第39話 従業員になる為には
「よし、じゃあ」
『いただきます』
命に感謝して食べますという挨拶は、カフェシエルで徹底していた為、慣れた祈りになっていた。
「うまっ」
「あ、食べとこない味がする」
「シエルのケーキは最高だな!」
「しっとりしてて、食べやすいな」
それぞれの感想を言う中、レンとアイリはケーキよりも、皆で食べる事に喜びを感じていた。
「どうしたんだ? ニヤニヤして……さっきのライアンみたいだぞ」
「いや、『神の島』で生活してた時のこと思い出してた」
「『神の島』ってさ、うちらからしたら、下の部分しか見えないんだよ。 雲の上ってどんな感じなの?」
「どんな感じかぁ。 世界があるって言ったらわかる?」
『いや、
「フェンリル様がいる広大な森があって、山々に囲まれた温泉が湧く場所の近くに不死鳥さんがいて、竜神様が寝床にする洞窟の中にカーバンクルもいたりする」
「海というか湖には魔物がいるし、大地の真ん中にはお城もあるよ」
『へぇー』
ポカンとした表情で聞く姿に、十年以上住んで来た浮遊城が、特殊な環境だったことをようやく理解した二人だった。
「ずっーと、気になってるんだけど……親から聞いた話では、テオシウス陛下が『神の島』の主に許可をもらったって。 あれって、誰の事なの?」
「「それは、聞かれても言えない」」
「帝国とかに知られたら最悪、戦争になるかも」
アイリの小さな呟きを聞いた五人は、押し黙った。
戦争……生きて来た中で話や物語には出てきたけれど、出来るなら関わりたくない言葉に誰も口を開けなかった。
突然訪れた静寂を破ったのは、学園長だった。
「まだ、残っておる生徒がおったか。 ほう、アイリよその残ったケーキは誰のじゃ?」
「学園長……食べます?」
◇
「なあ二人とも、シエルのマスターにこいつのこと、紹介してやってくんね」
「え、あー、でもなぁ」
「ケーキ愛が凄くて作りたいって言うんだよ。 ほら、四ヶ月前の入学式があった頃に、レシピの一部を公表してくれたけど、あの中にケーキって無かっただろ」
「俺は家でも手軽にケーキが食べたい」
「うーん、その理由だとムリかなぁ」
アイリの言葉にパーラ、ライアン、シャリアが反応した。
「自宅で食べたいからって理由じゃ、何でダメなの?」
「前にマスターが言ってたんだけど、『純粋な気持ちで広まるのなら嬉しいことだけど、中には悪意を持ってまがい物を広める人もいる。 粗悪品のケーキが広まってそれが普通という事になりかねない。 正しい知識もないのに軽い気持ちで出されると困るから、広めたくないレシピもある』」
「マスターの意見に一理あるなのお。 信じてレシピを教えて、それが他の者に曖昧なまま伝わった場合、粗悪品になるのは確かじゃ。 その点で言えば、シエルだけで限定して出すという策は、正しいと言える」
「じゃが、マスターだけではそうそう多くの種類は出せんのではないか? 現に、店で出しとる菓子類は七種類じゃろ。 十二年経ってようやくの新作じゃからな」
「それは大丈夫ですよ、学園長。 むしろ候補が多すぎて、何から出せば良いか困ってる程ですから。 因みに秋になったら、季節限定の新作が出ます」
「何じゃと! それを早く言わんか! 秋か……待ち遠しいのお」
学園長は恍惚とした表情をしていた。
「うちの夢は料理人になること。 子供の頃はオアシスっていうレストランで働きたかったんだけど、同じくらいシエルでも働きたくて。 けど、オアシスが店を畳んだことで、シエルへの思いが強くなったんだよ」
「そういう気持ちはダメか?」
トリシャの親友シャリアは、ライアンがつい先程断られたというのに、頼み込んだ。
「うーん、気持ちの持ちようは確かに大事だけど、そういう事はマスターに聞くのが早いと思う」
「食べ終わったし、シエルに行こう」
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