第12話 冒険者×期間限定肉盛りバーガー

 マズイ……。

 これは、マズイ。

 こんな所へ来ちまったことに、パーティーリーダーのオレは後悔している。

 見ろ、パーティーメンバーの顔を。

 絶望、虚無、もはや無どころか悟りを開いちまっているじゃねーか。

 マズイにも程があるぜ。

 何でこんなにもよぉ……美味いんだよぉぉぉおおおおおお!

 アレか?

 魅了の魔法でも使われてんじゃねぇか!?

 今までオレ達が食べてきたのは……そう、ゴミだ。

 あぁ、チクショウ!


「オイコラ店主! 足りないんだよ! もっと作りやがってください……!」


 そもそも、ディレィシア国に流れ着いたのが間違いだった。

 冒険者になってウン十年。

 万年Dランク。

 別にオレ達は能力が低い訳でもなけりゃ、メンバーが欠けている訳でもなく、パーティーの仲も悪くない。

 けれどもDランクからCランクへは何年もランクアップできていない。

 パーティーメンバーは初期から一緒にやってるメンバーで、長い時間を共にしてきたがこれが最後のチャンス、とランクアップの試験を受けに来てみりゃ……。

 景気づけに噂のバーガーショップに行きたい、これが最後の機会だから、と。

 これでダメならパーティーを解散しようという話になった。

 結婚したい奴、パーティー内で結婚をする奴、実家に帰る奴、冒険者を引退して仕事がしたい奴。

 理由は様々だ。

 だからこそ、この店にやってきた。

 噂のバーガーショップとやらは、店主の頭はアレだが美味いバーガーっつー料理を出す店だという話だ。

 庶民が小金を稼ぐ程度の金額で、一口食べりゃ気分は王侯貴族になれる。

 そんな話があるもんかと疑いながらもオレ達は店に並んだ。

 何を食おうかと相談しながらやっとのことで店内に入る。


「わーっはっはっはっは! 新顔だな!」


 最初に顔を合わせた時点でオレ達は店主らしい男にそこはかとない畏怖を覚えた。

 コレはアレだ。

 AランクやSランクでしか討伐できないモンスターを見た時と感覚が似ている。


「お前らは運が良い! 今日から一週間! 期間限定肉盛りバーガーをやってやがるぜ!」


 肉盛りバーガーか。

 どんなもんかは知らねーが、肉盛りと聞いて冒険者で喜ばない奴はいるか!?

 いねぇよな!?

 勿論、オレ達はそれを選んだ。

 飲み物は何が良いか分からないが、酒はないので店主の奴のおすすめにしておいた。

 チッ……酒がねーとはな。


「ほらよ! 期間限定肉盛りバーガー、一丁あがりぃ! 熱い内に食ってくんな! バーガーもポテトも、熱い内が華だぜ!」


 まるで魔法でも使っているかのように、次々と肉盛りバーガーとかいうやつが出て来て、パーティーメンバーは各々席へ着いた。

 最後にオレだ。

 つか、アツイウチガハナ、っつーのは何の呪文なんだ?

 ま、全員腹が減ってんだ。

 冒険者に難しいことを考えられる奴なんざほんの一握り。

 大体は感覚と腕っぷしだけの奴しかいねー。

 とにかく、食ってみるか。

 んぉぉぉおおおおおおおおおお!!

 何だコレは!

 パンが柔らけぇだと!?

 それに間に挟まっている肉が、溢れる!

 マズイ……これはマズイくらいに美味ぇじゃねぇかぁぁぁぁぁぁああ!

 バーガーっつーのは一体どんな魔法のアイテムなんだ!?

 そうオレ達が衝撃を受けていると、男が近付いて来た。

 異国の男だ。


「それは何ですか?」

「知らねぇな。店主の奴が、キカンゲンテイ肉盛りバーガーだって言ってたぜ」


 そうオレが答えると、


「大人! これは我がいつも希望する芳米焼肉挟包子と似ているではありませんか!」

「あー!? んなの、米かパンズかの違いだろーが! だが、決定的に違う! この肉盛りはな、我儘肉盛り、ミノタウロスにオーク、コカトリス……全部の肉をこれでもかと詰め込んだ俺特製バーガーなんだよ! わーっはっはっはっは!」


 一口かぶりついたオレ達は、そっと口からバーガーというのを離して見下ろす。

 これが……肉盛り。

 あのミノタウロスに、オークにコカトリス……シープにディアまで入れてやがるだと!?

 通りで飽きることなく色んな肉の味がしていると思ったぜ。

 異国の男はオレ達にバーガーの何たるかをいきなり話始めた。

 自分が愛しているのは米とかいう穀物を使ったバーガーらしいが、この店ではパンズと呼ばれているこの柔らかにパンを半分に割り、何やら白いソースとやらを塗り込んでいるのが一般的らしい。

 そしてそのソースとやらの正体にオレ達の誰もが衝撃を受けた。

 た……卵だとぉぉぉぉおおお!?

