第2話 「永遠のおでん」

 おでんが終わらない。


 冬と言えば。

 という料理が、幾つかあると思う。

 その一つが、ブリ大根。


 という訳で、ブリあら大根を作る。

 なぜ『あら』なのか。

 安いからー!

 大根もでかくて安いのを買ってきた。全部剥いて入れる。尻尾は辛いとか考えない。多少残っている頭の葉っぱも入れる。


 ブリあらは、塩振って、暫く待って、パスタ鍋(うちで一番の大鍋)で湯をグラグラに沸かして、その中にドボンして、ぐるり回して、すぐにすくい上げて。

 触って鱗やぬめりがあったら、流水でそこだけこそぎ落とす。血の塊も流す。


 煮詰める、というのが得意ではない。放置し過ぎて焦がす事何回か、いや何十回か。鍋の掃除が大変だ。結局綺麗にするのを諦めるので、我が家の鍋はどれも焦げ跡が沢山ついている。閑話休題。

 なので、煮汁を濃い目に作っておいて、煮詰めはあんまりしない方向でやってみる。長めに弱火で煮るが、意外と水嵩は全然減らないのだ。(だから煮詰めが苦手なんだが。)

 料理酒、清酒、まだ具材が全部は浸らない、ちょい水、落し蓋。

 ぐつぐつ。

 アクは取る。味醂、醤油、砂糖、落し蓋続行。

 ぐつぐつ。


 いただきます。

 美味しく出来ましたー!

 ごめん。ちょっと嘘ついた。

 ブリが少なくて大根が多過ぎた。ん-、何を足せばいいのか判らない微妙な薄味加減。昆布? 昆布出汁の素を足してみよう。それとも魚の出汁不足というなら? じゃあ鰹出汁の素も足してみよう。んんん。唐辛子の輪切りも。

 冷凍してた柚子の皮を刻んで散らす。おお、これは美味い!

 今更だが生姜を忘れてた。刻んで入れてちょい煮込んだり。これも美味い!

 とやっているうちに完食。


 煮詰めないせいで残った煮汁。捨てる? いやいや。

 と思ったところでピンときた。これはこのまま「おでん」でいいのでは?

 昆布を今度は出汁の素でなく入れてみる。練り物系を入れて。ゆで卵作って入れて。ぐつぐつ。


 んんん。ブリの魚臭さ、生臭さに類するのかな? の風味がかなりキツく残ってる。ブリおでんとかもあるのだから調和すると思ったのだが。もっと魚の下拵えが要ったのかな? でもやり過ぎると魚の味が抜けるよね? あらか、あらでやったのがあかんのか。

 と思いながら食べる。

 和辛子をアクセントにするとイケるか? と思ったが、辛子は切らしてた。んじゃマスタードでどうよ? お、意外と悪くない。酸っぱさが目立つが、それはそれで合う。

 結構食べた。鍋に隙間が空いたなあ。それじゃ人参とじゃが芋も投入。ぐつぐつ。


 食べる。隙間が空く。おでんといったら蒟蒻もだよね。切って捻って追加投入、ぐつぐつ。


 ぐつぐつ。


 何故だ! 3日経ってもまだおでんを食べてるぞ!

 いやだって、常に追加投入してるじゃん。

 これは孔明の罠だ。

 最近のスーパー、夕方行くと、おでん具材の残りを割引シール貼ってお得コーナーに置いてるのよ。だから、ね?


 いい加減飽きてきた。味変したい。

 そこでピコンときた。

 トマトだ!


 裏漉しトマトを1パック追加投入。ぐつぐつ。

 トマトおでん。これはニューウェーブでは。

 いや、和風トマトシチューになっただけなんだけど。

 ん-でもやっぱり一味足りない。何が、何を。

 醤油。いやそれだけじゃない、塩胡椒、これでどうだ! おお、かなりッポイぞ!

 和風じゃなく洋風に寄せるといいのか、じゃあウスターとかもどうだ。んんー、微妙。その味はトマトで既に載っている、というか。

 まあいいいか。と思いながら食べる。


 いや。待て。それでいいのか。それで終わって、本当にいいのか?

 デミグラスソースを投入。

 ぐつぐつ。

 洋風なんだろ? 愚図愚図するなよ? 言うなれば欠けていたコクをこれで足せるのでは。

 すくったスプーンに十分に煮込まれた生姜の欠片が載る。口に入れて嚙み下すと、ジュワッとあの味が広がって、美味い。

 ブリの背骨の一節も載る。これもザクっと嚙み砕けるが同時に残るモノもあり、それをしがむ感じで味わうと何か深い。

 午房天も卵も何故か違和感なくイケる。


 具材が減った。セロリを追加投入。ぐつぐつ。

 生姜で思い出したんですよ。香味野菜系ってのをね。美味い。


 最後はうどんで〆。

 ごちそうさまでした。


 さて。

 あえて、声を大にして、言おう。

 これは、おでんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る