第38話 増える友


 「ルーク……何だよこの騒ぎは」

 

 「おお、レン! アイリ! 良いところに来たな」


 ルークが声をかけて来た時、何故か二人は冬でもないのに、寒気がした。


 「あれ? ウィロー先生は? 来てないのか」

 「そういえばほかの先生とも会ってないよね……」


 「ああ、その事で騒ぎになってるんだけど、噂では寝込んでるらしい」


 放送室から接続音がなり、続いて学園長の怒りが、学園中に突然響き渡った。


 『今日いない先生バカ達は、休みじゃ! 理由は簡単。 カフェシエルの新作を食べて、喜びのあまり気絶したのじゃ!!』


 『よって、今日はもう帰って良いぞ……あと、レンとアイリは学園長室にすぐ来るのじゃ! わかったな!』


 レンとアイリは、ブチッという音が接続を無理やり切ったのだとわかって、それ程の急用とは何かを知るべく学園長室に走って行った。





 「「それでは、失礼します」」


 「うむ、頼んだぞ」




 「あれ、ルークじゃん……それにトリシャ?」


 「帰ってきたか、早かったな。 学園長はなんだって?」


 「チーズケーキを頼まれたよ……」


 「チーズケーキ? もしかしてそれが新メニューか?」


 ルークだけでなく、ビスターの姉で三年生のトリシャまでいることに、レンは何事かと思った。

 が、学園長のことだとわかり落ち着いて話をした。


 学園長いわく、カフェシエルの新作が食べたいから、買って来て欲しいという話だった。

 また、新作の代金を持ち帰りで買っても余るお金を渡されて、退出した二人だった。


 「ケーキなのはわかったけど、そもそもチーズって何だよ。 聞いた事ない」


 「マスター……ユウトさんしか作れないんだ。 だからチーズケーキが食べれるのはシエルだけ。 しかも二号店には出してないから、一号店の限定メニュー」


 「だから余計に人が殺到する訳か」


 


 「戻ったよー!」

 「あれ? アイリいなかったけど、どこ行ってたの」


 「あ、トリシャもルークもまだいたんだ。 うーん、四つ余るなぁ」


 「多分、アイリはシエルでケーキ買って渡して来たんだろ?」


 「ルーク、それならアイリの持ってるアレは何だ? どう見ても持ち帰り用の箱だろう」


 汗を布で拭くアイリの前には、机にのった持ち帰り用ケーキ箱があった。 しかも、大きい。


 「これ、マスターからのプレゼント! 当分、チーズケーキに殺到するから今のうちに食べとけって!」


 アイリは最近、マスターと言う時に何故か頬を赤らめているが、今は触れないでおこうとレンは思った。


 「さすがマスター、準備が良い……ん? さっき四つ余るとか言ってなかった?」


 聞かれてたかーと、天を仰ぐアイリにトリシャが畳み掛ける。


 「もしかしてこのケーキは実は八人分で、四人いるから自分達の食べる分が減るとか?」


 「あ、マジで八等分じゃん」


 確認のためルークが箱の中身を見て口走る。


 帰り支度をしていた他の生徒が、その呟きを聞き逃すハズもなく、ぐるんと振り返る顔にルークは引きつった表情をしていた。


 「あと四人か……」

 「お、いたいたー。 トリシャ帰らないの?

もう三年で残ってるの、うちらだけ……」


 彼女の目は机に置かれたケーキに釘付けになり、言葉が最後まで続かなかった。


 「トリシャ……もしかしてそれ……シエルの……」


 切れ切れに言う彼女はゆっくりと近づきながら、尋ねる。

 目はケーキに釘付けで。


 「八……四だから……ねえ! 良ければ、うちも貰って良いかな?」


 「まあ、シャリアなら良いような気もするけど、どうだ? アイリ」


 「初めまして。 アイリ・トルテ・ファジール、一年生です。 こっちは双子のレン」


 「うちは、シャリア・フォン・ゴルディー。 あんたらの担任はうちの親だよ」


 「「え、ウィロー先生って結婚してたの……」」


 二人が気づかなくても無理はない。

 何故なら、結婚指輪を付けて過ごすという常識がない為、誰が結婚していてまた、してないのかわからないからだ。

 


 「ルーク! まだここにいたのか! 早くシエル行くぞ! 無くなっち……ま……うそだろ?」


 最後はもう疑問だった。

 シャリアと同じくその目は、ケーキに釘付け。 目を一点に集中させながらケーキを見下ろす位置まで来て、やっと口を開いた。


 「なあ、ルーク……食べて良いのか?」


 『ダメ』


 恐らく全員の声が重なったのは初めてだろう。

 それだけ皆がケーキを平等に食べたいと思っている証拠とも言える。


 「これは、アイリがマスターからのプレゼントを持って来てくれたんだよ。 お前だけのケーキじゃない」


 「ルークだって知ってるだろ?! 俺の! この! ケーキに対する愛が!」


 「いや、散々聞かされたから知ってるけど……」


 両腕を胸の前で交差させ、くねくねする姿に、その場にいた全員が引いた。


 「ルークの友のレンとアイリだな? 俺は、ケーキを週一で愛する男! Cクラスのライアンだ!」


 「模擬戦の時の代表だったっけ、確か」


「ふっ。 あれは俺の邪悪なる右腕の力を抑えすぎた為の結果だ。 本来なら力を解放し、残滓ざんしすらも無くなる程の、終焉しゅうえんを与えてやるつもりだったがな」


 行き過ぎた自己愛を躊躇ためらいもなく話す様子に、またしても全員が引いた。



 「いいから、パーラ呼んで来いよ」


 ルークの発言で走って行くライアンに、ホッとしたのは言うまでもない。

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