第3話 「強化ガラスサラダ」

 春。またあの季節がやってくる。

 パン祭りの季節が。


 『おまけ』とか『景品』という言葉に弱い。知ってる。知ってるから言うな。吾輩の弱点だ。

 なので、毎年某パン屋さんの、ポイント集めて食器を貰おう、に参加してしまっている。普段は米食ないし麺食なのだが、この時期だけはパン食になる。

 結構な量を毎日3回食すので、パン=小麦は腹持ちが良くないから人口を支えるなら米、という話を実感する。いやでも、麺だと割と保つんだけど。うどんでもラーメンでも、いや空気含有量の差か、フカフカの分あんまり食ってないのか。閑話休題。


 ちなみに、某コンビニ屋さんの食器も結構ある。某ハンバーガ屋さんのマグカップもあったが、割ってしまった。アロンアルファで修復後、今はペン立てとして第二の人生を送っている。他には某ドーナツ屋さんのティーポットとかもあったが、やっぱりほぼ割ってしまってもう数が無いなあ。閑話休題。いい加減戻ろう。


 で、某パン屋さんのは、いつも白さの眩しい強化ガラス製。毎年大きさが微妙に変わる。皿になったりボウルになったりするが、そういう事でなく、年を変えてまた皿が出てきても、重ねてみると僅かに直径や反りが違う。スタイルはいつも一様だが。いや、時々縁を花びらっぽく刻んだりはするな。

 なんでなんだろう。どうして毎回、少しだけ形を変えてくるんだろう。

 流行に応じて? 微妙に1センチだけ変える? すごいコダワリの美意識だな。

 それとも、どれが一番いいか、というのをずっと試し続けているのかな? 客相手の壮大なるマーケティング? で、延々と「これだ!」という決めができなくなっている? いやそりゃあ決まらんでしょう。

 暫く使い込んで、私にとっての「これがピッタリ」が出ても、もうそれは今年は手に入らなくて、来年も変わってしまってて、となると、あんまり意味がないし。


 でで。かなり頑丈で保ちがいい。某コンビニやその他のは、割と雑な私の扱いに耐えかねて、まあ縁が欠けたり落として割れたりするんだけど、強化ガラス製は、今まで、そうだな、1つは割れて1つは欠けたかな、でもそれ以外はタフに残ってる。

 残ってて、場所取って、処分に困ってる。

 どうしよう。


 んでそれで。頑丈だけど、薄い。それは軽さという利点に通じるのだが、熱を結構通すので、何を盛るにしろ汁物を入れるにしろ「熱くて持ち続けれない」というのが結構ある。高台とかあればそれが持ち手たるんだろうけど、押し出し一体成型っていうのかな、そんな形なので、つるんとしててでっぱりは無い。


 じゃあ、なんに使うのか?

 『持つ』のでなく『置く』器でしかも常温限定。

 パンを盛る?

 そうだね、パン屋さんの景品だしね。でもうちはそんなお洒落な事はしない。

 デザート?

 そうだね、極たまにね。普段はデザートらしい品を、皿に盛ってとかそんなお洒落な(略

 

 サラダ。

 一択。

 それぐらいになる。


 そう思うと、今年のはまあまあいい形かな。深さの具合といい。

 ちょっと量が小さいかな? 温野菜系で嵩を圧縮してから盛った方がいい? ナムルとかそっち系かな? それ用とすると今度は大き過ぎかな?

 それに今の季節、温野菜よりは。


 新野菜。

 即ち、新玉葱。

 即ち、新じゃが。

 旬の野菜、今しか食べれない野菜を食べるってのはなかなかの贅沢だと思う。


 新玉葱をスライス。

 そのまま何時間か空気に晒すか、水に10分つけるか、数秒湯通しするか。

 で、件のボウルに盛り付ける。


 「味付けは、塩のみ。」


 死ぬまでに一度は言ってみたかった台詞シリーズ。ハイ今達成。

 粒の荒い塩を使う。その方がパンチが効く気がする。

 まあ、一番の理由は「余ってたから」なんだけどね。

 いただきます!


