第16話 エピローグ
動かなくなったおばあさんの横でひそひそ声がしています。
「ねえ、もういいでしょう? かわいそうで見ていられない」
それは……たしかに、おばあさんのかあさんの声でした。
「そうだな、いよいよ北の国へ連れ帰るときが来たようだな」
野太い声は、おばあさんのとうさんにちがいありません。
――かあちゃん、とうちゃん。
迎えに来てくれたんだね。
「少女に帰ったねえさんは、きっときれいに飛べるだろうね」
可愛らしい男の子の声は、仲良しだった弟のものでしょう。
「これからは、かあさんもぼくたちと一緒にいられるんだね。ね、そうでしょう?」
ああ、それはまぎれもなく、ハルピン避難所で生き別れになったトウイチでした。
「北の国で待っているトウヘイくんも安心してくれるだろう」
とうさんの声は、はるか北の空に向けられているようです。
おばあさんの夫は敗戦直後にソ連国境で狙撃され、肩に大けがを負っていたので、みんなと一緒に懐かしいふるさと日本へ飛んで来ることができなかったのです。💦
*
すこしずつ冷たくなってゆくおばあさん。
その頬をいく筋もの
――みんな、迎えに来てくれてありがとうよ。
おかげで、わたしは、最高の幸せ者だよ。
苦労の多い人生を歩んで来て、湖畔の小さな雑貨店を守り通したおばあさん。
さいごの微笑みを見たのは、ぴったりと寄り添った4羽の白鳥家族だけ……。
*
満月のこうこうと明るい晩でした。🌔🌟🌌⭐🌠
5羽の白鳥が湖を飛び立ちました。🦢🦢🦢🦢🦢
おばあさん鳥を挟んだ家族はひとかたまりになって、北の空へ消えて行きました。
板戸が開け放たれた小さな雑貨店の土間に、白い羽毛が1枚、のこされています。
【完】
桃の花が咲くころに 🌺 上月くるを @kurutan
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます