第38話 増える友
「ルーク……何だよこの騒ぎは」
「おお、レン! アイリ! 良いところに来たな」
ルークが声をかけて来た時、何故か二人は冬でもないのに、寒気がした。
「あれ? ウィロー先生は? 来てないのか」
「そういえばほかの先生とも会ってないよね……」
「ああ、その事で騒ぎになってるんだけど、噂では寝込んでるらしい」
放送室から接続音がなり、続いて学園長の怒りが、学園中に突然響き渡った。
『今日いない
『よって、今日はもう帰って良いぞ……あと、レンとアイリは学園長室にすぐ来るのじゃ! わかったな!』
レンとアイリは、ブチッという音が接続を無理やり切ったのだとわかって、それ程の急用とは何かを知るべく学園長室に走って行った。
◇
「「それでは、失礼します」」
「うむ、頼んだぞ」
「あれ、ルークじゃん……それにトリシャ?」
「帰ってきたか、早かったな。 学園長はなんだって?」
「チーズケーキを頼まれたよ……」
「チーズケーキ? もしかしてそれが新メニューか?」
ルークだけでなく、ビスターの姉で三年生のトリシャまでいることに、レンは何事かと思った。
が、学園長のことだとわかり落ち着いて話をした。
学園長
また、新作の代金を持ち帰りで買っても余るお金を渡されて、退出した二人だった。
「ケーキなのはわかったけど、そもそもチーズって何だよ。 聞いた事ない」
「マスター……ユウトさんしか作れないんだ。 だからチーズケーキが食べれるのはシエルだけ。 しかも二号店には出してないから、一号店の限定メニュー」
「だから余計に人が殺到する訳か」
「戻ったよー!」
「あれ? アイリいなかったけど、どこ行ってたの」
「あ、トリシャもルークもまだいたんだ。 うーん、四つ余るなぁ」
「多分、アイリはシエルでケーキ買って渡して来たんだろ?」
「ルーク、それならアイリの持ってるアレは何だ? どう見ても持ち帰り用の箱だろう」
汗を布で拭くアイリの前には、机にのった持ち帰り用ケーキ箱があった。 しかも、大きい。
「これ、マスターからのプレゼント! 当分、チーズケーキに殺到するから今のうちに食べとけって!」
アイリは最近、マスターと言う時に何故か頬を赤らめているが、今は触れないでおこうとレンは思った。
「さすがマスター、準備が良い……ん? さっき四つ余るとか言ってなかった?」
聞かれてたかーと、天を仰ぐアイリにトリシャが畳み掛ける。
「もしかしてこのケーキは実は八人分で、四人いるから自分達の食べる分が減るとか?」
「あ、マジで八等分じゃん」
確認のためルークが箱の中身を見て口走る。
帰り支度をしていた他の生徒が、その呟きを聞き逃すハズもなく、ぐるんと振り返る顔にルークは引きつった表情をしていた。
「あと四人か……」
「お、いたいたー。 トリシャ帰らないの?
もう三年で残ってるの、うちらだけ……」
彼女の目は机に置かれたケーキに釘付けになり、言葉が最後まで続かなかった。
「トリシャ……もしかしてそれ……シエルの……」
切れ切れに言う彼女はゆっくりと近づきながら、尋ねる。
目はケーキに釘付けで。
「八……四だから……ねえ! 良ければ、うちも貰って良いかな?」
「まあ、シャリアなら良いような気もするけど、どうだ? アイリ」
「初めまして。 アイリ・トルテ・ファジール、一年生です。 こっちは双子のレン」
「うちは、シャリア・フォン・ゴルディー。 あんたらの担任はうちの親だよ」
「「え、ウィロー先生って結婚してたの……」」
二人が気づかなくても無理はない。
何故なら、結婚指輪を付けて過ごすという常識がない為、誰が結婚していてまた、してないのかわからないからだ。
「ルーク! まだここにいたのか! 早くシエル行くぞ! 無くなっち……ま……うそだろ?」
最後はもう疑問だった。
シャリアと同じくその目は、ケーキに釘付け。 目を一点に集中させながらケーキを見下ろす位置まで来て、やっと口を開いた。
「なあ、ルーク……食べて良いのか?」
『ダメ』
恐らく全員の声が重なったのは初めてだろう。
それだけ皆がケーキを平等に食べたいと思っている証拠とも言える。
「これは、アイリがマスターからのプレゼントを持って来てくれたんだよ。 お前だけのケーキじゃない」
「ルークだって知ってるだろ?! 俺の! この! ケーキに対する愛が!」
「いや、散々聞かされたから知ってるけど……」
両腕を胸の前で交差させ、くねくねする姿に、その場にいた全員が引いた。
「ルークの友のレンとアイリだな? 俺は、ケーキを週一で愛する男! Cクラスのライアンだ!」
「模擬戦の時の代表だったっけ、確か」
「ふっ。 あれは俺の邪悪なる右腕の力を抑えすぎた為の結果だ。 本来なら力を解放し、
行き過ぎた自己愛を
「いいから、パーラ呼んで来いよ」
ルークの発言で走って行くライアンに、ホッとしたのは言うまでもない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます