第5話

 イズナ達は、とある洞窟の入口にたどり着いた。


「ここは……」

 イズナは、洞窟の奥から独特の気配を感じていた。


「ほぉ……分かるか、お前にも」

「ええ、この洞窟の奥の方に何かがあるのを」

「感覚が鋭いようだな、お前は。ここから例のアレまでは遠いんだがな」

 そう言って、ギルゼは再び歩を進め始めた。


 10分ほど歩いただろうか?

 イズナは入り口で感じた何かが、天然物の放つオーラだと気付く。

 そこにあったのは、まばゆいほどに光る、透き通ったエメラルドの巨石だった。

「眩しい……」

 強い日の光の下に居るかのように感じる。目を開けることが出来ない。


「ほれ、ちょっと触ってみろ」

 そういって、ギルゼに右手を引っ張られる。


 触れると、巨石は更に眩く光る。

 そして、イズナの体が光に包まれた。

「⁉」

 体の血液が、水色に光っている。


「こ、これは! 一体、何なんですか!」

 イズナは取り乱し、慌てふためく。

「ハハッ! 大丈夫だ、大したことはないさ。この石に触れるとな、お前の持っている能力に関して少しだが情報が得られる。とは言え、血液が水色に光るのは初めて見たがな」

「初めてですか?」

 イズナは、ゆっくりと巨石から手を離しながら尋ねる。


「ああ、だが噂には聞いたことがある。

20年ほど前に、ローブ姿の40歳ぐらいの男が同じような石を触った時も、今みたいに眩い光と共に、血液がそれはそれは美しい空色に光り輝いたらしい。その男は、当時最凶・最悪と言われた盗賊団シーフをたった一人で全滅させたそうだ」

「たった一人でですか?」

「ああ、盗賊団のメンバーは12名ほど。全員がかなりの武闘派で、おまけに厄介な能力を持っていたというんだから、全くもって驚きだ……」


「その男の人は、どんな力を持っていたのですか?」

「さあ、それは分からん。だが、男が静かに一言呟くと、盗賊どもはその場に崩れ落ち、その後二度と動かなくなったそうだ」

「たった、それだけで……!」

 イズナは、その圧倒的な力をすぐには頭で理解出来ず、困惑する。


「お前の両親を廃人にしちまった奴もかなり強力な力を持っているが、その男は更に恐ろしいな……何せ触れることもなく、人間の息の根を止めたということだからな……まあ、噂話に尾ひれが付いただけかもしれんが。その男は、それっきり消息不明という話だ」


「えーっと……じゃあ僕の能力については何も分からないということですか?」

 その問いにギルゼは少し首を捻り、しばしの沈黙の後、答えた。

「いや、一つだけ分かることがある」

「それは……?」

 不安そうに、イズナが尋ねる。

「お前の能力は、状況によって多種多様に変化する可能性が高いということだ」




<次話へ続く>

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