 美味い! なんでこのしゃくしゃく感、こんなに突き抜けてくるんだろう。

 今だけの感覚。

 けど、塩だけじゃない味も欲しいな。二皿目はドレッシングで。


 新じゃが、は、生じゃ無理か。20分茹でる。"新”だから皮ごと食う。

 土は落としたいから、茹でる前に洗うけどね。ざぶんと水につけて手でごしごし。

 複数個を一気に、芋同志をこすり合わせる感じで。

 そう、これが『将太の寿司』で学んだ『拝み洗い』だっっっ!

 注:米じゃなくて芋です

 注注:芋は大きいですから『拝む』と強弁できるような手の形にはなってません


 ついでに人参も。これはあんまり”新”ってつかないけど、今買えば春物だよね。10分弱茹でる。皮ごと。


 春の味と言えば、豆類もそうだろう。色のバランス的にも欲しい。それでは何を。

 空豆! これは5分ちょい。枝豆だと鞘ごと茹でると美味しくなるらしいので、空豆でも試してみよう。鞘の上下はちょっと切って湯が入るようにして。味付けに塩茹でにしとくかな。


 以上を全部皮ごと刻んで混ぜる。但し空豆の鞘、おめーは駄目だ。

 よく混ぜてると、粉吹き芋の要領でよく茹でポテトは勝手にマッシュになる。

 白い皿に映える。


 「味付けは、塩のみ。」


 ハイ2回目頂きましたー。

 人参甘いなあ。芋も豆もホクッとしてるけど微妙に感じも味も違ってどっちも頬張ると美味いなあ。

 さっきの新玉葱も混ぜる。サッパリがプラスされて美味いなあ。

 んん? サッパリ? そうだ普通ポテサラといえばマヨネーズだ、忘れてたよそれも足してみよう。うん、美味いけど思ってた方向性と違ってきた。普通ポテサラなら胡椒も追加か? うん、美味いけどドンドン思ってた方向からズレる。

 思ってたサッパリの方向性とはなんだ? 胡瓜? いやいや、柑橘系だ!

 レモンがあったらレモンだろうか。無いので、すだちの皮の冷凍を刻んで入れる。

 あああ、そうこの感じ。美味い。


 春の物と言えば、山菜も。

 わらび、はスーパーじゃ今年は見なかったな、ゼンマイ、うど、フキノトウは見たけど今は無い、買い逃してしまったか。

 タラの芽、菜の花。

 よく太ったスナップエンドウもあった、山のものじゃないけどこれも旬だよね。

 天ぷらがいいけど、後片付けが大変だし、ん-。

 ざっと茹で。

 菜の花は茎部分と花芽部分は2分割しといて、花芽の所はさっと茹で+後で絞って水抜き。


 「味付けは、塩のみ。」


 んんん。これは力不足だったか。山菜の苦みは塩だけでは。醤油と鰹節でおひたしにしてみよう、めんつゆもイケてるかな。おっと、鞘ごと食べるエンドウよ、君の筋は茹でる前に頑張っても結局綺麗に取れてないなあ。両手を汚して筋取りしながらもぐもぐする。美味い。

 ごちそうさま。



 ところで実は実際は。

 食器としてでなく、小物入れとして使う、というのを良くしていた。

 が。割れたコップの第二の人生としては納得だが、割れてもいないのにそうして使う事には、こう、彼の食器としてのアイデンティティを否定しているようで、忍びない。

 食べ物じゃないものが入っている違和感、が付き纏い、

 すまぬ。すまぬ。

 そんな風に何度も思ってしまうので、結局また仕舞ってしまう。

 だがこの死蔵状態もある意味あんまりで、心にクる。

 すまぬ。すまぬ。

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