第9話 隠密と凶刃

「カインさん、やりましたね!ステラちゃんの死霊術しりょうじゅつがあれば魔者まものさん達が復活できますよ!」


 エールがカインの手をぐいぐいと引っ張る。


「何してるんですか!早くお墓をり返しに行きましょうよ!」


 事情を知らない人が聞くとかなりサイコみている発言を、満面の笑みでエールが言う。

 しかし、カインは怪訝けげんそうな顔でその場から動かなかった。


「ステラ。このたましい全部を持ち主の身体とつなぐことは可能か?」

「んーん。一人のたましいを身体に戻すのはね、沢山さくさんちがたましいを使うんだよ」

「……やはりか」


 つまり、魔王城の魔者まもの達全員を生き返らせるためには、さらにその何倍ものヒトを殺さなくてはならないことになる。


「そんなぁ……上手くいくと思ったのに……」

「そう悄気しょげるな。たましいが残っていただけもうけ物だ。この先復活する手段も見つかるかも知れないぞ」

「……そうですね」


 そうしている間に、ステラは大量に浮いていた魔者まもの達を全て集め、自分の身体……もとい、たましいに吸収した。


「ふー、お腹いっぱい」

「ステラちゃん、今全員中にいるの?」

「うん。とってもにぎやか」

「そっかぁ。魔者まものさん達の事、よろしくね」


 エールは優しくステラをなでなでした。ステラは「ん〜」と言って人懐ひとなつっこくエールに抱き着いた。

 一応死体のはずだが、身体から変なにおいはしない。むしろ、天日干しで乾かした洗濯物せんたくもののような良い香りに包まれていた。


 か、か、かわいぃぃぃ……!!


 エールは胸がきゅんきゅんした。余りにもきゅんきゅんし過ぎてそのまま死んでしまいそうだ。

 一瞬いっしゅんで心を鷲掴わしづかみにされた彼女は、ステラをぎゅーっとしながら良い子良い子しつつヨダレをらし、頭髪とうはついではとろけ、また頭髪とうはついではとろけてをり返していた。

 ステラはエールの胸にはさまれてもごもごしている。


「お前さん達は何をしているんだ……。早く飯にするぞ。ステラも一緒に、な」

「はーい!」


 エールとステラは手をつないでカインに続いた。


 __が、平和な食事シーンは一時お預けとなる。

 女神エールはふと何かに気付いた様子を見せ、「え?」と声を上げて素早くり返った。


「……おねーさん?」


 エールはステラを自分の後ろにかくし、何も無い空間を凝視ぎょうしした。ステラの声でカインも異変に気付く。


「どうした」


 エールは真剣な声で二人に知らせた。


「いえ……そこに、何か……」


 __すると、何も無いはずの空間から舌打したうちが聞こえた。


「クソが」


 女の声。ほぼ同時に、そこからナイフが突然とつぜん飛び出した。凶刃きょうじんはエールの首元を的確にねらう。


「きゃあっ!!」


 エールは寸手すんでのところでつえを出現させ、間一髪かんいっぱつ軌道きどうらすことに成功した。


「エール!」


 カインが一瞬でエールの前に立ちはだかる。


「カインさん、今のは……!」

「__ついに来たか、勇者!」


 魔王は眉間みけんしわを深めた。

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異世界勇者は魔王が斃す ~女神に頼まれてチートスレイヤーにさせられた件~ 伊瀬井セイ @iseisei

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