ウサギとカメとカメとカメとカメと ………………

高黄森哉

もしもしカメよ


 むかしむかし、あるところに、ウサギとカメがいました。彼らは、ある日、一緒に丘の頂上を目指すことにしました。それは競争でもありましたが、一番の目的は、頂上から望める景色でした。カメさんは、その景色を、かねてから見てみたいと思っていたのです。


 さて、レースが始まると、ウサギさんは、引き切ったチョロキュウのような加速で、カメさんを置いてきぼりにしました。カメさんは、スイギュウのような鈍足で、ウサギさんに置いてかれてしまいました。


 レースは中盤に差し掛かり、カメさんは頂上まで残り四分の三の見印の、ヨンサン切り株に、たどり着き、ふと頂上を見ます。すると、丁度ウサギさんが、ゴールテープを切っているところでした。


 カメさんは思いました


 最初から勝ち目はなかったのに、なぜ、レースなんかしたのだろう。ウサギさんは、とても速い。では、どうしてあんなに速いのだろう。私の甲羅が無かったらなぁ。私の足がウサギさんのように細かったらなぁ。努力で勝てたわけではないから、才能で負けたのだから。始めから、私は負けだったのだ。誰が否定できよう、事実は、あそこにあるのに。


 と。


 カメさんはすっかり拗ねてしまって、切り株の下で目を瞑りました。悔しさで涙が頬を伝います。そして、丸まって首を縮めると、もう完走なんて諦めたのか、眠ってしまいました。


 しばらくして、寝ているカメさんの隣を、別のカメが通り過ぎていきます。赤ガメさんも、頂上の景色を知りたがっていたカメの一匹なのです。赤ガメさんは、今日、開催されたレースを『丘ノ下ガ丘・動物新聞』で知って、あとから参加しました。カメさんと同じくらいの速さの、同じく大きな重い甲羅を背負った、あとから出発した赤ガメさんが、のっしのっしとカメさんの真横を通り過ぎていきます。


 カメさんが起きると、時は既に夕方でした。リンゴ色をした夕日が、丘を照らしています。その丘の、黒いシルエットの上にちょこんと、赤ガメさんがいました。カメさんは、その影絵のような姿を見て、自分が寝ている間に、赤ガメさんに抜かれてしまったのだ、と気づきました。カメさんは、悔しくて悲しくて、なにも考えることが出来なくなりました。


 また拗ねてしまったカメさんは、丸まって首を縮めて、眠ってしまいます。その横を、今度はミドリガメさんが、通り過ぎていきます。

 

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ウサギとカメとカメとカメとカメと ……………… 高黄森哉 @kamikawa2001

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