 は、腹は……いや、今のところは下していない。

 生の卵を加工しているとか……もしも当たっているのなら、もう誰かがすでにトイレに駆け込んでいるはず……くっ、こんな事ならパーティーの誰かに鑑定やら浄化の魔法を覚えさせときゃ良かったぜ!

 異国の男の話は止まらず、そのソースは安心して食えるのだとか……。

 危なかったぜ……。

 普通のやつよりちょっとお高いバーガーだったからな……捨てるとなるとそりゃこのバーガーも金ももったいないってもんだぜ。

 驚かせやがって。

 少し甘辛い、初めて食べる味にオレ達は再び夢中になった。

 おっと、そーいや、デコロンなんかつけてやがったな。

 もう食い飽きてんだよな、デコロンはよ。

 形を変えてもデコロンはデコロン……何でも、店主の国じゃ、ジャガイモなんて変わった名前がついてるらしいが、学のないオレには覚える必要のないもんだ。

 一旦、バーガーを置いてデコロンを食うと―――なんだよコレは!?

 これが飽きるほど食ってきたデコロンなのか!?

 それに塩……こんな細かくて透明度の高い塩が使われているにも関わらず、こんな値段なんかになるわけがねぇだろ!

 ポテトと名付けられているソレは、今までオレ達が食ってきたデコロンなんかとはまったく違う存在じゃねーか!

 仕方がねぇ。

 すでに食っちまってんだ……金は後でどうにでもするしかねぇ。

 そういや飲み物、飲んでなかったな。

 これなら酒が欲しいところだぜ……な、な、なにぃぃぃぃいいいい!?

 何なんだコレは!?

 冷たくて……こんなにも贅沢に氷を使えるもんなのかよ。

 味は、間違いない……オレの遠い故郷で盛んに作られてるぶどうブーダウの実を使っていやがる!

 同時に口の中で小さく弾ける冷たい飲み物なんざ、今の今まで飲んだことなんてねぇ!

 通常のバーガーよりもデカイらしい肉盛りバーガーを頬張り、塩の振られたデコロンを口に入れ、ぶどうブーダウの実の味がする小さく弾ける冷たい飲み物で口の中をリセットしたらまたバーガーに戻る。

 夢中で食った時間はあっという間に過ぎ去った。


「オイコラ店主ー! 頼む! もう一個くれ!」

「残念だったな。期間限定肉盛りバーガーはお一人様一個限り! あと提供できんのはこのユートのスマイルはゼロ円だけだ! わーっはっはっはっは! わーっはっはっはっは!」


 それを高笑いって言うんだよ!

 それくらい学のない冒険者だって知ってんだよ!

 スマイルハゼロエンって何だ!

 訳が分かんねーよ、この店主はよ!

 ふと見ると、パーティーメンバー全員が物足りない顔をしている。


「頼む! 金ならいくらでも出す! オレ達冒険者にゃ量が足りねぇ!」

「帰れ帰れ! 冒険者なら体と命大切にしやがれ! わーっはっはっはっは!」


 結局……オレ達はバーガーショップから追い出された。

 あんな美味いモンを食わされて、さらに金を請求されるかと思いきや最初に支払った小金で済んだ。

 パーティーメンバーから口々に、食べたりないの大合唱を食らう。

 そこでオレは提案をした。


「お前ら……気力はまだ十分だな?」


 静かに言ったオレの言葉に、パーティーメンバーが静かになる。


「ただ単に、Cランクに上がったぐらいじゃ物足りねぇよな?」


 明日はランクアップの試験。

 受かればCランク止まりで冒険者を続け、落ちたらパーティーを解散し冒険者から足を洗う。

 そう……思っていた。


「まだまだ、ここで終れる訳がねぇ! 金がなきゃバーガーなんざ食えねぇ!」


 目指すは遥か彼方のランク、Sランク。

 オレがそれを口にすると最初は戸惑って考えていたメンバー達も、もう一度バーガーショップを振り返る。

 おいおい……この国の偉いさん方も並んで待ってるじゃねぇーか。

 確かにあの店は異様だぜ。

 けれど―――数年も経たない内にオレのパーティーはAランクにランクアップすることになる。

 とある団体に頼まれた、食材探索をメインとした依頼。

 自分達の手で、自分達の国で、自分達の国の食材で、バーガーを生み出すという途方もない夢を並走させられるとは、まずはCランクに上がることしか頭にないオレ達には分かるはずもなかった。

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異世界バーガーショップ 詠月 紫彩 @EigetsuS09

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