンは家族に日頃から『シエルのレシピを盗って来い』と、言われている」


 それを知って、レンとアイリは厳しい表情をした。

 まさか、自分達が紹介した人物が、店の害になるとは思ってなかったからだ。


 「ケーキが好きで自分でも作りたい。 これはウソじゃない。 でもそれ以外は、ウソだ」


 「一番わかり易いのが、『ケーキを週一で愛する男』だけど、平日営業で、常連ばかりを見てきたけど、ライアンの事は今日、初めて見た」


 シエルは開店当初から変わらず平日営業で、常連なら自分の決まった席というものがあるし、よく頼む好みの料理もある。

 

 それに該当しないからこそ、ライアンは常連どころかもしかすると、一度も来たことが無いのではないかと、ユウトは判断した。


 「ウソが多いのは信用に値しないし、働いている時には不安でしかない。 間違った料理の説明をするかも知れないし、レシピを話されるともっと困る」


 「ユウトさんの言う通りです。 僕は日頃から親にも商会をやってる兄にも、『レシピはまだか』と言われてます。 けど、ケーキが好きなのは本当です。 ケーキに対してはウソを付きたくない……」

 

 「ユウトさん、不純な気持ちで従業員になりたいと近づいて、すみませんでした。 俺は帰ります」


 「いや、帰る必要はない。 何故なら、家と商会は無いからだ。 それに家族は今、王城にいる。 拘束という形で」


 「どういうことですか? 拘束?」


 呼吸を整える為、深く息を吐き話を続ける。


 「学園からシエルに来る時、アイリに誰と来るかを聞いたんだ。 するとライアンの名前が出たから、テオシウス陛下に連絡を送った。 『これからシエルにライアンがくるから家にはいない』と」


 「そこからは早かったよ。 騎士団に指示を出して、余罪で拘束して、ライアンに被害がいかないようにしてる。 家と商会は取り潰しになって、証拠も回収」


 「だから、ライアンの帰る家がない。 催促する家族もいない。 さて、ライアンはこれからどうする?」


 頭に時計でもあるのかと思うくらい、ピッタリ十分間考えて、ライアンは口を開いた。


 「俺は……出来るなら、シエルで働きたい……料理人じゃなくてケーキだけの料理人みたいな……」


 「つまり、パティシエになりたいと」


 「パティシエ? 何ですかそれは」


 「洋菓子……ケーキとかを作る男性の職人のことだよ」


 目をキラキラ輝かせるライアンは、次の言葉で光を失った。


 「でもそれは出来ない。 ダメなんだ」


 「マスター、それはライアンだからってこと?」


 「いや、誰も出来ない。 今はね」

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底辺を生きた者、不老不死になり異世界で過ごす @-kaoru-

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