第17話 りまたかのくに
薄暗く湿った空気が漂う森のなかをクレイ、魔王、ウィルシュは進んでいく。
木々が生い茂っているせいか、日の光が入ってこない。地面に落ちた枝を何本も足で折りながらクレイ達は盗賊団のアジトがあるという森の奥へと向かっていく。アリアステレサからでて約1時間、足を休ませることがなかった。
『まだ着かんのか』
魔王の声にクレイは森に入ってから何度目かのため息をつく。魔王は口癖のように『疲れた』など『まだ着かないのか』など愚痴を溢し、その度にクレイと口論になっていた。
しかしさすがに1時間も歩けばクレイも疲れのせいか魔王の言葉を返すのも面倒になり、苛ついたため息を吐くようになった。
「た、多分もう少しですよ! 森に入ってすぐにアジトがあるなんてことはないし、これだけ歩いたのでそろそろ……」
ウィルシュの声が止まる。
だが、それを不思議に思うものはいない。
クレイはもちろん魔王も愚痴を溢すのをやめる。
三人の話し声がやんだことによってより分かりやすく周囲の音を聞き取れるようになった。
近くにあるのだ、盗賊団のアジトが。
「……いるな」
「どうします?」
『無闇に飛び込むのは危険だろう』
魔王の言葉にウィルシュはこくりと頷き、木の影からそっと覗く。ウィルシュの視線の先には洞窟が口を開いており、そこからかすかに人の声が響いている。
「あそこですね」
ウィルシュはクレイと魔王に分かるように洞窟を指差す。クレイはウィルシュと目線の高さを揃えるとじっと洞窟を見つめる。丁寧に作られているのがわかる洞窟は高さは2メートルほどあり、人間は十分に通れる。しかし
「私やウィルシュは通れるが問題は貴様だ、魔王」
「バルゴさんの身長だとあの洞窟はギリギリですね……」
「ふむ……」
魔王の身長はあの洞窟よりも寸分高く、無理矢理入れば崩壊は免れないだろう。
「ならば我はここに待機だな。いやぁ仕方がないからな、入れないのは」
闘わなくていいと理解した途端、嬉しそうに頷く魔王にクレイは呆れたような視線を送った。
「確かに貴様がいれば事態は悪化するだけだろうからな。仕方がないことなのだが……腑に落ちん」
「我の分まで励むのだな、勇者よ」
「…一度その頭開いてやろうか……」
クレイはいつもよりトーンが低い声でボソリと呟く
ウィルシュはそんな二人の様子に慌てるしかなかった。
* * * * *
洞窟のなかへと入っていったクレイとウィルシュ。
洞窟内はいくつか壁に松明が差し込まれており、赤い光が散りばめられていた。
「よし、気を引き閉めていこう」
「はい! 」
クレイとウィルシュはそれぞれ気合いをいれると洞窟の奥へと進んでいく。松明が差し込まれてはいるものの光の届かない洞窟は暗く、視界は十分なほど見えることはなかった。だが進む度に反響する声が大きくなっていることから盗賊団に近づいているのは確かだ。
「もう少しか」
クレイが警戒を強める。するとウィルシュが立ち止まり、小声でクレイに話しかけてきた。
「何か見えてきました」
淡い光の向こうには空間がありそうな場所が見えた。声はそこから響いている。下品な笑い声に嫌気が差しながらもクレイとウィルシュは声を潜め、気配を殺す。様子を伺うために洞窟の穴からゆっくりと覗き込んだ。だがクレイ達の方向からはその姿を確認することができなかった。しかし声は変わらず、聞こえてくる。だがその声にもクレイは違和感があった。
「笑っている……。いや、それ以外の声が聞こえない……」
あまりにも長く反響する男達の笑い声はさきほどから寸分違わず、一定のリズムとトーンで発せられていた。その空間が異質に思えてくる。
「このままじゃらちがあかないな……」
「一度入ってみますか? 」
ウィルシュの言葉にクレイは頷くと原初の白銀を抜き、ゆっくりと広場へと近づいていく。そして瞬時に飛び出した。
「動くな! ギルドの依頼より貴様達を──」
クレイの言葉はそこで途切れた。いや、口が聞けなくなったのではない、頭が飛ばされたのではない。想像していた景色とは違うそれに驚き、頭に用意していた言葉を発せなくなったのだ。それはウィルシュも同じである。
そこにはきっとふんぞり返った盗賊団がいるはずなのだ。だがそこに佇むのは下品な笑い声を上げる肉の塊。鶏皮を巻いたような無防備な姿。その形状は歪に丸められた泥団子のようでそこから三本指の四つの手が下に伸び、足の役割を果たしていた。
クレイ達の存在に気付いたのか物体は器用に足となった手を小刻みに動かし、クレイ達へと顔を向ける。いつの間にか笑い声は鳴り止んでいた。
「ミ゜ーーーーーーーー」
丸い肉の塊に埋め込まれた五つの皮膚のない顔が奇妙なうめきをあげた。
赫々たる暁界にて鐘を灯す 野良黒 卜斎 @1004819
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