第6話

「それって……」

「まあ、詳しいことは後で話す。とりあえず今日は、お前の家に戻るぞ。

あの状態の親父を一人にするのも、心配だろう」

 そう言って、ギルゼは踵を返す。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 そうして、洞窟を出てからイズナの家に帰る途中……


 小さな集落の傍を通りかかった。すると突然、ギルゼが歩を止める。

 イズナを手で制し、しゃがむように言う。

「おい、あれが見えるか?」

 彼の指差す方向を見ると、2人組の男が民家の前で、武器を構えていた。

「奴ら、おそらく民家を襲うつもりだ」

「襲うって……」

「あの様子からして、奴らは盗賊シーフだ。

民家に押し入り、住人を脅し、金品を奪う。酷い場合はその上で、住民を殺める。  それが、盗賊シーフという奴等だ」

 イズナは、ごくりと唾を呑む。


「ここで止めないと、住民は無傷では済まない。今から作戦を話す。

お前は、俺の言う通りにしろ」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 盗賊は今にも、ドアを持っている斧で破ろうとしていた。


 その時、イズナが勢いよく飛び出す。


「待て!」


「ああ……? てめえは誰だ?」

 向かって右の中肉中背の男が、イズナをいぶかしそうに見る。


「民家を襲うのは止めて、大人しく引き返せ! そうすれば見逃してやる!」

 イズナは大声で叫ぶ。

「このガキ、舐めてやがるぜ……ぶっ殺してやる! 

おい、先におめぇは民家を襲ってろ! あいつをぶっ殺して、俺も加わる!」

「分かったぜ、兄貴……」

 そう言って、もう一人の長身瘦躯の男はドアを破るために斧を振りかぶる。

 そこに、ギルゼの投げた尖石が飛んできた。コントロールされたそれは、細身の男の顔面を強打した。

「痛え!」

 思わず、男はこけた顔を押さえる。

 その隙をついて、ギルゼは素早く男のもとへ駆け寄り、そして首に一撃を入れる。   

その正確無比で強烈な一撃は、男の意識を闇に引きずり込むのには充分だった。


「おい! お前……!」

 弟がやられたのを見て、さらに中肉の男は激怒する。

 かなり短気な性格なようだ。


 しかし、ギルゼの方ではなく、イズナの方へ突進してきた。おそらく、ガキの方が容易たやすく殺せるとでも思ったのだろう。


 斧を振り下ろす! それを間一髪で躱す。斧が地面をえぐる。なかなかの力の持ち主だ。掠っただけでも、軽傷では済まないだろう。男は更に振りかぶって、一撃を喰らわそうとしてくる。それを見て、イズナは大きく右の方へ回転して躱す。しかし、起き上がると斧は振り下ろされておらず、次の瞬間……強烈な蹴りがイズナの腹部を襲った。斧を振り下ろす振りをして、フェイントをかけられたことに気付いたのは、地面に強く叩き付けられた後だった。

「ぐっ!」

 激痛に、イズナは悶絶する。

 そうすると、不思議なことが起こった。

 イズナのポケットの中の銀貨が、男の手に吸い寄せられていったのだ。


「チィ! 50ダイム硬貨4枚ぽっちか! 全く、とんだクソガキだ!」

 どうやら、更に頭に血が上ったようだ。


「何だ……? 硬貨が勝手に……」

 イズナは、今起こったことが理解出来なかった。

 そうしているうちに、男は斧を思い切りイズナの方に投げようとしていた。

 避けないと、タダでは済まない……

 そう思っていても、体が動かなかった。

 斧が手から離れるのを見る前に、イズナは目をつむった。



 暫くして……目を開けると……

 イズナは自分の体のどこにも斧が刺さっていないことに気付く。

 まさか、運良く外れたのか?

 しかし、斧はイズナの近くには見当たらない。

 辺りを見渡すと、斧はイズナとは遠く離れた場所に刺さっていた。 

 いくらなんでも、あんな見当違いの方向に飛んでいくはずがない。 

 再び、イズナは現状が理解出来ず、困惑する。


 男の方を見ると、地面に倒れていた。その背中の上に、ギルゼが立っている。

「お前……いったい、何をした……?」

 男も、今起こったことが信じられない様子だ。

「なーに、手首の筋肉の自由を奪って斧の飛ぶ方向を変え、ついでに両膝の関節の自由を奪って、お前に自分から崩れ落ちてもらっただけさ」


「くっ……肉体の自由を奪う能力……

お前……まさか、Σ《シグマ》第三隊長・ギルゼか?」

「ほー、いかにも俺はギルゼだが。こんな田舎の盗賊シーフにも俺の名が知られているとはな。いやはや、驚いた」


イズナは何が起きたか理解は出来なかったものの、ギルゼがかなり手練れの能力者だということは理解したのであった。




<次話へ続く>

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stolen 無天童子 @muten-douji

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